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手紙がイザベラちゃんの手の中にあって良かった。私だったらぐしゃっと握りつぶしていたね。自信がある。
(いやもう、どいつもこいつも!!)
どんだけ身勝手なんだっつーの!
イザベラちゃんをなんだと思ってるんだ。私の可愛い妹だぞ!?
きっと私の顔が今度は般若みたいになっていたに違いない。
ヴァネッサ様が横からつついてきて、イザベラちゃんに聞こえないように「顔、顔!」って教えてくれたからね……ありがとうございます、可愛い妹には見せらんないわ。
「まあ王様が悪いって思ってくれてたってことはわかった。私は、イザベラちゃんの意見を大事にするよ」
「……アルマ姉様……」
まあそのイザベラちゃんは私の妹だってこの場で宣言してくれているわけですけどね!
ふふん、これ以上嬉しいことはないわー、前々からそう決めていたとはいえ、改めて目の前で言われると嬉しいのなんのって。
王子は膝から崩れてるけど、知らん。
「どうして、……どうしてだ、イザベラ! お前は、私の事が好きだったんだろう!? だからエミリアにあんな酷いことを……!!」
ガバッと顔を上げたかと思うとそんな世迷い言をのたまう王子に、一瞬にして部屋の中の空気が三度くらい下がった気がする。
「まだ言うんだ」
「まだ仰るの」
そして私とイザベラちゃんが思わずといった感じで同時に言ってしまった。
いやん、姉妹仲が良すぎてタイミングまでばっちりだ。
思わず顔を見合わせて笑い合っちゃったよ、ごめんな、ラブラブで!!
「そもそも政略結婚ですもの。わたくしは、アレクシオス殿下に対し寄り添いたいと思ってはおりましたけれど恋情は抱いておりませんわ。幼い頃から共におりましたし、いずれはこの方と夫婦になるのだと思えば情は勿論ありましたが……それだって一方的な婚約破棄で消し飛びましたし」
「そりゃそうだよねえ、長く一緒にいていきなり『そんな女だと思わなかった!』ってちゃんと話もせず一方の発言だけ信じて碌な証拠も提出できないような男にかける情はないわー」
私たちの追撃に、王子はうなだれていくばかりだ。
周囲もコレばかりは味方もできないだろう、言いすぎだって止められるかと思ったけど、誰一人言わないし。
ヴァネッサ様なんて、支えようとしつつバツが悪そうなエドウィンくんをそっと王子から遠ざけてるし。
(……あれはもしかしなくても、ヴァネッサ様エドウィンくんのこと気に入ったな……?)
可哀想に、そう思わず声に出しそうになったがお口チャック!
ライオンの尻尾をわざわざ踏みに行く必要はないからね。
ヴァネッサ様、有能だし女騎士として強いのに貴婦人としても名を馳せていて〝カルライラの花〟なんて領民や部下達に慕われているけど、実は年下の可愛い男の子がタイプなんだよね……。
しかも素直で教育したくなるような、っていう前提がつくから困ったもんだ。
当たり前だけど、公にはされていない性癖なんだけどなるほど納得、エドウィンくんは見事なまでに彼女の好みどんぴしゃり。
頑張るんだ、エドウィンくん。
若干こっちに救いを求めるような眼差しを向けるんじゃない!
まあそれはともかくとして、男爵まで王子の味方をしないのには正直笑っちゃいそうだ。
男爵からしたら国内の危ういバランスを保つのに成功して今まで何事もなく過ごしてこられたっていうのに、王子の軽率って言葉じゃ許されない行動のせいでこれからについて頭が痛い状態だからしょうがないのかもしれない。
(……そのベルリナ子爵令嬢? だっけ? が現れるまでは、確かに噂じゃ王子はちょっと大事にされすぎている感があるけど、優秀な婚約者と共に穏やかな治世を築けるだろうなんて言われてたもんなあ)
確か漫画でも完璧すぎる婚約者に息苦しくなって、破天荒なヒロインに『自分を見てもらえた!』って喜びで恋に落ちるんだよね。
いやいやいや、お前さあ……って前世でもツッコんだ覚えがあるもの。
だってそうじゃない?
王子で次の王様って決まってるなら、結婚も仕事のうちでしょう。
完璧な婚約者に劣等感?
婚約者にあれこれ押しつけるつもりはないってところは、まあ及第点をあげるけど。
そもそも役割が違うんだからなんで役割を同等に考えているんだこの間抜けって思う私は口が悪いんだろうか。
(ま、声に出してないからいっか)
イザベラちゃんは、手紙を綺麗にたたみ直してから目を伏せて考えているようだった。
その様子に、男爵が言葉を重ねる。
「陛下はイザベラ=ルティエ様を賓客としてお迎えし、王子からの申し立てについてそちらの意見を伺いたいと仰せです。勿論、今回の件はあまりにもお粗末過ぎる内容ですので公爵令嬢に対し名誉回復をさせていただきたいということも含めております」
「……」
「ご同行願いたいとは申しますが、決して強制ではございません。陛下はご自身の誠意を示すために、やつがれめを向かわせたのでございます」
国王の右腕を、自分の代理として。
それは今の国王にできる精一杯ってヤツなのかもしれない。
なにせ、王子の行動をアホかとバカかと責め立てるのは簡単だけど、片方だけの話を聞いて処断してイザベラちゃんの名誉を回復ってしたとしても『めでたしめでたし』にはならないもんなあ。
「……わたくしは……」
誰もがイザベラちゃんの答えを待つ中で、彼女はゆっくりと口を開いた。




