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「……まあ、約束はしたし? ダンジョンの探索は冒険者にとって楽しみの一つだし? 父さんの話も聞けるからって引き受けたけどさあ」
「ね、姉様……」
「イザベラにとっても今回の探索はいい経験になると思ったわけだし、いいんだけど」
道中、ぼやきたくなる私の気持ちもご理解くださいってのよ。
そう……アンドラスは情報料にプラスして父さんの情報、更に普通の報酬、加えて今回の探索で見つけたものを商業ギルドと冒険者ギルド、双方で鑑定した結果総額の三割という破格の提示をしてきたのだ。
やはり当然のことながら、アンドラスたちは自身が悪魔であることを隠して生活しているので表立って動けない。
まあ、動く気もないんだろうけど……だって、面白くないからね!
「もう、姉様ったら!」
「だってえ……久しぶりに二人でお出かけだと思ったのに!」
そう、私たちは例の遺跡に発生したというダンジョン探索に来た。
でもって、オマケ付きでね!!
理由に関してもちゃんと説明は受けているので仕方ないと理解する気持ちがある反面、折角の可愛い妹とのデートを邪魔されたようなこの微妙な姉心、おわかり?
(そりゃ破格の提示もされるってもんだよね)
ついてきたのは今回の探索において私たちを監視する役目を持つ地元の冒険者パーティ【砂漠の荒鷲】だ。
パーティーリーダーにシルバー級の剣士アランを筆頭に、三人構成の……まあ、普通な感じのメンバーである。
彼らには私のことを『指名依頼をした冒険者』と説明しているらしく、ジュエル級であることは明かすなと言われている。
顔が割れていない私は都合がいいんだってさ!
ちなみに私も彼らがダンジョン内の遺物をくすねないように監視しろって言われているからお互い監視し合う仲ってわけだ。
わあ、楽しくなぁーい。
「女二人の冒険者なんざ珍しくもないからチヤホヤする気はねえが、精々足を引っ張らないでくれよ?」
「アラン、入って早々それは失礼だろう! 事実だとしてもだ!」
「ごめんなさいごめんなさい」
こいつら、普通と思ってたけど……普通に失礼だな?
剣士のアランは最近ゴールドにランクアップが近いからって鼻持ちならない態度を周囲にとっているらしく、ギルドから注意を受けているらしい。
(ランクなんてそれこそ真面目にやってりゃ勝手に上がるもんなのにねえ)
その仲間は彼の幼馴染らしく、盾役を担うベック、それに魔法使いのリッツだったっけな。
二人のランクもシルバーだから、まあ着実に結果を出しているパーティってところなんだろう。
年齢は十代後半だし、まあ生意気盛りだからしょうがない……か?
(この土地から出たこともなさそうだし、実力ある連中は世界中を巡ってるからなあ)
大体地元に留まり続ける実力者ってのは縁の下の力持ちになりがちなのよねえ。
そういう性格パターンでもあるのかしらってくらい、私が知っている連中は堅物で寡黙で、一見すると地味な働きなんだけどそれがすごく助けになるっていうか。
そんでもってそういうタイプほど自分の功績を誇らないから目立たない、そして侮られやすいけど本人は気にしないパターンなのよね。
目立つ実力者連中は『世界は広い!』って気づいてあちこち飛び回っちゃう感じ。
(この子たちが気づくかどうか、ギルドは試したいんだろうなあ)
どうせ勝手に先行する彼らを好きにさせろとアンドラスからは言われている。
その上で、探索と……危険な事態に陥った際は助けてやれってのが私に対する本当の依頼なのだ。
(まあ面倒には違いないけど……)
意気揚々と前を進むボウヤたちの背中を見ながらチラリと横に視線を向ければ、イザベラが緊張した面持ちで私が渡した杖を握りしめているのが見えた。
緊張しているのは間違いないけれど、それでも未知の物を前に目をキラキラさせているその姿がなんとも可愛らしい。
「それじゃあイザベラ、行こうか」
「は、はい!」
どうか面倒な敵なんていませんように!
え? 出たって勿論、うちの妹に傷なんて一つつけさせませんけど?




