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そこからはまあ、家族会議を経て三日後に合流したフォルカスを巻き込んで、あちこちに連絡をしたもんである。
私はあんまり動いてないけどね、人脈って意味じゃあ父さんとフォルカスの方があるし……。
結局、何故倒すのではなく封じるのかって話になるとこれがまた面倒だからとしか言いようがないのだ。
つまるところ、瘴気そのものが残ってしまえばあの土地がまただめになるし、かといって〝始まりの聖女〟を好き勝手させればいずれ瘴気に呑まれるか呑み込んで別次元の存在になるか……いずれにせよ、今この世界は瘴気と〝始まりの聖女〟が融合せず、かといってお互いに食い合っているというこの絶妙なバランスの上に乗っかっているのだ。
『〝始まりの聖女〟を害すれば瘴気は放たれるが、それでは無辜の民が犠牲になるのをイザベラは良しとできないのであろう? ならば未来の聖女にそれを託してしまってはどうかと思うんじゃが』
まあ、ぶっちゃけるとそれもどーよっていう提案ではあったんだけど、ありだと思うよ。うん。
物語にあった聖女様とそのご一行ってやつなら『世界を救わなくちゃ!!』ってなったんだろうけどさ、私たちはそうじゃないからね。
イザベラは責任感が強いからそれでいいのかって悩んじゃってるけど、気持ちは傾いていることだろう。
(まあ、最終的に今すぐ決断しなきゃいけないってわけじゃなさそうだから、封印が成功するかどうかってのを調べることになったけどさ)
フォルカスとしてはアンドラスに古代王国の話を詳しく聞きたがっていてなかなか妹のマリエッタの話をしたがらなかったから、ピーンときたよね。
こいつ、話を逸らそうとしているなって。
「フォルカス、返事来たあ?」
「……質問に対する返答は今のところない」
魔法で手紙のやりとりをしているフォルカスはげっそりした表情だ。
どうやら〝愛しのお兄様〟からのお手紙に喜びを示す手紙と贈り物が転送されてきたようだけど、肝心の物語についての質問に関する記載はないらしい。
ああ、うん。しょうがないなあ。
「フォルカスの調べ物ってなんだったの?」
「……古代、神をも倒す魔法が存在していたという。かつての、古代王国よりもずっと前の、神代の民の話だ。彼らは私たちよりもずっと魔力を豊かに有し、魔法は彼らの生活の基盤であり、そして」
「ああ、うん、講釈はいいや」
長くなりそうだし!
しかし神をも倒す魔法って随分物騒なもの調べてたね?
……つまりは、フォルカスも〝始まりの聖女〟と仲良くできないって最初から思ってたワケか。
あの妹さんの話を聞いてどうしてそう思ったのか、それとも黒竜帝と何か話をしたのか……私にはわかんないけど、彼が興味本位でそんな物騒な魔法に手を出そうとしていたとは思わない。
知識欲は人一倍あるタイプだけど、フォルカスは誰かを傷つけることを嫌っているし。
「ディルムッドからは?」
「あいつはこちらに向かって発ったと、それだけカルライラから届いた。カルライラ辺境伯を含め、あちらのメンツの魔法力を考えればそれが精一杯だろう」
「そっかあ」
王子たちに関してはエドウィン君が最終的に引っ張ってこの町を後にしたって話だ。
私も見送りくらいはしようかなと思ったんだけど、騒がれると厄介だからって断られたんだよね。
物理的に縄で縛って馬車に放り込んだらしいよ……強くなったね、エドウィン君……。
「……ところで、アルマ」
「うん?」
「久方ぶりにあった恋人に、何かないのか?」
思わずフォルカスの言葉に目を瞬かせてしまった。
そういや久しぶりだってんでフォルカスからは色々と食材をまたもらったりしてご馳走も作ったけど、二人きりになるタイミングってなかなかなかったんだよね。
特に文句を言われることもなかったし、私たちの関係は友人からスタートだと思うとこんなもんなのかなって思ってたので、正直驚いた。
それと同時に、私の恋人が可愛い人だなあって思わず笑みがこぼれてしまった。
「会いたかったよ、フォルカス」
「……ああ」
綻ぶように小さく笑うフォルカスに、私は思わずキスしていた。
驚いて目を丸くする彼がまた可愛くて、今度こそ声に出して笑ってしまったのだった。




