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「ベルリナ子爵令嬢……いえ、今はもうただのエミリアさんでしたわね。彼女の護送も、そういえばそろそろでしょうか」
「そうだねえ。……彼女の今後が、マシなものになるように祈ってあげる?」
「……わたくしに祈られても、彼女は嬉しくないでしょうから」
勿論、他のメンバーについても処遇は言い渡されていたんだけど、その中でも割とエミリアさんについては可哀想だなって思った。王子はざまあみろって感じだけどね。
だからといって彼女を擁護したり減刑を求めたりはしなかったけど。
彼女については子爵家から予想外の嘆願が上がって驚かされた。
なんでも、例のエミリアさんの母親と子爵の恋愛は本当の話らしいがエミリアさんは子爵の子ではないんだってさ!!
うん、ややこしいね?
まあなんというか、子爵と夫人は泣く泣く別れた後それぞれに結婚したけれど双方上手くいかず、再会して恋の炎が再び燃え上がった……ってのは事実だ。
夫人には既にその時エミリアさんがいて、彼女はすでに強い聖属性に目覚めていたのでそれに目をつけた子爵は再婚ついでに海老で鯛を釣るよろしく、上級貴族の子息を引っかけられたら儲けものってな感じで養女にしたんだそうだ。
だから、血の繋がらない娘が勝手にあれこれやっただけだから、子爵家は悪くない……だそうだ。
娘の減刑を嘆願するかと思ったら保身かよ、クズか!!
(周囲の冷たい目に気づかない子爵、ある意味大物だったよね……)
あれを思い出して、思わず遠い目をしてしまった。
無論、そんな嘆願はまかり通るはずもない。
学園での授業態度等、保護者である子爵に連絡が行かないわけもなく……知っていて是正しなかったんだからってことで、子爵家は降格処分の上、領地を少し削られるらしい。
そんでもってエミリアさん本人は貴族としての身分剥奪の上、修道院に送られることとなった。
『あたしは! ただ! イーライと一緒にいたかっただけなのよ……!!』
その判決に、彼女は泣き崩れて叫んだけど、誰だイーライってみんななったのは今となってはいい思い出だ。……いい思い出か? 深く考えるのはよそう。
とにかく、そこからエミリアさんが語ったことをまとめると、驚くことの連続だった。
予想に反して、彼女は別に転生者とかではなかった。
子爵と母親の再婚によって子爵令嬢になった彼女だけど、本当は平民時代の恋人と結ばれたかったんだとか。カレシいたのかよ!!
だけど貴族になってしまったので身分差からそれは望めないし、エミリアさんの玉の輿を狙っている子爵夫妻が許すはずもない。
そんな折にマルチェロくんが声をかけてきて、協力を求めてきたんだそうな。
『あたしが王妃になったら、なにもしなくていい。イーライを愛人って形にはなるけど、離宮で二人、一生暮らせるように手筈を整えるって……イザベラ=ルティエを王子の婚約者から落とせば、それで益を受ける貴族令嬢達は喜んであたしを助けてくれるって……』
その発言に顎が外れるかと思ったわ。
多分、私だけじゃなく、みんなそうだったと思う。
(そんなことあるわけないでしょうに……)
都合良く、仕事もしない王妃でいられるわけがない。
ただまあ、なくはないかなとも思った。
お飾りの王妃が引っ込んでいてくれて、パワーバランスで諦めた我が子を後宮に送り込み次代の王を手中にする。そんな野心のある貴族なら、あるいは……ってね。
(ま、今となってはマルチェロくんだけの計画だったのかどうかは闇の中だ)
聖女のお務めに関しては、好きでもない男に媚びを売る自分が汚く思えたことと、恋人への後ろめたさから教会に行くことも、聖女を名乗ることも怖くてたまらなかったんだとか。
(まあ、彼女も無知がゆえの犠牲者ってやつだったんだろうけどね)
貴族の姫君なんかにならなければ、今頃幸せだったのかもしれない。
結局好きな人と結ばれることもなく、修道院に送られるわけだけどね。
もし戻れたとしても、その恋人が彼女を待ち続けているとは限らなかったんだから現実は厳しいもんだ。
それでも、もし。
もしエミリアさんが、子爵令嬢として心機一転頑張っていたら未来は違ったのだろう。
いやだいやだと現状を嘆き、別れた恋人とやらと逃げ出す勇気もなく、流されることなく認めさせるだけの気概を持っていれば?
(できてたら苦労はしない、か)
ふと、視線を感じて私がそちらを見ればフォルカスがこちらを見ていた。
そして少しだけ躊躇うような素振りを見せてから、口を開く。
「あの娘が送られる先は、北の国境近くにある修道院だそうだ」
「? そうね、そんなことを話していたわね」
「……北の、フェザレニアに向かえば、途中で見かけることがあるやもしれん」
「フェザレニアって」
私は思わず言葉をそこで途切れさせてしまった。
だって、だってフェザレニアって、北にある国の名前で、それはつまりまあ要するに。
「……フォルカスの故郷じゃない」
「そうだな」
告白も受け入れていない状況なのに、故郷に誘うか? 普通?
思わずそう言いそうになったけれど、いやまあ私だってフォルカスのことは憎からず思って……というか、好き、ですし。
ただあんな状況で番だのなんだの言われても……ってそうだよ!
「ちょ、ちょっと待ってよ今更だけど私のことを番とかなんとか言ってるけどアンタも王族でしょう、フォルカス!」
「そうだな」
「そうだな、じゃないわー!!」
告白に苦情を申し立てるっていう部分は大いにあったけど、簡単に彼の想いとやらを受け入れるには問題が大きすぎて私が答えを濁しているのは、ここにある。
この先輩ジュエル級冒険者たちの抱える問題、それは〝やんごとなき血筋〟ってやつだったのだ。
ただの冒険者仲間として付き合っていくなら『そうなんだ、大変だね』で済むけども。
そんでもってただの恋人関係なら、まだマシだろうけども。
「そもそも番ってなんなの……」
「もしや、フェザレニアの黒竜帝伝説に関わりがあるのではございませんか?」
私の発言に目を丸くしていたイザベラが、おずおずといった様子で質問をしたことにフォルカスは鷹揚に頷いたのだった。




