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王都までの道のりはまあ……それなりに大変でしたよ、ええ。
野盗が出たとかモンスターがとかそんな冒険譚みたいなものはひとっつもなく、行程そのものは天候にも恵まれたおかげでとても良かったと思う。
なかなかないよ? 行程全部が良い天気に恵まれて、道も混まずに進めるなんて。
馬車旅をしているとどっかしらトラブルがあって、それを行き交う人たちが助け合うってのが暗黙の了解だけどそういうのもなかったし。
いやあ平和って素晴らしいね!!
……と言いたいところだけど、王子がすっかり顔色を悪くして途中休憩したり私やイザベラちゃんが回復魔法をかけたりなんてこともあったんだよね。
果たしてそれが馬車による強行軍のせいなのか、サイフォード男爵の説教のせいなのかは不明だけど。
(まあ甘やかされて育ったオウジサマにはいい薬だったんじゃない?)
ちなみにエドウィンくんは思ったよりも元気そうだった。
ライリー様と二人の馬車とか緊張しているだろうなあと思ってたんだけど、意外や意外、なんか師匠と弟子っぽい感じになっていた。
カルライラ・ブートキャンプのボスは確かにライリー様だけど、ヴァネッサ様にはあんなに怯えていたのにその差は一体。
いや、聞いたらヤバい気がするので私は何も見なかった。
そんなこんなで王都に辿り着いた私たちは、王城の裏口からこっそりと入城を果たしたのであった。
なんでこんな隠れる必要があるのさって正直思わないわけじゃないけど、仕方のないことだと理解もできるから複雑だ。
イザベラちゃんは悪くない、だけど不名誉な方法で陥れられてしまった彼女は良くも悪くも人目について噂の的となるだろう。
それを避けるって意味でも裏口からこっそりってのは合理的だ。
表側からじゃあ、こっそり……って言っても誰かしらの目に止まるだろうからね!
「アルマ姉様……」
「大丈夫、イザベラちゃん。今日も可愛いからね!!」
私が清潔に保つための魔法もバンバン使ったからイザベラちゃんは今日も輝いているよ!
ちなみにこの魔法はイザベラちゃんも使える。
けどほら、妹を磨くなら私がやりたいじゃない!
清浄魔法はごくごく一般的な魔法で、衣服を綺麗にしたり体を綺麗にしたりと便利な魔法だ。しかも消費魔力が少ないと来れば魔力持ちなら是非覚えたい魔法である。
無属性魔法と呼ばれる分類なので、属性に偏りのある人も使えるのもいいところだと思う。
ただ、この無属性魔法は召喚魔法と並びちょっと厄介なところがある。
それは呪文や魔力の流れをどうこうというよりも『イメージする』という部分。
魔法で綺麗にしていくイメージと言えば簡単なんだけど、それができる人とできない人がいるのよねえ。
だから結局のところお風呂とか水浴びとか行水とか、そういうのはどこでも行われているんだけどね……でも大丈夫!
私クラスになれば一瞬で全身どころか服から靴までピッカピカ!!
イザベラちゃんも聖女のお勤めの際には重宝していたって言う話だったけど。
「髪型もそれで似合ってるし、うちの妹は最高に可愛いよ!」
「もう、姉様ったら……」
不安そうにしているイザベラちゃんに私がそういえば、少し気分が落ち着いたのか強ばった表情ではあるけれど笑顔を見せてくれた。
そうだよね、緊張しないはずがないよね。
言うなれば魔王城に攻め入った勇者の気分?
いやわかんないけど。
私たちはサイフォード男爵に連れられて、豪奢な客間に案内された。
王子? 途中で屈強な騎士達に連行……じゃなかった、介抱されながら自室に向かったみたいだよ!
「それではこちらの部屋をアルマ殿に。イザベラ=ルティエ様には別のお部屋を……」
「いやです」
「しかし……公爵令嬢であるイザベラ=ルティエ様をお迎えせよとのことで、そうなると」
「アルマ姉様と一緒の部屋でなくば、わたくしは王城を去ります」
きゅっと私の手を握って震えながらもきっぱり意見を言うイザベラちゃん。
うん、そうだよね。おねえちゃんも同意見だよ!
「サイフォード男爵を信じてないわけじゃないけどさ、こうまでイザベラちゃんを放置しておいていきなり王城に招くなんて罠かと疑われてもしょうがないと思わない?」
「しかし……」
「それとも、ジュエル級冒険者である私では彼女の護衛は務まらないとでも?」
「……さすがに、そのようなことは思っていないし罠などないと誓う」
「あなたがそうでも、他の人は? 彼女を陥れた人物が、他に内通者がいないと言い切れるの? 王子が彼女によりを戻してくれと泣きつきに来たら、彼女の部屋を担当する侍女は王族の入室を拒めるの?」
実際問題、そんなトンチキな話はないと思うけどね!
いっくら追い詰められていたとしても、さすがにご令嬢相手にそこまで……いや、一方的に婚約破棄をしてあんなボロ馬車に押し込んで強制労働とか言い出す王子だもんな、ないとは言いきれないな……。
私の若干攻撃的な言葉に、サイフォード男爵が苦いものでも口にしたかのような表情をしている。
でもここは譲らないよ!
男爵には男爵で役目があるんだろうけど、私は私で妹を守るおねえちゃんですから。
「王城でゆっくりするつもりはないんだ。呼んでおいて時間も取れないっていうなら、私たちは早々にここを辞去させていただきたいのだけれど、どうかしら?」
私のその言葉に、とうとう男爵も諦めたらしい。
うなだれて了承してくれた。
……あれ、なんかちょっと、ごめん……?




