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今尾三!!  作者: ながめ
1章 お助けメイドと、チート悪魔のお助け日和!!
5/110

アンデッドさんのお話②

――街はずれの荒野――




ぐつぐつと煮えたぎる、ゾンビのようによだれをこぼしながら見守る少女一人。




その少女のそばで、緑色の髪をした少女、エルフがゾンビになりかけていた男と、話を積もらせていました。




「それでは、町の住人のほとんどは、すでに別の町に、退去した後だと。」




「・・・ああ。」




男は、数日ぶりの人とのまともな会話だというのに、その返答はとても質素なものでした。




「ふむ・・・どうやら、ここが依頼のあった町のようですねっ!!」




「依頼?」




「ええっ!私たちのもとに”不死の王”なるものが現れたから、倒してほしいと依頼が来たんですっ!ねっミフユ!」




エルフは、まだ完成していない、鍋を勝手に茶碗(もちろん自分の分だけ)よそっている悪魔に声を掛けます。




「・・・そう。」




「なら、聖都の連中の依頼かもしれない・。」




「聖都・・・?」




「ああ、今回の騒動の中心にある都だ。」




「ふむ、原因が・・・その都にあると。」




二人の会話のそばで時折咀嚼音が聞こえます。されど、”シャリッシャリッ”という音と”マズッ”という声が時折聞こえてきます。




「だが、聖都は、もう駄目だ。あそこは完全に死者の町になっちまってる。」




「ああ・・・なるほど。」


彼は、まるで世界の終わりだというような顔をしています。


「俺自身も・・・もう町には住めねぇ・・・。」




男は、諦めたように・・・つぶやきます。




その間にも、”ボッ”という音と”・・・焦げた”という声が聞こえてくるあたり、その少女に反省の概念というものはなさそうでした。




「数日後・・・」




エルフは、あえて優しく笑います。




「もう一度、聖都に行ってみてください。きっと・・・あなたを受け入れてくれる都になっているはずですよっ!」




「・・・?・・・それはどういう・・・?」




少女の”正直・・・すまんかった”という声が聞こえてくるあたり、ようやく少女は、自身が犯してしまった罪を認識できて来たようです。




「それは、、、ついてからのお楽しみです!」




エルフは、完成した鍋をお椀によそうと、静かに、自分の分を半分、涙をこぼす銀髪の少女に分けてあげるのでした。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――

男と別れた二人は、歩き続けていました。


「ゾンビ・・・クリエイター業界にもたくさんいるって・・・聞いたことある。」


「ああ・・・確かに、ゾンビみたいな目をした人、たくさんいますねぇ・・・。」


「ますたー・・・ゾンビみたいな目・・・してる。」


「まあ、あの方は、もう存在が空気みたいですからね。」


「・・・ひどい。」


「ひどいのは、マスターの方ですよっ!、依頼料は1000に限定だなんてっ!」


「そうしないと、すぐに話が終わるからって・・・・言ってた。」


「明日の食事もままならないっていうのにっ!」


「・・・もう・・・もやしのフルコース・・・イヤだ・・・。」


そんな談笑(?)に花咲かせていると、大きな城壁に囲まれた巨大な都市らしきものが見えてきました。


大きな門にたどり着きますが、城門に見張りの人影はやはりいません。


悪魔は目をつむり、呪文を唱えだしました。


薄く輝く、悪魔。それに呼応するかのように門が輝き、ひとりでに、ゆっくりゆっくりと門が開きだす。


迎える者もおらずひとりでにその入り口を開いた扉を、


さも当たり前のように入っていく二人。彼女らを止める存在もまたやはり皆無。


時折、何者かが唸るような・・・そんな声が彼女らの耳に聞こえてくるばかり。


「どうやら、ここが件の町のようですね・・・。」


「・・・いっぱい・・・いる。」


城壁を越え、街の明かりが漏れ出してきます。光指すその先には・・・


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


壊れに壊れた建物の数々、窓ガラスという窓ガラスは割れ、所々には依然として火がくすぶっています。


元々、かなりの景観を誇っていたであろう町は、その姿を思い浮かべることさえできないほどに、無残な姿をさらしておりました。


―死が蔓延る都―


いたるところから、怨嗟の声と、何かを求めて歩み続ける、少し前まで”生きていたもの”。


彼らは、壊れた操り人形しかり、魂をなくした無機物のように街中を徘徊しておりました。


そこは、何百年もの間、聖都として輝いていた都。




今は、




腐敗と怨嗟の轟く・・・不死の町。




数えることなど、もはや不可能。




目の前の噴水は、血で染まり、歩くたびに、血肉を踏む。




「さて、行きましょうか?」




目的地へと足を向けるエルフとは対照的に、サキュバスの方は、目の前の光景から動こうとはしない。




「ミフユ?」




悪魔は、生者が残した血で書かれた遺言をじっと見ていた。




「ナッツ、、、は、、、何とも思わない・・・の?」




「?」




不思議そうに首をかしげるエルフ。




沈黙の時間・・・およそ、12秒。




「・・・ああ。」




納得したというようにつぶやくと。




「・・・・。」




「あんまり肩入れすると、」




一拍




「”サヨナラ”する時、悲しくなっちゃいますよ?」




その時のエルフの顔は、何とも叙述しづらい顔をしておりました。






「・・・。」




「・・・。」




「・・・。」




「・・・かもね。」




―でも、―




「醜悪のない世界には・・・麗美もない。」




醜いからこそ、世界は輝くことができる。だから・・・




「ミフユ、見ていたい、」




―もっと・・・―




「生まれ変わったこの体で・・・」




怨嗟の中で・・・




「この世界のこと・・・」




一拍




「醜さの・・・先にある・・・何かを・・・。」




複雑な表情をしてゾンビたちを眺める悪魔、




「ナッツは・・・どうなの?」




若干うつむいたエルフ。




「私は、あなたほど、」




繰り返し見てきた、欲望と憎しみ。




「この世界のこと、、、」




心の底から浮き出てくる羨ましさと、失望感。




「好きにはなれませんので。」




そして、すれ違う理想と本音。




エルフは一人歩きだす。




これ以上、この思考を続けたくなかったから。




「・・・そう。」




それに続くように歩み始めたサキュバス。




目の前には、




不死でかたどられた大きな人の壁。




―アンチルックス―




耳をふさごうとも聞こえてくる、生者を憎む怨恨の声。




時たま所々に入り口である隙間が顔を見せる”元”人が彩るうごめく壁。




一度はいれば、数秒で喰らいつくされる、ゲームバランスがぶっ壊れてしまった壁。


チートなしのプレイヤーは入ることさえも許されない。


そんな死の隙間。


唸る怨嗟の中、


迷うことなく、


二人は足を踏み入れた。



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