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まあともかくだ。
元々、イザベラちゃんと王子の仲は悪くなかったけど良くもなかった。どっちかっていうと、真面目なタイプのイザベラちゃんがそこらの貴族令嬢と同じでつまらないって思っていたところに型破りなエミリアさんとやらに出会って王子がコロっとしたらしい。
アホかとバナナかと。
そうだ、後でバナナのスフレパンケーキを作ろう。
(……まあ、おかげでイザベラちゃんが自由になれたんだから、オッケーか)
私は空っぽになった皿を流しに持っていって少し考える。
王子が婚約破棄をやらかしたのは大勢の前って話。
で、エミリアさんとやらに対して王子とエドウィンくんは傾倒している。多分、流れで考えるならイザベラちゃんのお兄さんもそうなんだろう。
なんせ、妹のことを心配しているなら追放沙汰になんてさすがにならないはずだ。
公爵家の跡継ぎってんなら、不当な裁きだと訴えてイザベラちゃんを屋敷で保護したり、国王が帰るまで抗議行動だってできたはず。
多分、そのことはイザベラちゃんも気づいているはずで……慕っていた兄から見捨てられたのだという事実は、彼女をとても傷つけたに違いない。
(フォルカスは『幻影』の名が効いているって言ってたってことは……)
多分、イザベラちゃんを連れ戻してどうにかしようっていう強硬派の案があったのを、ライリー様の手紙で私の庇護下にあると知って手が出せなくなったってところだろう。
さすがにジュエル級冒険者に喧嘩を売るほどバカじゃないらしい。
「フォルカス、幻影の名前ってどこまで有効かな」
「しばらくはお前の名前とカルライラ殿も目を光らせておられることもあって平和だろう。問題は国王が帰ってきてからだな。……ところで、何を作っているんだ」
「ん? バナナスフレパンケーキ」
なんと! 材料がバナナと卵だけっていうお手軽デザート!
しかもカロリーオフ!!
卵を卵黄と卵白に分けて、バナナを潰して卵黄と混ぜる。
そこにメレンゲ状にした卵白を混ぜて焼けばできあがり!
いやー、私もダイエットの時にお世話になったわー。
今はダイエットしてないから、蜂蜜たっぷりかけちゃうけどね!
「はーい、デザートだよ」
「ありがとうございます」
見たことのないデザートだからか、目を瞬かせてどこからフォークを入れるか悩むイザベラちゃんは可愛いねえ……癒しだねえ!
漫画とかで見た悪役令嬢のイザベラちゃんはこう、怜悧な美少女って感じだったけど、今の表情豊かな方が絶対に可愛いって。
いや、でも待てよ? ドレスアップしたイザベラちゃんが王冠被っている姿もきっとすごく素敵だったんだろうなあ、いやほんと王子は残念なことしたよ。
(逃がした魚はでかいって言うけどさ)
貴族としての在り方を常に考えて、自分が何をすべきかを知っているこの子を決して手放してはいけなかったんだろうにね。
まあ、この子が私に助けを求める限り、絶対に戻したりなんかしないけど。
「まあ、ふわふわしていて不思議……」
「気に入ったんならまた作るよ」
「はい、是非!」
嬉しそうに微笑むその笑顔! ああー、こいつらいなかったら抱きしめてるのに。
ついでに言うと、ディルムッドの皿はもう空っぽだしフォルカスは美味しそうに食べている。ホントお前ら遠慮ないね。
「アルマ姉様と一緒にいて、すっかりわたくしも太ってしまいましたわ。もう以前のドレスは一つも入らないと思います」
「そうお? イザベラちゃんはちょっと痩せすぎなくらいだったから今の方が健康的でいいよ。いざとなったら旅もしなくちゃいけないんだし」
国王が戻ってきて、イザベラちゃんを害そうとするなら私はこの国を出て行こうと思っている。
別に、ここじゃなくても生きていけるからね。
むしろ色んなものを見た方が、イザベラちゃんのためにもなるんじゃないかなあ。
だけど、イザベラちゃんは私の言葉に驚いたらしく目を丸くしていた。
あら可愛い。イザベラちゃんの紫の目が宝石みたいだから、今度似た色の宝石でアクセサリーでもプレゼントしようかな?
「えっ、旅ですか?」
「うん。まあ苦労をさせる気はひとっつもないけどね!」
そうなったら内部がふかふかの馬車を買うつもりだし、馬だって気性の穏やかなやつを買ってあちこちを旅をすればいい。
それでまた気に入った町があればそこにしばらく逗留して、飽きたらまた旅立つ。
私がそんな計画を話すと、ディルムッドとフォルカスが呆れていた。
「姉様、そこまでお考えくださったのですね……けれど、そのようなことになったら王国側から敵視されてしまうのでは?」
「大丈夫だよ、それならそれで私は今後一切この国の依頼は受けない。それだけ」
私が笑顔でそう言い切ったのを、ディルムッドが天を仰ぎ、フォルカスは我関せずだ。
ねえ、お前らのソレどういう態度?
そんな私に、イザベラちゃんがおそるおそると言った風に口を開いた。
「姉様、今までそういえば聞いたことがございませんでしたが……姉様は、一体なんの宝石なのですか?」