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最終章、突入です!
封じよう、そう決めてから一ヶ月。
私たちのところには色々な情報が集まっていた。
というのも、父さんとアンドラスが手伝ってくれたからなんだけど……。
結果として色々面白いこともわかったよね。
「っていうか、最初から手伝ってくれていたら全部終わるんじゃない?」
「ふうむ、まあそうかもしれんがね」
「我々悪魔は基本的に人間の世界へ食事に来ているだけで、世界の理そのものには関わるつもりはないんだ」
「ええー……イングリッドのことは手伝ったのに」
「それはそれ、悪魔だからって愛しの恋人が願うことは叶えてやりたいもんだろう?」
にやりと笑うアンドラスの胸元には、似合わない華奢な女物のネックレスが光っている。
死してなお聖女としてあろうとした恋人が、その役目から解放されるのを待っていたんだから確かに手助けくらいしたくなるってものか。
父さんがコッソリ教えてくれたことに寄れば、アンドラスはイングリッドを待つと決めてからは一切〝契約〟をせずにまるで普通の人間と変わらず、食物からエネルギーを受け取ってただこの地に留まり続けていたんだってさ。
だから大悪魔の一人だけど、もう相当消耗していて……正直、いつ命が潰えてもおかしくないくらいだという話だ。
それでも、イングリッドを手元に取り戻したアンドラスが満足そうだからそれで十分だろう。
彼女がどう思うかは知らないけど。
まあそれはともかくとして、だ。
マリエッタ王女の書いた二次創作本(?)を予言書として崇めている集団は、意外と各地にいるだけでなくお偉いさんがたの中にもいるらしい。
まあ完全に信仰しているとかそういうことではなく、利用し合う仲みたいな感じだけどね……。
商人たちの間でも結構マニアックな商品をお買い上げしてくれたり、資金作りの一環なのか採集などの依頼も請け負ってくれるらしく、商業ギルドの中にも関わりを持つ人がいるんだとか。
その中にカイゼル君の名前もあったから、さてさて彼はどっちなのかな?
「マリエッタからの手紙は意味がなかったな」
時候の挨拶代わりにフォルカスへの愛情が綴られた手紙は要約すると『そんな展開は知らないが、本来ならヒロインが〝始まりの聖女〟の教えを曲解して自分たちのいいように解釈した狂信者たちと争いつつも聖女として覚醒し、最終的に神が現れて平和になる』らしい。
……そんな話だったんだ……?
最初の悪役令嬢云々はどこに行ってしまったんだ!!
まあ、物語が人気を博した結果、あれこれ要素を取り入れてしまったんだろうなと思っておく。
それはそれできっと楽しかったんだろうしね!
とはいえ、現実世界となるとこちらとしては迷惑極まりないけど。
「いやあ、厄介そうだなあ」
「本当にそうじゃのう」
「……申し訳ありません、アルマ姉様……」
「あーあー、イザベラったら! しょげなくて大丈夫!!」
しょんぼりとするイザベラを抱き寄せつつ、私は少しだけ思案する。
調べた話に寄れば、例の集団は予言書を元に素材を集めつつ、最近じゃ一人の女性を旗頭に据えて表立って活動を始めたらしい。
(確証はないけど、エミリアさんだろうなあ)
彼らが予言書通りに物事を進めようとするなら、エミリアさんが妥当だからね!
実際彼女は預けられた辺境の教会から姿を消したって話だし……。
適当に甘い言葉で誘い出されて、最終的には〝始まりの聖女〟の器コースかなと思う。
ただまあ、いくら聖女としてある程度の聖属性に目覚めていたとしても、長年瘴気と共に眠っていた〝始まりの聖女〟を受け入れられるとは思えないけど……。
(仮の器なら、それもありか……)
そう、もしエミリアさんを器にしたてて予言書の通り世直しをしようってだけなら私も気にすることなんてナイ。
いやまあ、薄情に聞こえるかもしれないけど、私にはそこまで関係ないし。
せいぜい世の中を良くしようと思っているなら、それはそれでいいんじゃない?
ただ〝始まりの聖女〟が望む『良い世界』が彼らの望む物と同じではないかもしれないけどね!!
それとは別に、気になるのは他の動きがあることだ。
……イザベラを、追っているらしい動き。
私や父さんが一緒にいることで、あまり動けていないようだけど……。
やっぱりこれは、イザベラを〝始まりの聖女〟の器として認定しているっぽいんだよね。
「……打って出るか、待つか、どっちがいいかねえ」
本拠地も何もわかっていない以上、打って出たところで仕方ないんだろうけどさ。
ただ黙って待つのもなんか癪だよね!




