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「だって、王子も含めて学校に何しに行ってたの? みんなにちやほやされに行ってたんじゃないでしょ?」
「そんなはずなかろう!」
学校だか学園だか学院だか、私にとっちゃどうでもいいことなんだけど王子は私の発言にかなりご立腹らしく、いかに貴族令息を含めこれからの国を支える逸材が切磋琢磨する環境なのかを熱弁してくれた。
うん、話は半分以上聞いていなかった。
反省はしていない!!
まあ王子がひとしきり話して満足したらしいタイミングを見計らって、私はビシっと言ってやることにした。
「……ということだ、わかったな!」
「じゃあやっぱりなんもわかってないじゃない、王子」
「なに……!?」
「特待生として入って今後貴族の令嬢として婿を取り子爵家をもり立てていかなきゃいけないベルリナ子爵令嬢は『平民上がりだから』を言い訳に授業をサボりまくって一年を無駄にした挙げ句に貴族としての自覚も持たず税金で贅沢して暮らしているのに義務を果たそうとしていないってことじゃない」
ワンブレスで言い切ってやったわ!
私のその言葉に怒りで目を吊り上げていた王子も思わず目を白黒させたけど、そんなので私が遠慮するとでも?
「平民上がりで苦労もあるだろうって気に掛けるのはいいけど、甘やかすことと優しくすることは別だよね? 普通ならそこを注意して一緒に頑張ろうって声をかけてあげるのが王子の役目だったんじゃないの? イザベラちゃんはそれを理解してたからそうしてあげてたんでしょ、それをやれ嫉妬だなんだって馬鹿だとしか言いようがないんだけど?」
「そ、それは、しかし……」
「しかも話を聞く限り、イザベラちゃんが率先して注意することで王子の婚約者が叱責したんだから、それ以上を下位の貴族令嬢達がしたらイザベラちゃんへの不敬になるってことで、彼女を守っていたんでしょう」
「……それ、は……」
王子はそこまで説明されて、思うところがあったのかさっと顔色を青くして俯いてしまった。
いや、平民の私にそこまで言われて悔しくないのか。
ただ、正論しか言ってないけどな!
言い返せるもんなら言い返してこいや!!
「それにわたくしは彼女の勉強を手伝うこともいたしました。課題も、居残りを付き合うことも厭いませんでした。殿下は、なにをなさったのです?」
「わた、私は……私は、淑女についてのことは、知らぬ……」
「そうよ! アンタがいなくなったら誰も、誰もあたしを爪弾きにするばっかりで……アンタがいなくなったのに、全然! 楽しくならない! なんでよ!?」
「本来自分のことは自分でするものですわ」
「それは平民だとか関係なしだねえ」
エミリアさんはちょっと、色々勉強し直した方がいいんじゃないのか?
呆れてしまったイザベラちゃんに、私も大いに賛成する。
「聖女だって、あたしの方が強いはずなのに……なのに、なんでイザベラ=ルティエ、アンタばっかり!」
「まともに能力の勉強もせず、祈りも参加しないのであれば難しいでしょう。教会からは清掃活動から地道に行うよう再三言われていたでしょう?」
「あたしは! 貴族になったのよ!? なのになんで掃除なんて……ッ!」
「……呆れて物も言えませんわ。殿下、これでも全ての根源がわたくしにあると、今でもお思いですの? 本当に、少しでも幼い頃からの婚約者を信じる気持ちは、持っていただけなかったのですか」
イザベラちゃんの訴えに、王子はしばらくモゴモゴと口元を動かして、俯いた。
今まで可愛いばかりだったエミリアさんのヒステリックな様子に、百年の恋も冷めたってやつかもしれないが自業自得だ馬鹿者め!
まあ、私は空気読めるおねえちゃんなんで、イザベラちゃんの活躍の場で水を差すようなことはしませんけどね!
「……たし、かに、イザベラ=ルティエはそんなことをしないと、おも、思わなかったわけでは、ない。だが……だが、マルチェロが……」
「んん?」
ここでもまたマルチェロくんか!
そういや辺境伯んとこに来た経緯もマルチェロくんだったし、やっぱりどうあっても黒幕はマルチェロくんなんだよなあ。
イザベラちゃんもそれを察しているのだろう、厳しい表情だ。
「他の誰でもないマルチェロが言ったんだ。妹が、嫉妬に駆られてエミリアを虐げていると。止めさせたいし、罪を償わせるべきだと……手筈を整え、イザベラ=ルティエが言い逃れできぬ学園のパーティーで罪を公言し、身分を失わせた後はすべて受け持つからと……!」
「そんな」
イザベラちゃんが真っ青な顔で震えている。
私は彼女の手をぎゅっと握った。それにハッとした様子で、イザベラちゃんも握り返してくれた。
「じゃああのオンボロ馬車も、ちょっと野盗が襲ったくらいで逃げ出す護衛も、ぜーんぶマルチェロくんがやったことなんだ?」
「なんだって? 彼女は確かに罪を犯したが、カルライラ領でしっかりと罪を償うからと……エドウィンが、付き添うと言ってくれたと……」
「僕はそのようなことを言っておりません!」
ここまで黙っていたエドウィンくんが、俯いたままだったけれどはっきりと声を上げた。
ヴァネッサ様たちに何を言われて彼がどう考えたか私にはわからないけれど、イザベラちゃんと話していた彼は自分の過ちを知っていた。
(今更自己弁護の言葉が出てくるとは思わないけど……)
「僕はマルチェロ殿に言われて、王太子殿下となるアレクシオス殿下の命をカルライラ辺境伯に伝える役目でした」
そうだねえ、あの頃は『アレクシオス王太子殿下』って言ってはライリー様に怒られてたもんねえ。
まだほんのちょっと前の出来事だっていうのに、懐かしいから不思議だ。
まあ、残念ながらほっこりした私とは裏腹に、サンミチェッド夫妻は今にもぶっ倒れそうだけど。
「……そうだ。面倒だった王子も、幼馴染みヅラで厄介だったエドウィンも、これを機に一掃できると思ったのにまったく、ここまで整えてやっても成功しないだなんてこれだから使えないヤツは嫌いなんだ」
ここまできて、ようやくマルチェロくんが言葉を発した。
イザベラちゃんを見つめたまま、いらだたしげに、憎々しげに発せられたその言葉に王子とエドウィンくんが弾かれたように彼の方へと視線を向けた。
「お前らがもう少しちゃんと役目を果たせば、ゴミ掃除が一挙に出来て国にとっても幸いだったのにな。おれの目的達成の、副作用で国まで良くなるんだ。黙って消えてくれれば良かったものを」
がたんと椅子を倒す勢いで立ち上がったマルチェロくんに、騎士がその行動を制しようと近寄って弾かれる。
「……ありゃもう、ダメだね」
その様子を見て、私はぽつりとそう零したのだった。




