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「綺麗……」
赤、黄色、緑……木々の間から見えるそれらにイザベラがうっとりとした顔を見せる。
それは馬車が進んでも一向に近づく気配がなく、彼女は不思議そうに首を傾げていて私はちょっとだけ笑ってしまった。
イザベラはそんな私に気がつくとちょっと照れくさかったのか、拗ねたような顔を見せたけれど好奇心には勝てなかったのだろう、すぐに明かりの方を指さした。
「姉様、あれはなんですか?」
「あれはね、精霊村への道明かりだよ。歓迎してくれるから、道案内の明かりをともしてくれているの。アレを追えば大丈夫ってね」
「まあ……親切なんですのね!」
「まあ、あの明かりに出会えないと最終的には森の入り口までぐるりと一周させられるんだけどね」
「先ほど話してくださった、隠蔽魔法の関係ですか?」
「そう。さっき明かりが見え始めたところがちょうど村への入り口の境目だったんだ」
本当は道が分かれているのだけれど、隠蔽されているから見えない。
迷い込んだ人がいたならば、そのまま。
だけど私のように精霊村があると知っていて、なおかつそちらを目指しているような人は歓迎する……住人たちがそう決めて案内を飛ばしてくれているのだから、まあイザベラが言うように親切ではあるのだろうと思う。
最初から人が来られないように細工して自力で来いってしているわけじゃないしね!
基本的に精霊村に暮らす人たちは穏やかだし、基本的に精霊たちが歓迎する相手以外を受け入れないスタンスってだけの話なのでそういう意味で考えればお互い困らない方法を選んでいるんだから、親切っていうか、合理的?
ひらりと赤い色の光がイザベラの前に飛んでくる。
それを手のひらで受け止めて、笑顔を見せるその姿に私はそっと笑った。
「イザベラのことも歓迎してくれるってさ」
「嬉しい」
光っていたのは赤い花。
色とりどりのそれは、森の花や葉に魔力を灯しただけの単純なものなんだけど、やっぱり何度見ても綺麗だ。
(喜んでくれたなら良かった)
旅をしている中、魔道具を使わせてイザベラの魔力について探ろうと思って機械都市に寄った私の思惑は間違いじゃなかったと思う。
一ヶ月ほどフォルカスとディルムッドを放置したことはまあ反省しているけど、それを補ってあまりある収穫があったのだ。
ざっと感じていたところでイザベラには聖属性以外に木属性の魔力があるということ。
聖属性を重視していた国元で、貴族令嬢であり王子の婚約者であったことから基礎的な魔法の使い方を座学で学んだだけで、実際には聖女として魔法を使う位しか経験がなかったこと。
でも私が思うに、聖属性もそれなりに大きいけど、木属性の魔力もそれに劣らないんじゃないかってこと。
使い込まれている分、聖属性の方が目立っているのは確かなので、今まで注目されることもなかったんだと思う。
まあ、確かに令嬢でそこまで魔法使うこともないしね……。
イザベラに依れば、魔力があるなしは多少なりとも婚姻を結ぶにあたり影響するらしい。
ないよりはあった方がいいくらいの軽いものらしいけど。
「あ、ほら。村が見えた」
「まあ……なんだか幻想的ですわね」
「この村では基本的に全て魔法で生活しているようなもんだからね、魔力が濃いからそれが霧みたいになっているんだよ。……人によってはあてられて気分が悪くなるみたいだけど、イザベラはどう?」
「今のところはなにもございません」
村の入り口に馬車を止めれば、一人の老婆が私たちを出迎えてくれた。
イザベラは彼女の登場に目を丸くしている。それが可愛くて笑ってしまいそうになるのを我慢して、私は馬車を降りて老婆と握手した。
「お久しぶりです、長老」
「ようこそ、アルマ殿。お連れの方も、どうぞごゆっくり」
そう、なぜなら――この老婆、人間サイズだけど猫の容姿をしているのだ。




