42
それからエドウィンくんだ。
彼は自ら貴族を返上の上で、許されるならサンミチェッド侯爵家の人間と交流は続けつつ辺境で一兵士として民に尽くし、罪を償っていきたいと願い出た。
その殊勝さをよしとした王様はそれを受け入れ、交流に関してはサンミチェッド侯爵家に委ねるとしてくれた。
(まあ、ご家族は悲しんではいたけど……ほっともしていたっていうか)
ちなみに行き先の辺境地は勿論、カルライラだ。
多分だけど、ライリー様の口添えもあったから王様もすぐに認めてくれたんだと思う。
まあ頭が痛い状況しかないので、これ以上考えるのが面倒だったからオッケー出しただけかも知れないけど!
というわけで、ライリー様預かりでエドウィンくんはこれから平民として生きることが決まった。
ヴァネッサ様のお気に入りだから、しっかり面倒を見てもらえることだろう。
「……次に戻ってきた時、エドウィンくんがディルの義弟になってたら面白いなあ……」
「止めてやれ、可哀想すぎるだろ」
「え? ……ヴァネッサ様は確かに年上でしょうけれど、美しくてお優しい方では……」
「あー」
そうだよね、イザベラはヴァネッサ様のドレス姿しか知らないからしょうがないね!
私たちが実はあの人も凄腕の軍人なのだと教えてあげたら、とても目を丸くしていた。
まあ、年下好きでちょっぴりSッ気があるってところは黙っておいた。
教育上、よろしくないので!!
「まあアイツは俺と同い年だから、別に範囲内っちゃ範囲内だろうけどよ」
「あら? でも……」
ふとイザベラが考え込むのが見えて、私たちは苦笑する。
ディルムッドがライリー様の末っ子ということは明かされて初めてイザベラも思い当たったらしいけど、確かに貴族名鑑に名前があったと後で言っていたのを考えればそこにある違いに彼女は気づいたのだろう。
「貴族名鑑は提出された書類を処理しているだけだからね」
「えっ、それって……」
「王が秘密にした子供は、ディルムッドだけじゃなかったってこと!」
当時、ライリー様と奥方様とで話し合った結果だ。
本来の誕生日でヴァネッサ様を提出し、その翌年にディルムッドを提出した。
ちょうど辺境地が慌ただしく、社交界にあまり顔を出していなかった奥方様は『あまり良い状態ではなかったので心配をかけたくなかった』とかなんとか周囲に誤魔化してヴァネッサ様を生んだことにしたんだそうだ。
そしてディルムッドは事情があって育てられないという親戚の子を引き取った、という筋書きで迎え入れる。
どうしてそんな面倒なことをしたのかって私は思わずにはいられないけど、ライリー様は遠いながらも王家の血が流れてるから、守らなければならない立場だから、なんだと思う。
ディルムッドには自分の人生を好き勝手されたくなかったら強くなって手が出せない権力を手にしろって育てて、結果ジュエル級冒険者になったわけですが。
同じようにヴァネッサ様にも真実は伝えてあるらしく、万が一王家に何かがあった時のことを考えて、手元に一人残したってことなんだろう。
(まあ、確かにそう考えればディルとヴァネッサ様なら、どっちが人の上に立つ存在かと問われれば……)
ライリー様が分け隔てなく二人のことを大事に育てていたことも、今も大切に思っていることも私は知っている。
だから今後もあの王家が妙なことを仕出かさない限り、ヴァネッサ様が不幸な女王様になることはないんだろう……と思いたい。
「や、あの人なら全部ぶっ飛ばしてなんとかするか」
とりあえず、あの人に今後振り回されるであろうエドウィンくんを思って私は心の中で手を合わせておく。
隣でイザベラがディルムッドから説明を受けて色々と複雑そうな顔をしていたけれど、何も言わない。
本当に頭が良くて賢い子だなあと私は感心した。
「エドウィンのことは心配ですが、いつかまた……会えると良いですわね」
「そうだね。その時にはイザベラも土産話がたくさんあると思うよ」
「はい!」




