30
それからきっちり二日後の朝、私たちはライリー様たちと共にカルライラ領を発った。
ライリー様はエドウィンくんと、私とイザベラちゃんがそれぞれ馬車に乗る。
本当は大きい馬車で一緒くたでも構わなかったんだけど、そこはライリー様の配慮らしかった。
さすがライリー様、怒らせない限り紳士だわ……。
ちなみに王子はサイフォード男爵と一緒の馬車。
この二日間、ずーっと男爵が王子に説教をしていたらしいんだけど王城に着くまでも説教らしいよ。
いい気味って思った私は悪くない。
「馬車旅は久しぶりだからちょっと新鮮だなあー」
「アルマ姉様はいつも徒歩でしたっけ」
「うん。でもイザベラちゃんと旅をする時には馬車を買うからね。あ、クッション足りてる?」
「大丈夫です、もう姉様ったら……カルライラ辺境伯様がご用意なさった馬車ですのよ? 十分座り心地の良い物ですわ」
「ならいいんだけど……辛くなったらすぐ言ってね?」
コロコロと笑うイザベラちゃんは可愛い。
つい先ほど、エドウィンくんと少し話して和解をしたこともきっと彼女の気持ちを明るくさせたのだと思う。
『……僕は、世間を知らない子供だったのだと思う。それは、言い訳にならないと気づいた。……でも、どうか謝罪をさせてほしい』
『エドウィン……』
『幼馴染の、イザベラ=ルティエ。そんな大切な友を、いつの間にか見失っていた愚かな僕が、申し訳ありませんでした……!』
『……きっとわたくしは、許すことはできないと思うのです。だけれど、わたくしもきっと、友を頼らなかったからこそ、あなたもわたくしを見失ったのでしょう』
『許されるとは思っていない。許してくれと願うこともしない。ただ、謝罪をさせてくれたことに感謝する』
『道は交わらぬようになったかもしれません。それでも、いつか……お互いに、もう少し大人になった時、気持ちは変わるかもしれません』
二人のその会話を聞いて尊いと思ったのは私だけじゃないはずだ。
エドウィンくん、成長したね……!!
これから王城に戻れば、彼も糾弾される対象の一人だ。
王子はそれがわかっているのかいないのか、とにかく自分は悪くない、周囲が唆したからだと言っては男爵に叱られているらしいけどエドウィンくんはただ黙って頷いただけだってライリー様は言っていた。
彼はきっと、罪を罪として理解したんだろうと思う。
その上で、きちんと今回のことを見届けて、受け入れる覚悟を決めたのだと思う。
え、待って。
一ヶ月も経ってないのにすごい成長したよね。
カルライラ・ブートキャンプがあったからってすごすぎない?
ヴァネッサ様、何したんだろう……。本当に、何したんだろう……。
出立の見送りに来ていた彼女の方を思わず見たけど、微笑んで手を振られただけだった。
それに気がついたエドウィンくんの顔色が、若干悪かった気がするけど……気のせいと言うことにしておこう。
「イザベラちゃん」
「はい、なんでしょうか」
「いざって時には私、イザベラちゃんを攫って逃げるから、頑張ってしがみついてね!」
「まあ!」
私の言葉を冗談と受け取ったのか、目を丸くしたイザベラちゃんがくすくす笑う。
ちなみに本気だけど、それは告げずに私も笑顔を返しておいた。
「はい、姉様。勿論ですわ。わたくしを連れて逃げてくださいませ!」
「……なんだろう、駆け落ちするみたいだね?」
「あら、本当ですわ」
自分で話題を振っておいてなんだけど、身分差で恋叶わぬ二人がするような会話だよね。
イザベラちゃんと顔を見合わせて、笑ってしまった。
馬車の中が私たちだけで良かった。
ライリー様が聞いていたら眉間に皺が寄っていただろうし、王子だったらやかましくなってしょうがない気がする。
まあ、もしかしたら御者さんに聞こえているかもしれないけど。
「ここから王都までは早くて五日だっけ」
「そうですわね、強行軍でそのくらいでしょうか。おそらく今回の場合ですと、要所で馬を取り替えての強行軍かと思いますけれど……」
「貴婦人連れて強行軍とか無理すぎない」
「普通に考えたらあり得ませんわ。ですけれど、脱走した王子もオマケでついておりますから……護衛の都合も考えると、強行軍にならざるを得ないと思いますの」
男爵の脳内では私も護衛として戦力にカウントされている気がするんだけどね?
直接お願いされていないから、王子のことは守る気ないかなあー。
イザベラちゃんは当然! 私が守る!!
ライリー様はまあ、ほっといても大丈夫だと思うし……エドウィンくんは心を入れ替えたっぽいからピンチだったら考える。
男爵は護衛がいるから大丈夫だろうし、王子は……まあ、男爵頑張って。
「途中でどなたかが耐えられないようであれば休憩を取るとは思いますけれど」
「まあ、魔法で眠らせてあげるくらいなら協力してもいいけど」
「姉様、ちょっとそれは過激ではないかしら……」
「えっ、そう?」
いい方法だと思ったんだけど。静かになるよ?
でもイザベラちゃんが止めといた方がいいっていうなら、そうしようね!
「王都までの旅、馬車に乗ってばっかりだけど楽しもうね!」
「はい、姉様!」
二人なら、どこに行っても楽しいよ!!




