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その後、私たちは特に問題なく北の街道に入った。
途中途中、ディルムッドの姿を見つけてファンだっていう若手の冒険者達に声をかけられたこと以外は特別何もなかった。
ファンサするディルムッド、本当に人が変わったみたいににこやかだから笑っちゃうよね……私たちといる時は口が悪くてガラが悪いのに……。
地方にまでは王様の命令がきていないのか、あるいはそれをライリー様、もしくはサイフォード男爵が行えないようにしてくれたのかは定かではないけれど面倒ごとがないっていうのはありがたいよね!
(王様はともかく、サイフォード男爵は私たちジュエル級冒険者を敵に回す面倒とイザベラちゃん奪還を天秤にかけたなら自由にさせる方を選ぶだろうしね)
ディルムッドのことも、そりゃ王子として迎えられればとても頼りになったと思うよ。
なんてったって、ドラゴンを倒せる程の実力者で、なおかつイケメンだもんね。
アレクシオス殿下はまさしく物語の王子って感じの容姿だけど、ちょっと頼りなかったモンなあ。
でもディルムッドを王族に迎えるってのはとても難しい話。
なんせ認知してないんだから!
まあ、認知していたんならディルムッドの双子であるヴァネッサ様のことだって知っていなきゃおかしいんだけどさ……。
知ってたら知ってたで絶対面倒になること請け合いだけどね!!
ディルムッドとあのヴァネッサ様だぞ……? むしろ王家乗っ取っちゃうんじゃないかな……その方がある意味幸せな気もするけど。
(ディルムッドにその気がなくて良かったねえ)
ちなみに、ディルムッドが王の子供だって知って一番ショックを受けていたであろう人はアレクシオス殿下でしたー。
なんでだって思ったけど、唯一の男の子としてちやほやされて育ったんだろうねえ。
あの後ちらほら聞いた話によると、王子が生まれたことによって姉である第一王女も、側室の娘である第二王女も早々に嫁がせる事が決まったらしいからね。
年齢がちょうど良くて、その方が都合いいってことなんだろうけど……〝唯一の王子だから〟大切にされていたっていう部分がなくなれば、王子の存在価値が揺らいじゃうとかその程度なのも悲しい話だわあ。
「姉様?」
「うん、ほらイザベラ。見えてきたよ」
「ああ……」
ガラガラと行き交う馬車の、その数の少なさよ!
北に向けての街道は正直あまり使われていない。
なぜならここから先は険しい山道で、楽な迂回ルートを選ぶ商人達が殆どだからだ。
冒険者だって依頼でもない限り、わざわざ進もうとする人はいないもんね。
けれどまあ、フェザレニアに入るまでは雪がどうのってことはないからある意味この山さえ越えちゃえば隣国への最短ルートではあるんだけど。
通る人は大抵急ぎだったりするから、イイモノだったり情報だったりを運ぶ人が多いので山賊も結構な確率で出るってのが問題かなあ!
(いや待てよ、もし出くわして捕縛って形で討伐したら、あっちの国で報奨金になるかもしれない……?)
そしたらイザベラのギルド功績にするってのもアリだな……。
よし来い! 山賊!!
ついでに財宝もため込んでたらなお良しだ!!
「……この辺りの結界が、弱っているような気がいたします」
「そういや、今年はこの辺りに来る聖女の数が少なかったって話を聞いたな」
「はい。どうしても、嫌がる者を無理に行かせるわけにもいかず……例年であれば、わたくしが向かう予定でした。ですが、婚約破棄の一件で……」
「あー、なるほどね」
カルライラ領にいた時、ヴァネッサ様がイザベラのことを評価していたけど、多分各地方でそういうのはどうしてもあるんだろうなあ。
危険を顧みず、なんてまさしく聖女らしい行動を取れるかどうかは本人次第だもの。
聖属性に目覚めたからって、善行をせよって強制しているのが現状だもんね。
まあイザベラだって行きたくて行っていたかって問われると難しいところだろうけど……貴族としての責務だからって無理していたっぽいし。
そんな中頑張っていたのに、王子が婚約破棄なんてしたから地方では手が回らなかったところがあったっておかしくはないんだろうなあ。
うんうんと一人で納得する私に、そっとイザベラが耳打ちしてきた。
「それに、これは内密の話ではあるのですけれど……聖女は年々、数が減っているのです」
「へえ?」
「……そのこともあって、わたくしは聖女について知りたいなと思ったのです。教会の言葉は聖女を賛美するものばかり。始まりは、この国の者たちを守りたいと願う少女達に神が応えたという話ですが……なぜ少女だけなのか、消えてしまうのか、なくなってしまったらこの国はどうなってしまうのか……」
ぎゅっと手を握りしめるイザベラを、私はただ見ていた。
私からすると、この国が将来的にどうにかなっちゃってもそれはしょうがないんじゃないかなと思う。
だって、聖女がいなくて滅びるならばそれまでじゃないかなって思うのだ。
勿論、助けを求めてくる人がいればそれなりに手伝うとは思うけど……聖女ありきでなくば暮らせない世界なんて他では見たことがない。
「わたくしはもうこの国の聖女ではありませんし、貴族でもありません。ですが、……もし、何か彼女たちの手助けが出来るなら、と……思わずにはいられないのです」
「本当にイザベラちゃんはいい子だねえ」
「そ、そんなことありませんわ!」
思わず頭を撫でればイザベラは照れながら嬉しそうに笑った。
うーん、可愛い。
だけど、彼女のこの考えや行動はまさしく絵に描いたような聖女さまじゃなかろうか?
無償で人々に尽くし、己に出来ることを探し、人々の為に必死でやり遂げたっていう伝説の聖女そのものじゃなかろうか。
勿論、私は伝説の聖女みたいに一人で苦労するようなこと、イザベラにはさせないけどね!




