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「今日も暑いねえ~」
「本当ですわね……アルマ姉様はおかわりありませんか?」
「私は大丈夫。辛いようなら果実水をもらってこようか、イザベラ」
「いえ、大丈夫ですわ! ……でも、もう何日も滞在しておりますのに、わたくしこの暑さにいつまで経っても慣れる気がいたしませんわ……」
ここは砂漠のオアシスと呼ばれる町、サァルス。
私たちが暮らす大きな大陸の中央に位置する砂漠を挟んで西と東、その中間点として栄える町である。
まあ、要するに交易で栄えている町であり、ここは商人たちが集う自治区なのだ。
そこに今、私とイザベラはいるのだ。
といっても、勿論我らがオトウサン、オリアクスも一緒だよ!
父さんの伝手、つまり大商会と呼ばれるソロニア商会の系列であるというホテルのスイートルームみたいな最上級の部屋を借り切って生活しているのだ。
なんかね、私たちを甘やかしたいんだってさ……まあ、ベッドもふかふかだしありがたいんだけど。
イザベラが初めての砂漠ということで、すっかり暑さ負けをしてしまっているのでゆっくり休める環境は大変ありがたい。
可愛い妹が元気でいてくれないと、私としても気が気じゃないしね。
窓の外は相変わらずの快晴で、見える景色は砂漠一色。
照りつける日差しはカンカンで、慣れない人間はすぐに参っちゃう暑さなのだ。
これで夜は毛布なしじゃいられないくらい冷え込むってんだから不思議だよね。
(何でも昔、この砂漠があった辺りは緑地で古代王国が栄えていたとかいう話もあるけど……今じゃあ不毛の大地でどこの国も欲しがらない場所だったんだよね)
しかしながらいつの間にかできてしまった砂漠のせいで大陸が分断されるようになれば、そこに別の価値が生まれた。
それぞれ離れて暮らす異文化、それこそが富を生んだのだ。
砂漠を越えるという危険を冒し手に入れた、貴重な異文化の品々。
大枚をはたいてでもそれを手にして周囲に自慢したい好事家や地位ある人々、それらを相手に一旗揚げようとする商人たち。
そうして、このサァルスという町は生まれたのだ。
「おお、ここにおったのかね可愛い娘たち!」
「父さん」
「お父さま」
「イザベラ、具合はどうだね? 冷えた果物を用意させたからね、もうじき持ってくることだろう」
「ありがとうございます」
ニコニコしながらイザベラの頭を撫でるオリアクスの姿は、実に娘思いの父親だ。
でもこのオリアクス、悪魔なんだぜ! びっくりだよね!!
まあ、実際の所血の繋がり? っぽいのは私だけど私が可愛がっているからその繋がりでイザベラも可愛いって言ってくれているので特に気にすることもない。
「商会の方はもう大丈夫なの?」
「おお、まったくあやつにも困ったものであるよ。娘が体調を崩しているというのに、我が輩をこき使おうだなどと……」
「申し訳ありません……」
「いやいや、慣れぬ環境なのだから仕方がない。ところでアルマ、あやつ……商会長であるアイニが二人に挨拶がしたいそうなのだが構わないかね?」
「へえ、商会長さんが。父さんの知り合いなんだよね?」
私があえてそう尋ねれば、父さんはにやりと笑った。
うん、その笑顔はちょっと悪魔らしくてかっこいいよ!




