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……とはいえ、まあ。
一ヶ月待たせた上で更に蜘蛛が苦手だから何も言わずにスルーなんてのは不義理すぎるので、私はマァオさんちの二階で借りた部屋の窓からちょっとした贈り物をフォルカスに向かって飛ばした。
それは森の中で咲いているピンク色の、まさしく桃そっくりな花に私の魔力を付与したもの。
この森の植物、特にこの村周辺のものは不思議なもので、魔力を付与すると輝き出す特性がある。
精霊たちが多くいるためだなんて学説もあるけれど、本当のところはよくわからない。
なんせ、ここは精霊たちが歓迎した者たちしか踏み込めないので、ある意味研究とかで騒がしい人は来ることが出来ないもんだから……。
ま、それで問題になることなんて一切ないし、平和なこの村がやたらめったら騒がしくなるってのも風情がなくていやなので、このままでいいと私は思っている。
魔法の発展がどーたらと昔ここに連れて行けって騒いだ学者がいるらしいけど、知ったこっちゃないね。
(……フォルカスが、気づいたら、どうしよっかな)
この世界にも、花言葉なんてものがある。
風の精霊に頼んで運んでもらったあの桃色の花は、その花言葉が『あなたの虜』だなんてなかなか情熱的なお言葉だ。
ちなみに私は酒場のおねーさんに教えてもらった。
『イイヒトが出来たらそれをあげてみたらいいさ。あっさり捨てるような男なんて碌なもんじゃない。こっちから願い下げ。意味がわからなくても大事にしてくれる男なら、きっとアンタを大事にしてくれるよ』
色っぽさ抜群のナンバーワンなおねーさまに言われても説得力がなかったんだけどね!
まあともかく、これで私が村に来ていることはわかるはずだ。
それでフォルカスとディルムッドが一度戻って来るかもしれないし、もしかしたら増援依頼ってことで連絡を寄越すかもしれないし……それはないか?
「姉様? どうかなさいまして?」
「あ、イザベラ。ううん、なんでもないよ。あの二人に私たちが着いたってことを知らせる花を飛ばしたんだ」
「まあ、素敵ですね!」
先ほど自分も赤い花を受け取ったからか、イザベラは楽しげだ。
うん、まあ、自分でもちょっと乙女チックなことしちゃったなって後から恥ずかしさが来るな、コレ。
葉っぱにしとけば良かった。要は、魔力で誰からかわかるんだし!
(やっば、どうしよ)
本格的に恥ずかしくなってきたな……!
二人とも知っていたとかそういうオチになるとフォルカスが甘くなって厄介だし、ディルムッドがからかってくるのが目に見えて……やばくない?
「姉様? どうかなさったんですか?」
「え、いや、なんでもないよ! それより、マァオさんが晩ご飯の支度をしている間にちょっと魔力のおさらいしようか」
「はい!」
まあ、送っちゃったモンはしょうがないよね。
あとはなるようになれってやつだ!
やっちまったことを悔いるのは、未来の私に任せよう……。
私はそう頭を切り替えて、イザベラにおいでおいでとするとちょこちょこと歩み寄ってきて、少しだけ躊躇ってからベッドに座った私の横にちょこんと座った。
可愛い。
はい、可愛い。もう可愛い。
「魔力を巡らせるところからやろうか」
「はい!」
この世界での魔法は、イメージ。
だから自分の中にある魔力のイメージさえ掴めれば、それがスムーズに外に出て行く……つまり、魔法として発動すること自体がスムーズになるんだけど意外と知られていないっていうか、世間は〝魔法を使ったら魔力は外に出るのが当たり前〟っていう前提なんだよなあ。
結果として出来る人ってのは出来ない人がどうしてできないのか、理解出来ないアレが発生する。
魔力を持っていてもそれを使いこなせない人は、魔力が巡るイメージがないから外に上手く出せないだけなんじゃないかと私は睨んでいるんだけど、これがねえ……まあ、わざわざお偉いさんとかに教えないと今すぐ世界が滅びるとかじゃないので、いいかなって。
よく前世で見たラノベなんかである、魔法が使えなくて不条理な目に遭う人に遭遇したこともないし。
「そうそう、上手い上手い」
「本当ですか? 嬉しい!」
「この分なら、魔法書の内容もほとんどすぐ使えるようになるんじゃないかな?」
「よかった、これでわたくしも姉様のお役に立つことが出来るんですのね」
「やだなあー、イザベラはいてくれるだけで嬉しいし、生活面で私をサポートしてくれてるじゃないのー」
「もう、姉様ったら!」
とはいえ、イザベラは別。可愛い妹ですから!
ただ、本当にこの子ってば優秀なのよねえ。
私が教えた魔力を体中に巡らせるっていうイメージ、ほぼほぼ完璧にこなしてるもの。
初めの頃はコツが掴めず首を傾げてばっかりだったけど、機械都市で手に入れた魔道具を使ったらわかったらしくそれ以降は道具を使わなくても出来るようになってるんだから、大したものだよホントにね。
「精霊たちに会いに行くのは明日にしようか、私が仲良くしている精霊もいて――」
自慢じゃないけど、この村に住み着いている上位精霊や妖精族たちと私は結構仲良しなのだ。
土産話と一緒に妹自慢をしてやらなくちゃ。
そんな風に考える私たちの前で、窓から花が飛びこんできた。
青く輝くそれは私の周りをひらりひらりと舞ったかと思うと私の手のひらにポトリと落ちた。
「フォルカス様ですか?」
「うん、届いたみたいね」
「……情熱的なお返しですのね」
「え?」
照れるイザベラに私がきょとんとすると、彼女は小首を傾げて教えてくれた。
その花の花言葉と一緒に、王侯貴族では割と花を添えて手紙を送ったりしあうので、花言葉も考えてするものなのだと。
つまり。
(うわああああああ)
私のちょっとしたお茶目さが、あちらには丸わかりだということだ!




