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マリエッタさんに約束をしてもらったことで、フォルカスの帰省は終わった扱いになった。
再び彼は冒険者として旅立つ……そういうことになっている。
なっているっていうか、まあ、そういう立場なんだけどね!
「フォルカス、いつでも帰っていらっしゃい。お前の実家は、ここなのですから」
旅立つ日、女王様が見送りに来てくださった。
フォルカスはただ、小さくお辞儀をしただけで少し他人行儀な気もしたけれど、私たちの手前照れているのだということはもうみんな知っている。
まあ普段は私たちのフォローをしたり知恵を出してくれているポジションにいるフォルカスのそんな姿は新鮮だけどね!!
他の弟妹たちは見送りに来ていなかった。
あえて、女王様が彼らには見送らないように言っておいたらしい。
「ただ、もし、受け取っていただけるのであればこれを……」
ものすごく申し訳そうな表情をした女王様が差し出したのは二通の手紙。
一通はイザベラ宛で、もう一通は私宛だった。
「イザベラ嬢にはアレッサンドロから、アルマ嬢にはマリエッタから手紙を預かってきたのです。勿論、断っていただいても破棄していただいても構いません」
「……だって。どうする?」
差し出された手紙を見て、私は隣に立つイザベラを見る。
綺麗な紫色の目を少しだけ困ったように細めてから、イザベラは女王様に失礼にならない程度に小さくため息を吐いてから私を見て答えてくれた。
「一応、受け取らせていただきましょうか……ここまでお持ちくださった女王陛下の御為にも。ただ、失礼かと思いますが御前で内容を確認させていただければと思います」
「ええ、それは勿論。ありがとう、イザベラ嬢」
ホッとした様子の女王様を見て、やっぱり母親なんだなあと思わずにいられない。
手紙の差出人である二人が私たちに対して失礼な振る舞いをしたことは重々承知の上で、それで見送りをさせないと決めたのだろうけど……それでも、手紙だけでもと請われて断り切れなかったんだろう。
女王としては冷徹になれても、母親としてはやはり子供に甘いってやつだねえ。
(そういうの、別に嫌いじゃないから女王様に対して思うところはないけど)
女王様の後ろでフォルカスが苦虫をかみつぶしたような顔をしている方が気になるよ!
長男としての責任感なのか、女王様を情けないと思っているのか、それとも私を案じてのことなのか……後でこれはフォローしておいた方がいいのかな?
そんな風に考える私の横で、イザベラが手紙の封を切って読み始めたかと思うと笑顔で真っ二つに破いた。
ビリィィィって結構いい音がした。
「イ……イザベラ……?」
「女王陛下、大変失礼いたしました。殿下には過分なるお言葉を賜り誠に光栄に存じますが、この身には余りあるのでお断りをさせていただきますとお伝えいただけたらと思います」
「そ、そうですか」
「手紙はこちらで責任を持って処分させていただきます」
「いえ、ええ、その心配はしていないから……」
何が書いてあったのか!
アレッサンドロくんのことなので、きっと口説くような内容の手紙と共に私と一緒にいるよりも自分といた方が安全だとかなんとか書いてたんじゃなかろうか。
後でイザベラにそれとなく聞くとして、それはともかくご機嫌が直るように楽しいところに連れて行ってあげようかな。
「……アルマ嬢は」
「私は後で見るんでいいですよ、お気になさらず」
多分碌なこと書いてないからな!
女王様にこれ以上、要らない心配からストレスを与えてはいけない気がする。
ほら、なんたって恋人の母親ですから。
その辺、私だって気遣いの一つや二つしますとも!




