3-10
サァルスの町に戻った私たちは早速ギルドに報告へ行き、解散の運びとなった。
今後調査する上でどうするのか、お偉いさんたちを集めて会議するんだってさ!
それまでは一旦、立ち入りを禁ずるとのことだった。
まあ、お早い決定をしてくれることを祈るばかりである。
「あーあ、まあ収穫らしい収穫はないけどとりあえず終わったし、どっかで果物でも買って部屋に戻ろうか」
「はい、姉様。お疲れ様でした」
「イザベラもお疲れ様! 初めてのダンジョン、なんとなく雰囲気がわかったでしょ? 次は私と二人だからもうちょっと効率よくやるつもりだからそのつもりでいてね」
「はい!」
あのボウヤたちが一緒じゃあついて来られなくなっちゃうだろうから、別行動がいいんだよ。うん。
私は片手に持ったままのゴブレットを砂漠の太陽にかざしてみる。
金属製のそれに刻まれた古代語と、いくつかの宝石がちりばめられたそれは美術品としての価値もあるだろうし、歴史的価値だってあるだろう。
でも、私たちにとって別の価値があるに違いない。
「とりあえず、これをアンドラスに渡す前に聞いておきたいんだよね」
「え?」
「イザベラ、この古代語読めるんじゃない?」
「は……はい。彼らの手前お話しすることはできませんでしたが、姉様にでしたら勿論お話しいたしますわ!」
イザベラによると、そこに刻まれているのは王国にある石碑と同じ言葉だという。
聖女を称え、聖女は人々を導く……或いは人々と共にあるといった訓告が刻まれているようだ。
「教会に集められた聖女たちはその石碑を前に、自分たちが聖女であることに誇りを持ち、結界を支え人々を守るのだと教えられるのです」
ところが、それと同じ言葉を刻んだゴブレットが遠く離れた地で見つかったってことだ。
つまり、ここでも聖女は信仰されていた……ってことなんだろう。
王国と同じとは思わないけれど、聖女を称えているくらいだから恩恵はそれなりにあったはずだ。
(それなのに、古代王国は滅亡した)
アンドラスが私たちに調べろと言ったのは、古代王国に聖女がいたという事実なのかしら。
とりあえずゴブレットを渡して、遺跡の再調査の権利をもぎ取りたいところだなあ。
そういや父さんはどうしたんだろう。
「姉様、あちらの露店をご覧くださいまし。花蜜桃がございますわ」
「へえ、美味しそうだね。買っていこうか」
この世界では桃が砂漠地帯に生るんだから不思議だよね!
まあそれはともかく美味しそうだし、買っていくことは賛成なので私たちが人混みをかき分けて交渉しつつ桃を手に入れたところで、声が聞こえた。
「イザベラ! イザベラ=ルティエ……!!」
「殿下! おやめ下さい、ああ、くそっ……」
懐かしい名前で、私の可愛い妹の名前を呼ぶ人物が制止する人物たちを振り切って駆け寄ろうとするのを懐かしい顔が容赦なく取り押さえる姿が見えて、私たちは目を丸くする。
そう、懐かしい顔だ。
そして会えて嬉しい顔と、二度と会いたくない顔でもあった。
イザベラが、口元に手をあてて、呆然と呟く。
「殿下……それにエドウィン……?」
そう、それはかつてイザベラのことを〝悪役令嬢〟として断罪した二人だったのだから私は思わず天を仰いでしまったのだった。




