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悪役令嬢、拾いました!~しかも可愛いので、妹として大事にしたいと思います~  作者: 玉響なつめ
第二章 守りたい、この平穏生活

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イザベラ=ルティエという少女

 イザベラ=ルティエは王国の、筆頭公爵家と呼ばれるバルトラーナ家に生を受けた。

 この家が筆頭公爵家ともてはやされるようになったのは、先代バルトラーナ公爵が王妹を娶ったからであった。

 当時のバルトラーナ公爵から見て先王の娘であるその女性は、側室の娘であったという。

 

 そうして王家の血を受け継ぎ生まれた女の赤ん坊に、父親であるバルトラーナ公爵からは『イザベラ』を、そしてその赤ん坊の祖母となった女性からは『ルティエ』の名を贈られたのである。

 イザベラ=ルティエは生まれながらに貴婦人の中の貴婦人として生を受けたのであった。


 しかしながら、イザベラ=ルティエにとってそれが幸運かどうかはまた別の話である。

 

 両親ともに彼女には無関心であったが、彼女は祖母と兄に見守られ健やかに成長した。

 その祖母もイザベラ=ルティエが幼い頃に他界し、彼女は兄を頼りに生きてきたと言っても良かった。


 そんな彼女に転機が訪れる。

 国の事情により、王家唯一の男児であるアレクシオスの婚約者に選ばれたのだ。

 兄と幼馴染みのエドウィンがすでに王子の遊び相手となっていたことから、きっと良い関係を築けるだろうと彼女は幼心に思ったものである。


 だが、そこからは彼女にとって窮屈な生活の始まりでもあった。


 元々王族であった祖母が貴婦人としての振るまいの基礎をイザベラ=ルティエに教えていたこともあり、スタートは上々といったところだったのだろう。

 それがまた、拍車をかけた。


『誰よりも立派な貴婦人にならねばなりません。公爵家の名を汚すような真似をしてはいけません』


 公爵令嬢として、王子の婚約者として。

 彼女は常に人々の目に晒された。どこの場にあっても完璧な貴婦人であるようにと常に厳しく教育を受け、そしてその期待に応え続けたイザベラ=ルティエは決して弱音を吐かなかった。

 そのせいだろうか。

 いつしか誰もが『イザベラ=ルティエはどのような難題でもこなせるのだから、もっと高みを目指すべきである』という考えになり、彼女ができることが当たり前になってしまったのだ。


 それだというのに、王子がお気に入り(・・・・・)の少女の為にイザベラ=ルティエを切り捨てた時、周囲は落胆しただけだった。

 完璧なる貴婦人が、あんな落ちぶれるなんて。

 豪奢なドレスも、祖母の形見のアクセサリーも、全てを失って尚矜持だけは失うまいと前を向いてボロボロの馬車に乗せられる彼女の耳に届いたのは、嘲笑だ。


 できて当たり前だった少女は、ほんの一つできなかったと見做されただけでここまで言われねばならなかったのだろうかと唇を噛みしめるしかできなかったのだ。


 ところが、そんな生活が一変する。


『イザベラちゃんはすごいねえ!』


 道すがら、野盗に襲われた馬車を救ってくれた冒険者のアルマと出会ってから、イザベラ=ルティエの生活は大きく変化した。

 もとより追放されたのだ、変化がない方がおかしいのではあるが、そうではない。


『イザベラちゃんは、えらいねえ』


 頑張り屋だね、いい子だね、可愛いね。

 惜しみなく降り注ぐように与えられるその言葉の数々に、イザベラ=ルティエは目を丸くするばかりだ。


 今まで、誰一人褒めてはくれなかった。

 彼女の祖母と、兄だけだ。

 それだって幼い頃ばかりの記憶で、最後に褒められたのはいつだったか思い出せないほど昔の話。


 できて当たり前、そう言われてきた彼女はアルマの言葉を初めは素直に受け止めることができなかった。

 だがイザベラ=ルティエは人を見る目に自信があった。

 筆頭公爵家の娘というだけでも十分だったが、王子の婚約者になったことですり寄ってくる人間の多さに目を丸くし、そしてその利己的な考えに辟易して自身がいいように使われないよう気をつけてきたからだ。


「アルマ姉様。ジャガイモの皮むき、全て終えました」


「えっ、もう? すごいねえイザベラちゃん、すっかり包丁使うの上手になったねえ!」


「まだまだですわ」


 アルマの言葉も、眼差しも、何も含むところはない。

 ただただ真っ直ぐに、彼女に向けてくるそれらはとても甘やかだ。


 それを受け入れてしまいさえすれば、ひたすら心地良く感じる。


(……もう、いいのよ)


 イザベラ=ルティエという少女はもういない。

 ここにいるのはアルマの妹、イザベラなのだ。


 それが証拠に、アルマは一度もイザベラのことをイザベラ=ルティエと呼ばない。

 ただの(・・・)イザベラという、何も持たない少女そのものをアルマは慈しんでくれている。


「アルマ姉様」


「うん?」

 

「これからも、一緒にいてくださいまし」


 自分が自分であれるように。

 まだ見ぬ『自分』をきちんと見つけられるように。


 歩まされる道を行くのではなく、自分で道を見つけていく、その時に(しるべ)でいてほしい。暗闇の中の、明かりのように。


 そんな願いを込めたイザベラの言葉に、アルマがきょとんとしてから笑った。


「当たり前だよ、可愛い妹だもの!」


次回より本編第三章スタートです°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°

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― 新着の感想 ―
[良い点] イザベラが良い子過ぎて周囲が甘えてただけかこれ。周囲の大人も揃って役立たずと…祖母の遺品くらいは取り戻したいが、それ以外は本格的にこっちから切り捨て良い案件よね [一言] そろそろ王様帰っ…
[一言] イ"ザベラ"ち"ゃん"し"あ"わ"せ"に"な"って"!!!!!(´;Д;`) えっっっ!?イザベラちゃんの兄貴野郎こんなに頑張っていた妹を見捨てたんですか!!?貴族どもも何様のつもりだアイツ…
[良い点] 尊い( ˘ω˘ )
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