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「フォルカスの手紙を要約すると、色々と調べたいことや修行したいことがあったのも一段落したし、合流したい……とまあそんなところ」
「それはようございました!」
イザベラは嬉しそうに笑って、私が魔法で凍らせた果物で作ったかき氷に舌鼓を打っている。
ちなみに父さんも同じものを食べているからね!
「うむ、こちらの果物の方が味が濃厚であるな」
「はい、わたくしもこちらの方が好きですわ!」
「でも食べ過ぎはだめだからね、二人とも。お腹壊しちゃうんだから!」
果たして悪魔がお腹を壊すのかって問題はあるけど、まあそこれはそれ、様式美的なね。
ちなみに二人が美味しいって喜んでたのはマンゴーに似た感じの果物で、生で食べても美味しいんだけど凍らせると美味しいんだよこれが。
このあたりの人からすると食べ飽きた果物の一つってくらいよく採れるもんだから、安く手に入るのよね。
(まあ、氷の魔法で果物を凍らせるって実は高度テクニックだしなあ)
果物サイズをシャーベット状にするためには氷と風の魔法を同時にバランスを保ちながら使うのがコツなのだ。
凍らせすぎればただ粉々になるだけだし、かといってそれが甘いとべっちゃべちゃだし。
理想のかき氷作るのに色々と苦心したもんよ!!
いや、あれは駆け出しの頃だったけど。
果物を森から持ち帰って、細々と宿屋の中で凍らせて刻んで失敗作を食べての繰り返しは本当に大変だったんだから……。
「さて、しかし厄介なことになったもんだねえ」
イザベラが〝始まりの聖女〟の依り代として最高の存在だとして、例の……私も知っている前世での物語をベースに考えれば、本来のヒロインであるエミリア・ベルリナも聖女の依り代なんだろう。
だって物語上では彼女こそが聖女の軌跡を歩んで真実に辿り着くんだろうから。
でも実際の彼女は聖女の立場なんてものよりも、初恋の人を愛人にしたい一心だったわけだしなあ……そう考えたら違うんだろうな。
いや、素質の問題だからそこは関係ないのかな?
(その辺、マリエッタ王女に聞いたらわかんのかなあ……)
とはいえ、わざわざお兄様ラブのブラコン姫にこちらから接触を図るなんてしたくない。
ここは嫌がるだろうけどフォルカスにお願いしてやってもらうのが一番だな、うん。
ちょうどこっちに来るっていうんだからナイスタイミングと思っておこう。
「……わたくしはどうすればよろしいのでしょうか」
「うん?」
「このまま逃げ続けても、もし〝始まりの聖女〟を求める人々がその依り代を狙うならば、わたくしは対象の一人なのでしょう。それを知っていて周囲を巻き込むのも、そしてわたくしの身代わりに誰かが選ばれてしまう可能性を知っていながら逃げることも……正直、良心が咎めるのです」
「うん」
「だけれど、決してわたくしは〝始まりの聖女〟に乗っ取られたくなどありませんし、世界の命運なんて重すぎるものを押し付けられるのもいやなのです」
「うん」
良く言った。
出会った頃のイザベラだったなら、自分の気持ちなんてそっちのけで世界のために……なんて人々に祭り上げられていたかもしれない。
そうじゃなくなっているだけ、おねえちゃんとしては感無量だ。
「なら、封じてしまえば良いのではないかな?」
「うん。……うん?」
コトンと空になった器を置いて、父さんが優雅に口元を拭う。
その姿はまるでどこぞの王侯貴族みたいだけど、かき氷食べただけなんだよなあ!




