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それは、彼女が聖属性に目覚めて聖女として活動を始めてすぐに感じたことなのだという。
イザベラは貴族令嬢として、『聖女の役割』が国と国民を守るためにとても大切なものであるとわかっているのと同時に、聖属性に目覚めるのが十代の少女であり、国内の少女全てではないこと、稀に成人してもずっとその属性を持ち続けること、そしてなによりこの国以外ではそのようなことはないという不思議な点が気になっていたらしい。
もし他国でその必要がないのだとしたら、それはこの国にとって欠陥があることを補うために人為的になにかが関与したのではないのか……なんてことまで考えて荒唐無稽だと自身の役割に没頭したのだとか。
「ですが、今回の……婚約破棄に際してどの聖女が優秀だなんて、まるで聖女たちを競い合わせているかのような殿下のお言葉にわたくしも思うところがあったのです」
一体聖女というのはいつから現れたのか、どう選ばれているのか。
イザベラを次期大聖女に推薦したかったという話も出ていただけあって、彼女の中の聖属性魔法は今でも衰えをみせないらしい。
「勿論、この聖属性による魔法が今後も使えるのであれば……姉様や、他の方のお役に立てると思います。それは嬉しいことです。ですが、では何故わたくしなのかと……」
「相変わらず難しいこと考えてるのねえ」
進路を北方向にとりながら、フェザレニアに行くなら防寒着とかを途中で買わないといけないななんて考える。
もこもこファーをまとったイザベラ、可愛いんじゃないかな。
「……折角だから私も魔法を教えてあげようか」
「本当ですの!?」
「うんうん、本当本当」
私の使う魔法は特殊といえば特殊だけど、イザベラは妹だしいいんじゃないかな!
彼女は聖属性の他に、木属性も強そうだからそっち系統で……。
どうせフェザレニアに向かうにしても、北の修道院寄ってからその先色々と山やら国やら越えていかないといけないわけだし時間はたっぷりある。
「あ、そうか。木属性なら折角だから精霊村も寄ってみればいいんじゃない?」
「精霊村……?」
「そ。まあ普通は行けないけど、どうせそっちの二人も一緒に来るんだからあれこれ手伝わせればいいのよ」
「俺らは便利なオマケか」
「似たようなモンでしょ」
私の言葉にディルムッドがジト目でこっちを見てきたけど、知ったこっちゃない。
一緒に行動するなら是非ともお手伝いいただきましょう。
フォルカスを見習え、文句の一つも言わないぞ!
……まあ、彼の場合は私に対するアピールの一つかもしれないんだけども。
そう考えると照れてくるな。
「精霊村というのは、あの、聞いたことがなくて」
「そうだろうねえ、正式名称とかは特になくてね」
「え?」
「綺麗なところだよ、ちょっと気を抜くと連れ去られるけど」
ちょうど精霊界と人間界の交わる境目のようなところがあって、その周辺では人と交わったり周囲の生き物と共存したりする精霊達の姿が見られるのだ。
そもそも精霊はそこら辺にいるんだけど、シャーマン系の能力を持った人間とか相性がいい魔法使い(私みたいなね!)じゃないと普通は視認できない。
けど、そこでは誰彼関係なく見ることが出来るし会話だって出来るし、なんだったら精霊達が知識を授けてくれることだってあるのだ。
よっぽど気に入られないとなかなかないけどね!
知識を授けてくれるレベルの精霊となると高位精霊だから、あっちからしてみるとわざわざ人間に知識を授けるなんて好意がなきゃしない行動なのだ。
私は幸いにして精霊達とは仲良くなれたので、きっとイザベラのことも……って思ってのことだけど私の発言にイザベラは不安そうだった。
「どうしたの?」
「つれ、連れ去られるって……」
「ああ、大丈夫だよ。ほら、精霊が多いところって妖精とかもいるでしょ? 妖精はお茶目なもんだからお気に入りの子とかを見つけると妖精界に連れて行こうとするんだよね、あっちからすると好意なんだろうけどいい迷惑だよねえ!」
ケラケラと笑ってなんでもないことなんだよってしてみたけど、余計に不安を感じさせてしまったようだ!
おねえちゃん、不覚!!
「わ、わたくし大丈夫でしょうか。姉様の足を早速引っ張ってしまうのでは……」
「ないない。言ったでしょう? おねえちゃんが妹を守るのは当然なの」
イザベラは可愛いだろうから、ちょっかいかけてくる妖精はいっぱいいるだろう。
だけどそれは妖精だけに限らず、行く先々の町でも現れるかもしれない。
悪い虫は払ってあげなくっちゃね。
安心させるようにイザベラの頭を撫で回せば、目を丸くしつつもはにかむように笑ってくれた。
っあー! うちの妹が! 今日も可愛いです!!




