17
私と二人が出会ったのは、キマイラ討伐でギルドが総出になるっていう時だった。
その頃はまだ私もジュエル級冒険者にはなっていなくて、ただのゴールド級だったんだよなあ……懐かしい。
「まあ、私はその頃にはすでにソロだったからさー、討伐隊つってもみんなが仲良しこよしするわけじゃないの。いかに他のやつらを出し抜いて手柄を立てるかって冒険者はみんな思ってるわけだしね」
「まあ……」
「騎士とか兵士もそんなもんでしょ。戦争があって手柄を立てたら昇進できるのとおんなじ。まあ、冒険者だと名誉よりも貰えるお金の量が変わるってのが重要だけど」
「身も蓋もないな」
「だが、その通りだ」
ディルムッドとフォルカスが笑う。
イザベラちゃんは目を丸くしていたけれど、私たちの言葉に「なるほど……」と呟いていた。
「んで、その頃から私は割と調理器具とか持ち歩いているクチでね」
「ディルムッドが遠征地なのにいい匂いがするとか言い出して、アルマのテントに突撃したのが出会いだな」
「ホントあれはいい迷惑だった」
「しょーがねえだろ、ほんっとあの遠征部隊のメシはマズかったんだよ……」
「だからって後輩にたかる? まあ、すごく気持ちはわかる」
あの時のご飯は本当に最低だった。
一応あの時全員に配給はあったんだけど、なんていうの?
もっそもっそのビスケットとかったーい干し肉。
これがねえ、スープに入れても浸してもひたすらマズい。逆にどうやったらそんなん作れるのか不思議になるレベルだったわ。
そんなんだったから、夜を明かすことになった時に一人テントでコッソリ料理してたらまさかのジュエル級冒険者が突撃後輩の晩ご飯ですよ。
「まあ、そんなんでそっから仲良くなったのよ」
「そうなのですね……」
「正直、腐れ縁だと思う。まあ美味しい食材とか分けてくれるから助かるけどね……一人だと狩りにくいやつも当然いるから」
魔法が効きにくいやつとか、力業でいかないといけないようなやつとか。
案外そういうやつって肉が美味しかったりするのよ!
「こちらも美味しい食事をごちそうしてもらえるからな、互いに助け合いをする仲だと思えば構わないだろう」
フォルカスがそうまとめてディルムッドも笑う。
そこからあちこちの依頼で倒したモンスターの話とか、珍しい景色の話とか、私たちが今まで旅した場所の話題になった。イザベラちゃんも楽しそうだ。
いつか連れて行ってあげよう。
「そんじゃまあ、メシも食ったしオレらはまた辺境伯の館にでも行ってるわ」
「はいはい。どーせ明日も来るんでしょ?」
「おう。なんか持ってきてほしいモンとかあるか?」
ディルムッドが立ち上がると、フォルカスも立ち上がる。
当たり前のようにうちに来て食事をするつもりなのはなんでだ……辺境伯の館っつったらそれなりのシェフもいるだろうに。
うちは確実に、私が作れる範囲の家庭料理しか出さないっていうのに。
でもまあ、もらえるものはもらっておこう。
どうせだったらこの辺じゃ手に入らない食材とかがいいかもしれない。
「そうねえ、じゃあなにがいいかなー」
「アルマじゃねえよ、イザベラの方だ」
「えっ、わたくしですか?」
「おう、なんでもいいぞ」
健気な女の子に貢ぎ物をあげようってか?
いやまあ、イザベラちゃんを甘やかしたい気持ちはわかる。
だーけーど!
その役目は! 私の特権だぞ!?
(まあ、心が狭いって言われるのも癪だから黙っとくけど)
ディルムッドはただの厚意なんだろうし、イザベラちゃんは困ったようにしつつも嬉しそうだ。
裏も表もない厚意っていうのは彼女にとってはどうも新鮮らしいんだよね。
それが不憫でもあるんだけど、同時にすごく可愛い……小さいことに喜びを見せるイザベラちゃん可愛い……。
「そ、それでは果物がいいです!」
「わかった。適当に見繕ってくる」
「どうせだったら明日は夕飯時に来なさいよ。お昼時は私たち出かけるから」
「ん? わかった」
くっくっくっ、夕飯は私特製のピーマンフルコースだ!
期待してやってきて恐れ慄くがいいさ!
……こういう、くだらないやりとりができる平和が続くのがいいんだよなあ。
イザベラちゃんに必要なのは、こういう時間なんだろうなって私も思う。
(だから)
国王が帰ってきたら、事態は動き出すんだろう。
それまでは、この子に精一杯楽しい時間をプレゼントできたらいいなと思うのだ。