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「……それとこれとなんの関係があるんですの」
「関係はないな、いや、あるのか?」
フォルカスは問われて小首を傾げる。
ううん、それはどうだろうなあ。ある意味、イザベラには関係あるからそうなるとフォルカスからしてみれば将来の義妹が危険にさらされるかもっていう意味で関係あるといえばあるのか……?
正直よくわからないな!
「わたくしが何を申し上げても、信じてくださらなかったくせに今更お聞きになりますの?」
「ああ。だから今、確認している」
「そう、だと申し上げましたら……お兄様は意見を変えて、認めてくださいますの? これまで語ったあれこれを、戯言と流すことなく聞いてくださいますの?」
「……それは、お前が知っているというこの世界の話と私が関係あるのか」
フォルカスが、登場人物として出ている?
そういやディルムッドとか王様の隠し子で名うての冒険者で美形とか創作物のキャラで考えたらてんこ盛り設定なんだから登場人物でもおかしくないか!
ゲームでいったら隠しキャラ的な?
私は何を言っているんだ。声に出して言ってないけど。
(やっべ、その展開は考えてなかったわあ。あれ? それじゃあ私も案外いたりすんのかな)
マルチェロくんは一応登場人物的な位置にいそうだったし、世の中に出回っている小説が元々の小説を転生者が自分の記憶を元に書いたんならマリエッタさんも出ているのかもしれない。
(確か話の展開的に伝説の聖女の生まれ変わりが北の国を目指すとかなんとかあったもんね?)
王子は確定でしょ、それからエドウィン君も多分……続編に出てくる〝王子の腹心〟ってやつがそれっぽい。
まあ現実にはエミリアさんは修道院に預けられ、王子は他のご令嬢と結婚した後幽閉だか隔離だかが決定事項、エドウィン君も貴族から離れて今や一兵士。
みんな元気だろうか。
思わずそんなことを考えたのは、別に現実逃避しているわけじゃないよ!?
「そうですわね……ええ、そうですわ。わたくしは転生者です。そしてこの世界に起きている事象の一部を垣間見た人間ですわ!」
にんまりとした笑みを浮かべたマリエッタさんは、バッと両手を大きく広げて笑みを浮かべた。
あ、私その表情知ってる。
昔、あの漫画を持っていた友人が当時どハマりしていた別作品を語る時の表情に、よぉおっっく似ている。
これは、布教したくてたまらない、そんな感じの表情だ!
「いいですわ! わたくし、なんでも答えてさしあげてよ!」
高らかに宣言したところ、申し訳ないんだけど。
こちら側は思わずしらーっとした反応になったんだけど、彼女は気づいていないようだ。
いい気分で語らせるべきかと思ったけど、私はそれに対して手を挙げてみせた。
ああいうタイプって話し出したら長いからさ……。
「気合い入ってるとこ悪いんだけど、単刀直入に聞くね。この小説、心当たりあるかしら?」
小説を取り出して、テーブルの上に置く。
そうだ、ここは彼女の独擅場じゃあない。
フォルカスだけがやり合う場所でもないし、家族が争う場所でもない。
ただ、聞きたいだけの話。
「ふ、ふふっ!」
小説を見て笑ったマリエッタさんは、優雅な仕草でその小説を持ち上げた。
そしてパラパラと捲ってみせたかと思うとパタンと閉じて、テーブルの上を滑らせて私に返してきた。ほおー、なかなか挑発的じゃない?
私は受け取って、にっこりと笑い返してやったのだった。