3-17
確証を得るためにはカイゼル君たちと親しくなる必要がある。
もし私の勘が間違っていたとしても、それはそれ。別に問題はないだろう。
珍しい香辛料を取り扱っている行商人ってのは間違いないのだろうし、どっちに転んだとしても私には損なんてないのだ!
(しかし聖女がかかる奇病か)
少しだけ悩ましい話だ。
今頃、ディルムッドはどうしているのだろうか?
イザベラは聖女としての名前を失ってはいるものの、聖属性は今でも使えるようだし……あの国には当分近づかない方がいいのだろうと思う。
(でも、だとしたら……国王夫妻は、どうして? 王子は無事なのに)
おかしな点が多くて、首を傾げざるを得ない。
イザベラに問うのもなんとなく気が引けて他愛ないおしゃべりに興じていると、父さんが戻ってきた。
「会いたかったよ、娘たち」
「父さん、お疲れ様」
「おかえりなさいませ、お父様」
心なしかぐったりしているようだし、父さんが何の仕事をしたのかはさっぱりわからないけど本当に疲れたようだ。
だけど父さんが私たちの姿を見てにっこりと笑ってテーブルの上に置いておいた例のゴブレットを指さした。
「おやおや、もう見つけたのかね。さすがはアルマとイザベラ、優秀で我が輩も鼻が高いよ。アンドラスのやつももう気づいている……というか、それを見せたかったのだろうねえ」
「まあ、もう少し深部に行くつもりだけどこれ以上の収穫があるって考えていいのかな?」
「ないとは言わんが、それほどでもないかと思うよ。アンドラスが教えたいのは『聖女に関わった国は守られる』はずが『滅びた』という事実、それが正しい歴史であると自らの手で知ってもらうことだったのだろうからねえ」
「ふうん」
まあ、そんなこったろうと思ってたよ!
冒険者と商業、双方のギルドが遺跡のダンジョン化によるスタンピードの危険性について考えて調査する予定だったのは事実だろうし、その際に実力者としての私、それから経験を積ませるという意味合いと現地の人間をつけるという点を加味して【砂漠の荒鷲】のボウヤたちを向かわせたってのもちゃんと理解できている。
でもアンドラス自身はどうかっていうと、きっと〝どうでもいい〟と思っているに違いない。
なんせ悪魔だからね……しかも普通の悪魔じゃない、悪魔公爵の一人ってやつなんでしょ?
パネェわあ、それがうちの父親もだって言われるとか本当びっくりしすぎて逆に呆れるわ。
「それよりも、あの王国から客人が来ているそうだねえ。アンドラスのやつが焦らしてあと数日は面会しないつもりらしくて使者とやらが何度も嘆願に来るから賑やかだったよ」
「あれ、父さん商会で仕事してたの?」
「そうなんだよ、書類を大量にやらされてねえ。アンドラスのやつ、自分が苦手だからと溜め込んでまあ! 実務は確かに優秀だが、やはりやつは荒事の方が得意なのもあるんだろうが、全くこちらの身になってもらいたいもんだ」
「あ、あの!」
やれやれなんて言いながら首をゴキゴキ回す父さんのその姿が余りに人間らしくて私は笑ってしまったが、イザベラは違ったようだ。
少し緊張した面持ちで、私たちの顔を見比べたかと思うと彼女は覚悟を決めた様子で言葉を続けた。
「お父様は、王国で何が起こっているか、ご存じですか……?」
「うん? 奇病が流行っているって話かい」
「は、はい!」
オリアクスは少し考える素振りを見せたかと思うと、私たちと同じように絨毯の上に座って手を軽く振り、どこからか飲み物を取り出してイザベラの頭を撫でた。
なんだその一連の動作!
「すまないねえ、我が輩は書類にかかりきりだからそういったことは特に何も。だがアンドラスのやつがお前さんたちに話をしたいと言っていたからそちらできっと話があるんじゃあないか」
「そ。でもあちらさんも王国からのお客様対応に追われて数日かかるんでしょ? なら、その間に私とイザベラはダンジョン攻略でもしてきますかね!」
「我が輩も同行したかったが……まあアンドラスの不興を買うともっと面倒なことを頼まれそうであるからなあ。せめて娘たちのためにその許可が下りるよう推薦状でも書こうかね。ないよりはマシだろう?」
「ありがとう、助かるう!」
しめしめ、これでダンジョン探索は確約だな。
私とイザベラのコンビなら攻略だって楽勝でしょ!
明日、冒険者ギルドに行って私も冒険者証を出して申請を出すし、商業ギルドの役員の推薦状があれば文句もないでしょ!
その上、ダンジョンに行ってれば王子たちとは顔を合わせないで済む! 最高じゃない!!




