2
とりあえず三人で歩くのに当たって、手枷を嵌められたボロ服の美少女ってなんか犯罪臭しかしない。
だから私はナイフを取り出して手枷を壊してやった。
キン、という音と共に落ちたそれをびっくりした顔で見る美少女……イザベラ=ルティエだっけ? 本当に目を丸くしちゃって、あら可愛い。
ついでにいうとエドウィンくんも目を丸くしている。
「き、貴様、何をした?」
「何って……ただ手枷を切り落としただけよ。コツがわかってれば金属だってなんとかなるもんなの」
「す、すごいですね……」
褒められると悪い気はしないよね!
ということで、二人からは名前を呼ぶ許可をもらって歩いた。まあエドウィンくんは最初反抗してきたんだけど、段々言うのも疲れたみたいで反論がなかったから許可が下りたんだと解釈した。
幸いにも行き着いた村はちょっと余裕があるらしく、馬車が借りられた。
ちょっと相場よりもお高めにお金をお支払いして、クッションと食料も積んでもらったのは子供達への優しさだ。
おかげで辺境伯の館がある町まで、思った以上にさくさく行くことができた。
まあ、私が馬に魔法をかけたりちょっぴりズルしたんだけどもね!
どうやらイザベラちゃんは気がついていたらしくびっくりした顔してたけど、私がナイショねってポーズを取ったら頷いてくれたので素直なイイコだなあと思ったわけですよ。
(……エドウィンくんはもうちょっと、人を疑うことを覚えていいと思うんだよなあ)
自分から侯爵家の息子だって名乗った挙げ句に冒険者証も確認しないで依頼をし、その挙げ句に馬車の中で爆睡って。
私が悪い奴だったらとっくに売り飛ばされてるぞ?
辺境に近づくにつれて人攫いとかがどうしたって現れるもんだからね。
国境付近なもんだから色々と厄介ごとも多いし、人の出入りも激しい。取り締まりもその分厳しくしてくれてるけど、広い土地ってのはどうしたって手が行き届かない。
(中央の貴族はそこを理解してないって話ではあるけど……)
辺境伯の治める町は賑わっている。
城壁に囲まれた町はいざとなった時の砦なのだから物々しいのはしょうがない。
私は門番に冒険者章を見せて、馬車を預かってもらった。
後で冒険者ギルドによって、誰かに村へ届けてもらう依頼でも出しておこうと思ってるんだよね。
「あ、あの……アルマ様」
「うん? どうかした? イザベラちゃん。様なんてつけなくていいよ」
「おいこら冒険者! 僕は疲れているんだ、罪人などに構わず辺境伯様の館へ早く案内しろ!」
「うん、それでどしたのかな?」
「ありがとうございました。わたくしを、嫌わず、お話をしてくださって……嬉しゅうございました」
「……」
なんだこの可愛い生き物。
私は思わず目を瞬かせた。
どうも、馬車の中でエドウィンくんが爆睡している間にイザベラちゃんと話をしてたんだけど、彼女は幼い頃に王子と婚約をしてそこからずっと努力をしてきたらしい。
まあ高位の貴族ならそこに国家の安全やパワーバランスを守るための婚約があってもおかしくないし、ある意味義務の一つだからしょうがないんだろう。
(なのに、偉ぶったところもないし、私と話している時も私を自由民と侮ることもなかった)
割と漫画でも正論ぶっ放してて、行き過ぎてるくらい正論を言ういやなキャラみたいな扱いだったけど……実際目の前にすると全然印象が違うなあ。
そもそも私がいた前世の世界では『恋愛もの』だったから主人公と王子の身分差で運命の恋がめらっとしちゃうシチュエーションが萌えの対象だったんだろうと思う。
だけど、こちらの世界が現実となると王子のやってることは非常に浅はかだ。
なぜなら、イザベラちゃんに言われるまでもなく王子と彼女の婚約はいわゆる『契約』だ。それも親が交わしているんだから、子である彼らに契約を破棄する力はない。
しかも私の情報網で調べるまでもなく、国王陛下は今隣国の慶事にお出かけの真っ最中。
つまり、王子の独断。
今頃、王城は阿鼻叫喚じゃないかなあ。
「……ねえイザベラちゃん、辺境伯んとこでも話そうと思ったんだけど」
私はこっそり彼女にだけ聞こえるように声を潜めて告げる。
なんだか私、この子気に入ったんだよね。
おなか空いている二人に料理を出した時、がっつくばっかりで偉そうにするエドウィンくんよりも『美味しい!』と目を輝かせた後に『は、はしたないところをお見せして……』って照れるイザベラちゃんの方が可愛いじゃん?
「色々問題がって思うかもしれないけど、イザベラちゃん私と一緒に来ない?」
「……え?」
「私、妹がほしいなって思ってたんだよね!」
彼女が頷いてくれるなら、私が問題解決してみせるからね!
悪役令嬢、だっけ?
そんなの役目を終えたんだし、もう自由になったっていいじゃない。
目を丸くしたイザベラちゃんが、私の言葉を理解して泣きそうな顔をした。
私は、ただ彼女の頭を撫でた。




