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 それから私たちは町に出て、ギルドに寄っていい商人に家を斡旋してもらった。

 二階建てでキッチンがあって、バスルームとトイレもある。魔力管理タイプの住宅なので、魔力がそれなりにある人でないと逆に不便な物件だが私とイザベラちゃんだったらどんとこいだ。


 ちなみに、ディルとフォルカスは新居の前でお帰りいただきました。

 まあ、彼らも本当に私たちの家がどこか、安全面とかも含めて確認したかった模様。

 私からしても付き合いが長いし、彼らには彼らの家庭事情があってイザベラちゃんについて同情する気持ちもあるだろうから味方になってくれるに違いない。


 後はきっとただ飯狙いである。


 ちなみにここは賃貸だ。

 いつまで暮らすか見通しが立ってないからね!

 とりあえず、半年分の家賃を一括で払っておいた。

 

 まあ私だってジュエル級冒険者を名乗っているだけあって、それなりに稼ぎがいいから根ざすことになるなら一括で買えばいいし。

 なんせ賭け事とかに興味はないし、男娼を買ったり自由恋愛でお金を使う趣味もない。

 だからってないない尽くしの寂しいヤツって訳でもないぞ?


「そんじゃまあ、この部屋がイザベラちゃんのね。家具はもうちょいしたら届くから、小物に関しては明日以降揃えていこう」


「は、はい」


「今までの生活と大分異なるとは思うけど、ちょっとずつ慣れてくれたらいいよ」


「……ありがとう、ございます……なにからなにまで……。でも、本当によろしかったのですか? わたくしは、その……何も、できなくて……」


 イザベラちゃんが困ったように俯いて、もじもじしているのを見ながら私は可愛いなあと思った。

 別に私は家政婦がほしいわけじゃないし、なにかしてもらいたいっていうよりもただ可愛がりたかったっていうか、ペット扱いとかじゃないよ?

 ただ、こう……私も家族がほしいなあと思った中でイザベラちゃんが妹だったら嬉しいなって思ったわけですよ!


(そう伝えたつもりだったけど、伝わってなかったかー)

 

 いや彼女の立場からしたらそうかも?

 貴族としての立ち居振る舞いについては自負があったとしても、平民としていざ暮らそうってなったらできることは全くないと言ってもいいだろうしね。

 人脈があるといえばあるけど使うこともできず、むしろ利用される可能性がある。

 金銭面で役立てるわけでなし、むしろ冤罪で沙汰待ち。

 お礼に何かしようと思っても、今まで綺麗でいることがお仕事だったご令嬢からしたら家事なんて無縁だったわけで……。


「大丈夫。あのね、イザベラちゃん。私さあ、こう見えて料理が趣味なんだよね」


「え? は、はい」


「イザベラちゃんは美味しそうに食べてくれるから、嬉しかったんだあ」


「あ……」


「わかんないことがいっぱいあって不安だと思うけどさ、私も腰を落ち着けて暮らすのって久しぶりだし。だから、二人で色々やってみようよ」


 何もわからない、それって実は怖いことだ。

 わくわくできるのは、何かができる人だけだってことを私は知っている。

 何もわからないことがわからない、そのくらい本当に何も知らなければ怖いものなんてない。だけど、ある程度成長したら誰だって気づくことが沢山あるはずだ。

 少なくとも、イザベラちゃんも私も、人が善意だけで生きているわけじゃないことを知っている。


 そういう環境で育ったから。

 子供を捨てていく親がいる反面、引き取って大事にしてくれる人たちがいる。

 やむを得ない状況で孤児院に来て、巣立った後も手助けしてくれる先輩達がいる。

 だけど、安い労働力として孤児を引き取る連中だっているし、安易に冒険者になって生活が不自由になったやつもいた。


 助けてくれる人が、いつだって側にいてくれる環境は、恵まれている。


「イザベラちゃんは、まずなにがしてみたい?」


「……わた、わたくしは……」


 私の問いかけに、イザベラちゃんが困ったように視線をさ迷わせて、それから意を決したように私を見た。


「料理を、作れるようになりたいです」


「え?」


「毒味をしなくて良い料理を、食べて素直に美味しいと言える料理を作ってみたいです。そして、わたくし自身の気持ちを、きちんと伝えていけるようになりたいのです」


 ああ、この子は本当に強い子なんだなあ。

 私は彼女の返答に嬉しくなった。


 私の見る目は間違っていなかった。

 この子は世界一可愛い、可愛い、素敵な女の子になれる。私の可愛い妹だ。


「いいよぉ。でも今日は私が作ろうね。何が食べたい?」

 

「で、でしたら……あの、こちらに来るまでに作っていただいたあのサンドイッチと、スープが……!」


「え?」


 来る途中に……となると、おなかが空いたって言うから持っているもので作ったクロックムッシュと野菜スープのことか。

 一人旅の途中だったし、野営で作る程度だったから凝ったものは作れなくて申し訳ないなあと思ったくらいだったんだけど……美味しいって言ってくれたのは本当に嬉しかったなあ。

 心のアルバムにしっかりあの光景は保存してあるよ!


「……と、とっても美味しかったので……あの、わたくしにもいつか作ることができるでしょうか」


 照れながら上目使いで見てくるイザベラちゃん、なんでこんなに可愛いの?

 この子を婚約破棄しちゃうとか、王子の目ってやっぱり節穴なのかな?


 私は胸が打ち抜かれた思いで天を仰いだ。


「尊い……」


「え?」


「ううん、こっちの話。そうだね、それじゃあ今からイザベラちゃんのパジャマとエプロン買いに行って、帰りに食材とお鍋だけ買って帰ろうか!」


「は、はい」


「そしたら、一緒に作ろうね」


「! はい!!」


 ぱっと笑顔を見せて、いけないと思ったのか慌てて口元に手を当てたイザベラちゃんに私は笑った。きっと本当は、感情豊かな子に違いない。

 だけど、公爵令嬢で、王子の婚約者だったから努力して最高の貴婦人として振る舞っていたんだろうと思う。

 今まではどんなことがあっても、優雅に微笑んでいなきゃならなかったんだろうなと思う。だけど、私は感情を素直に見せてくれる方が可愛いなと思ったのだ。


「行こうか、イザベラちゃん。パジャマはどんなのがいいかなあ、あとワンピースと下着も一揃えいるし、まあ追加は明日以降買い揃えるとしても靴もほしいし、ああ、その髪の毛とか綺麗だから櫛とか髪飾りも買っちゃおうか、それから――」


「い、いけませんわ。そんなに散財をなさってはご迷惑がかかります!」


「そんなことないよ。イザベラちゃんは妹になったんだから、これまで祝えなかった『今日までの誕生日プレゼント』だと思って受け取って」


「誕生日、プレゼント……」


「そ。ああー、早く家具届かないかな。楽しみだねえ、お買い物!」


 私の言葉に目を丸くしていたイザベラちゃんが、目に涙を溜めて胸に手を当てている。

 嫌がっている様子はない。それどころか、嬉しそうに――本当に、嬉しそうに笑ってくれた。


「はい、わたくしも、楽しみです! アルマ姉様!」


 こうして、私は可愛い妹を手に入れたのだ。

 今までも毎日が楽しかったけど、これからはもっと楽しくなりそうです!

なんと、これまだ続きます(*´∀`)知ってたって?

次に番外編(王子側)の話を一つ挟んで二章になります!

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