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かくして、イザベラの初ダンジョンは一応〝踏破〟という形にはなったものの、ダンジョンそのものは翌日綺麗さっぱりなくなってしまっていた。
おかげで懲りずに踏破を目指していたらしい『砂漠の荒鷲』のメンツ……というかアランからは文句を言われるわ、王子たちも何が何だかわからないまま外に放り出されたもんだから慌てて私たちの所在を探して回っているらしいわでなかなか賑やかな状況だ。
アンドラスがあれこれ収めておくから、私たちは宿屋でのんびりしておけって話なのでそうさせてもらってるけど。
(でも退屈だなあ~)
イザベラはあれからぼんやりとしている。
まあ大方〝始まりの聖女〟のことや、体を乗っ取って繋いでいくやり方、神になろうとした話、そして自分が依り代に適合しているであろうこと……その辺について考えているんだろう。
以前の、悪役令嬢だった頃のイザベラならともかく、私の妹として生きるイザベラならちゃんと自分で答えを見つけるに違いないと私はただ待つだけだ。
とはいえ、暇なモノは暇なので困っちゃうんだけどね。
(それにしても、イングリッドとアンドラスが恋仲だっただなんてねえ)
イングリッドが最後に残したネックレス、あれは彼女の形見の品だ。
受け取ったイザベラによれば、彼女は聖女としての役目を果たすために恋心をそのネックレスに封じ、この土地に残したんだってさ。
だからあのネックレスはアンドラスに渡されて終わった。
彼女の心がここに眠っていたから、アンドラスはこの土地にずっとこだわっていたらしいよ。父さんがこっそり教えてくれた。
悪魔って、案外ロマンチストが多いのかもね。
「おっと」
そんなことを考えながらボンヤリと例の悪役令嬢モノの最新刊を読んでいると、私の目の前に突然花が現れる。
そしてその花は私の手のひらに落ちたかと思うと、手紙に変った。
「洒落たことするなあ!」
退屈を察したかのようにやってきた手紙に、私は本を横にやる。
それは遠く離れた場所にいる、フォルカスからの手紙だった。
(恋心はあるべきところに戻るもの、か)
物語に出てきていたその一節が頭の中に浮かんだけれど、私はそれを無視して手紙の封を切る。
私は別に恋心をどっかに置いてきたわけじゃないしね。
どうせだったら置いてけぼりになんてさせないし、崇高な使命とやらがあるわけでもないし、必要なら私が追いかければいいだけの話だし。
フォルカスがまあ、崇高な使命とやらに目覚める……なんてところも想像ができないので、おそらく私たちはやりたいことをやって、時間が合う時に共に過ごせればいいのだろうと思う。
「んん?」
久しぶりの手紙だと柄にもなく浮かれて開いた封筒からは、カードがたった一枚出てきただけだ。
しかもそこには短い文章が二つだけ。
そっちに行く。
三日ほどかかる。
「もうちょっと事情書いてくれないかな……?」
色気の欠片もねえなとかそんな文句は言わないからさ、もうちょっとなんとかならないのか。
私は呆れつつもフォルカスが来ることを知らせに、立ち上がるのだった。




