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とにかく、マリエッタさんが書く物語を待っていることは事実だ。
そしてよくわからないが、物語の通りにしているってことは、世界を救おうとしている……のかもしれない?
疑問符だらけの状況だけど、悪役令嬢って書かれてしまったイザベラの立場を考えると彼女が再登場するのかどうかを知りたい。
(……とはいえ、さっきの反応を見る限りはなさそうだけどね)
その辺は安心できたかな。
いや、あくまでだけど。エミリアさんが、ああいう扱いになったのがイザベラと私のせいだっていう風に思って私たちに攻撃を仕掛けてこないとも限らない。
なにせ、物語通りするためだけに、他人を操って妖精族を傷つけたり森の生き物を傷つけたりしていたような、得体の知れない連中なのだ。
(ほんと、何も分からなくてそれが不気味だよねえ)
物語を書かなくなればなったで奴らは原作者を探して書かせようとするかもしれないし、そうなればマリエッタさん周辺は危なくなるだろう。
どっからだって辿ろうと思えばなんとかなるはずなのだから。
だからって張り切って書かれると、それはそれで……いや、待てよ?
「ねえフォルカス、結局この後行動を起こすんだよねえ」
「まあ、そうなるな」
「……ならさ、ありきたりな手だけど王女様に協力してもらえばいいんじゃない?」
「協力?」
私の提案に、ディルムッドが怪訝そうな顔をする。
これまで彼はなんとも言えない表情をするばかりで珍しく黙り込んでいたけど、私の提案に興味を持ったようだ。
「そーよ。なんせ状況はまったくもってこちらに不利なのは変わらないでしょ。相手に関する情報はほとんどないし、囚われた妖精族の居場所や安否もなんにもわからない、けど協力するって約束もしちゃった以上何もせず待っているってのもあれだし」
私が肩を竦めてそう言えば、ディルムッドも笑った。
ランバとエリューセラたちは友人で、彼らが困っていた。それだけの話だけど、それで十分な理由なのだ。
勿論、そういう意味では……ディルムッドとフォルカスにとっては私の人間関係のついでになるのかもしれないけど。
いや、フォルカスは妹が関わっているんだから当事者なのかもしれない。
「まあ、なんにせよ……小説を待っている人ってのがいるのも事実だし、それを利用している連中を呼び寄せる偽情報を混ぜてもらえばいいんじゃないかしらね」
「……偽情報?」
「そう。……今後の展開については話せるかしら? マリエッタ王女」
「……いいわ、話してあげる」
魔王を倒してほしいと懇願されたヒロインは、お付きの青年と共に魔王の情報を求めて更に旅をする。
各地を巡り、聖女の光に協力者が増える中、魔王の真の目的がわかる。
なんと魔王は世界を食らいつくす穢れの大元である瘴気の塊の中に眠る、破壊神を目覚めさせようとしていたのだ。
悪魔の王はかつて、一人の少女を愛しともに暮らし幸せに生きていたが悪魔と人間の恋は禁断とされた故に、少女の命は失われてしまった。
その恨みと苦しみを耳にし、ヒロインは涙する……。
「って、どこまでベタなのよ!?」
思わずツッコんでしまった。
ああ、我慢していたのに!!
「どこがよ!? ヒロインの優しさに想いを寄せる男たちは彼女が一途に王子を想う姿に身を引くとか最高じゃないの!! それに魔王の暗い過去っていうのはお約束もお約束、どこが悪いってのよ!!」
わあ、相容れないわあ!
彼女の力説を聞きながら、私はげんなりする。
っていうか、ストーリー展開自体はどうでもいいんだよ。
いや、読者的にはどうでもよくはないんだろうけど……ただまあ、私が言いたいのはそういうことじゃなくてさ。
「じゃあ、まあそれは置いておくとして、ヒロインが魔王の情報を知る冒険者に会いに行くって文章加えて。で、そこにはかつて悪役令嬢だったイザベラ=ルティエの姿があったってね」
あちらがどういうつもりかはまったくわからないけれど、囮になってあげようじゃないの。
そうよ、私とイザベラが囮ってなんて贅沢なんだろうね!
一応、……魔王っぽいのもいるし。
魔王じゃないよね?
思わず父さんに視線を向ければ、よくわからないがにっこりと笑顔を返されたのだった。




