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いやうん、出だしを間違えたよね。
ここはジュエル級冒険者としての威厳を持って前に出るべきだったと思うよ。
空気読めよってディルムッドがいたらツッコまれたんだろうなってちょっぴり思ったよ。でももう遅いじゃん?
「久しぶりだねえ、エドウィンくん」
だからもう、そこは開き直ることにした!
っていうかそれしかもう道は残されていないのだ!!
余裕綽々っぽい感じで前に出る。内心はやっちまったーと思ってバクバクしている。
緊張? それはない。
「ねえ、エドウィンくん」
私の一歩前にいるっていったってほぼほぼ横にいるイザベラちゃんの肩を抱くようにして、エドウィンくんに向かってにっこりと笑いかけてやった。
可哀想に、彼はひどく緊張した表情でそれでも王子の剣を押さえ込んだままだ。
カルライラ・ブートキャンプの教育はしっかり身についているようで、なによりです。
「その、変わったオトモダチを紹介してくれないかなあ?」
イザベラちゃんに酷いことをした張本人。
手放してくれたことに感謝はしているけれど、傷つけた挙げ句に今も軽んじるような言葉を投げかけたことは、私の中で許す選択肢などない。
エドウィンくんはヴァン様とヴァネッサ様にあれこれ言われて状況を理解したんだろう。一体何をしたんだか知らないけれど、学んで反省してくれたならまだ許せるかな。
イザベラちゃんもこれまでの生活の中で彼のことは何とも思っていないって言ってたし。
『エドウィンは私に酷い言葉を投げかけるなどは殆どありませんでした。殿下の言葉にただ追従するだけでしたので、特に思うところはありません』
……いやむしろ無関心なのか。笑う。
笑っちゃだめか、イザベラちゃんが色んなことに吹っ切れるのはいいけど、切り捨てることばかり覚えては余裕ができた時に辛いのは彼女自身だ。
「こ、こちらは……」
「私はこの国の王太子、アレクシオスだ! 貴様が青真珠なのか。そこなるイザベラ=ルティエは罪人である! 故に、王城にて改めて裁判を行う必要があるためわざわざ私が自ら連れ戻しにきたのだ!」
裁判ねえ。
色々矛盾していることに彼は気がついているのだろうか。
そもそも裁判や正式な手続きをせずに追放を決めたのは王子だ。
勿論、彼一人ですべてが行えたとは思えないので誰か手引きした人間はいるのだろうと思う。
ただまあ、それを明かすのは私の役目じゃない。
私がするのは、可愛い可愛い妹を守ることなのだから。
(ここから連れて逃げるのは簡単。だけど)
彼女を縛り付ける鎖をぶっちぎるには、もっと別の方法が必要だ。
私はイザベラちゃんの頭を撫でて彼らに向けるのとは違う笑顔を浮かべた。
どんなって?
そりゃもう可愛い妹に向けるんだから、親愛の笑みに決まっているでしょう!
「ねえ、イザベラちゃん」
「はい。なんでしょうかアルマ姉様」
「ヴァネッサ様もお迎えに来てくれたし、一度ライリー様のところに行こうか」
「おい! 私の事を無視するんじゃない!!」
王子がなにか喚いているけど、ここ町中だって気がつかないかなあ。
私たちがココに暮らしている以上、味方になるならどっちだって話なんだよね。
そもそも彼が『自分は王子だ、王太子だ!』って喚いたところでまさにそれを証明する事ができないんだから笑っちゃう。
まあ、ヴァネッサ様が証明してくれたら成り立つっちゃ成り立つけど、彼女は今私たちの近くにいるしねえ。
「ええ。父が此度の件で陛下からのお手紙を預かっておりますの。そのことで伺おうとしたら、あちらの方がいらして……エドウィン様と共にとても驚きましたのよ」
おっとりとした仕草をして本当に困っている、みたいなパフォーマンスしてるけどその言葉の意味はつまり『エドウィンくんの試験も兼ねてお迎えに来たら、王子が勝手に来て暴れているんでびっくりした』ってことでしょ。
知ってるんだぞ、私は。
「……ねえヴァネッサ様、エドウィンくんの行動に点数をつけるなら?」
こっそりと私がそう耳打ちすると、ヴァネッサ様は意外そうな顔をして私を見て何度か瞬きをする。
それからにっこりと蠱惑的な笑みを浮かべた。
「まあまあ及第点を差し上げようかなと思っております」
厳しいー!!
可哀想に、あんなに頑張ってるのになあ。
まあ、イザベラちゃんを擁護する台詞が出てきてないし、ご挨拶もなにもしてくれてないし、王子のことも紹介できてないししょうがないのか?
エドウィンくんはこの後またしごかれるのかなあ。
それとも、王城に戻されるんだろうか。
(……なんにせよ、あの王子の側付きになるんじゃお先真っ暗な気がするけど)
色々カルライラの人たちにしごかれて見えてきたものがあったのかもしれないけど、根が素直って辺りで頑張ってもらいたいものである。




