はじまり
新連載、スタートです!
割とサクサク楽しめる話になっているので、のんびりお楽しみください。
私はアルマ。姓はない。孤児院出身で、今は冒険者をしている。
ただ、ちょーっとだけ周りと違うのは、私は転生者ってヤツなことだろうか。
きっかけは、育った孤児院でのボヤ騒ぎ。
どうやら火事かなにかで前世を終えたらしく、そのせいなのか悲鳴を上げて気を失ったのがきっかけで色々思い出したっていうね。
でもそのおかげで大人の損得勘定とかを理解して、一人で生きていけるくらい図太くなれました! ありがとう前世の私!
なんとここは剣と魔法の世界。
家族がいないのは寂しいけれど、魔法が使えて楽しいです。
前世、RPGとか大好きだったんだよね……!!
……で、今そんな感じで冒険者として気楽な生活をしていたんだけど。
今、私はある意味困った状況に陥っていた。
『イザベラ=ルティエ・バルトラーナ公爵令嬢、お前と婚約破棄をする! 同じ聖女であるエミリアを先達として導くこともなく、虐げていた事実! 許すことはできない!!』
『アレクシオス殿下、お待ちください! わたくしはそのようなことなど……!!』
『うるさい! 貴様の甘言などに耳を貸す私ではない。イザベラ=ルティエを王太子の名において貴族位を剥奪し、辺境の地にて労働を課するものとする!!』
わあ、なんだか色々想像できて怖い。
なにその三文芝居!?
私の前で、美しいという言葉がよく似合う美少女が、似合わないボロの衣服に身を包み、手枷をつけた状態で膝をついて静かに語るその話に、顔が引きつるのを感じる。
ちょっと待って、なんだかとんでもない話を聞かされていないかな?
「……と、いうことで学園祭のパーティーで突然言われてわたくしは、両親に会えぬままにこのように罪人として扱われ、馬車に押し込められて今に至ります」
「そ、そう……大変だったんだね……」
私はそうとしか言えない。
そりゃそうだろう。
旅の途中で馬車が襲われているのを見かけて助けたら、馬車の中から手枷を嵌められた美少女が現れるわその横で身なりの良さそうな小太りのボウヤが伸びているわ、状況がわからなくて話を聞いたら随分ヘビーな身の上で!
え? 公爵令嬢?
婚約破棄で身分剥奪? そんでもって追放?
っていうかこの国、王太子はまだ定まっていなかったはずなんだけど?
(ツッコミどころが多くて追いつかない……!!)
「そういえば、まだお名前を伺っておりませんでしたわ」
こてりと首を傾げた美少女に私は思わずどきっとした。いや、私はノーマルよ!?
それでもどきっとしちゃうくらいこの子は美少女なんだもの、仕方がない。
プラチナブロンドの髪に綺麗な紫の瞳、白い肌、すらっとした手足。ちょっと汚れてるけど、それでも有り余る輝き! コレを美少女と呼ばず何を言う。
「私はアルマ。さっきも言ったけど、冒険者ね。……誘拐かと思って事情を聞いたんだけど、ちょっと状況が状況ね……さすがに貴女の言葉を疑うわけじゃないけど……」
「違う! その女は罪人なんだ!」
困ったなあと思ったところでさっきまで伸びていたボウヤが目を覚まして、美少女の言葉にぎゃんぎゃん噛みついている。
まあ、両方から一応話を聞いたよね。正しいのはどっちかまだわかんないけど。
とりあえず、公爵令嬢が平民出身の女の子に嫉妬して虐めて、それを正義感たっぷりな自称王太子の王子によって断罪されて追放されたってことは二人の話に共通していたので本当のことなんだろう。
(ん? まてよ、この話どっかで見たな?)
ぎゃんぎゃん喚くボウヤを見て、美少女を見る。
うん、やっぱり見たことあるな。
いやでも私、孤児院出身だしそんな王城とかはめんどくさそうだから行ったことないし、となると中央のお貴族様の顔なんて知らないし……。
(違う、これなんだっけ。友達の家で見た漫画に……そうだよ、漫画だ)
前世の、転生ものが大好きだった友達の家に遊びに行った時に課題が終わらないから待ってろと言われて手持ち無沙汰で読んだ漫画に、似たような状況がなかっただろうか。
小説が原作で、コミカライズされたとかなんとか言ってた気がするけど……あんまり興味がなかったからタイトルも覚えてない。
(……おやおやあ……?)
読んでいた時からツッコミどころ満載だったんだよな……。
まあ、虐めるのはよくないけど、悪役令嬢役が言うのがもっともだったりするんで私はそっちを応援したくなったんだけど……。
友人に言わせればそれは『お約束』だから気にすんなってハナシだったんだけど。
(いやいや、ちょっと待って)
変な汗が出てくる。
ファンタジックな剣と魔法の世界に転生したとばっかり思ってたんだけど。
まさか、漫画で見た『悪役令嬢』の世界に転生した……とか?
でもそれしかないよねえ!!
私、つまり……状況的に、悪役令嬢、拾ったことになるのかな!?