アンデッドさんのお話①
突然ですが、本の前の皆さんは、”サバイバルホラー”というジャンルのゲームをやったことがございますでしょうか?18歳以上という年齢制限がありながらも、様々なゲーム会社が自身の社運をかけて莫大な予算のもと、開発されるそのジャンルは、如何にそのジャンルがゲーム業界において重要な立ち位置を占めているか示しているわけなのでございますが、私は口にするのがはばかれるような超末端のクリエイターとしてそのジャンルのゲームを見るたびに、一体このゲームのどこに人々をそれだけ熱狂させる原因があるのだろうかとその度に考えさせられてしまうのでございます。絶望感、ストーリー、クリーチャー、様々な要因をそこに見ることができるわけなのですが、中でも、その大きな要因として挙げられるものが、スリルでございましょう。スリルのないサバイバルホラーなど、サバイバルホラーではない。
じゃあ、ゲームバランスを崩壊させるチートキャラみたいなキャラクターがそのジャンルに挑んだ時・・・そのゲームは、サバイバルホラーとしての金字塔を、果たして保っていられるものなのでございましょうか?
――――――――――――――――――――――――――
「痛ぇ・・・痛ぇよぉ・・・」
一人の男性が、苦悶に顔をゆがめながら、街中を歩いております。
今にも倒れてしまいそうな、ギリギリの状態です。
されど、残っている数少ない町の住人たちは、決して彼に近づこうとはしません。
「誰かぁ・・・助けて・・・」
男は、残っている人間の部分である左目から涙をこぼしながら、誰も答えてくれないだろう懇願を述べます。
顔半分は醜く腐り落ち、左目の涙とは別に、口元からはだらしなく、よだれがしたたり落ちています。
残り少ない数となっていた住人たちは、恐怖に顔をゆがめ、決して彼には近づこうとしません。
身をすくめて、されど、逃げ出すこともできず、
懇願するゾンビの声だけが、町のはずれで、空しく・・・囁かれるのみであったのです。
あと数秒で、彼は生者としての定義を逸脱した存在となってしまいます。
だから、彼の声に耳を傾ける人はいない。
生半可な偽善では、彼を助けることなど不可能だと・・・皆気付いているからです。
「ダットさん・・・包帯・・・包帯を・・・体が・・・いてぇんだ・・・。」
「ヒぃ・・・!!!」
ダットと呼ばれた雑貨屋の店主は、数歩後ずさった後、足を滑らせて、尻もちをつく。
「来るなぁ!!来るなぁ!!」
近くにあった棍棒を、威嚇のつもりで振り回すダットさん。
男は近づきながら、その最中でさえも、どんどんどんどん腐食が進んでいきます。
「ガァ・・いデ・・・うヴぅ・・・・・ガァ・・・」
涙は枯れ・・・男の眼には、すでに、目の前のその人は、町人ではなく・・・食べ物に見え始めていたその瞬間・・・
男の理性を本能が上書きしてしまいそうな・・・その間近。
―サプリ―ムキュール―
突如、淡い光が男を包みます。
「!」
腐っていた部分が、綺麗な肌に変わっていき。虚ろだった目に、生者のともしびが再度。
そして、男のそばには・・・銀髪の髪をした少女一人。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「肌が・・・!!!肌が・・・!!!」
ゾンビだったはずの彼は、驚きに目を見開きます。
されど、町の住人達も驚きに目を見開いております。されど、近づくもの、独りとしておらず。
「ヒぃ!!!」
ダットさんは、その場から逃げ出すと、他の町人同様散り散りに逃げていきました。
寂しそうに、悲しそうに・・・ゾンビになりかけていた男は、それを見ていました。
彼にはもう、彼らの輪の中に、戻る資格はないのだと、本能的に悟ってしまっていたのです。
無意識とはいえ、町人を襲ってしまいそうになったこと、生者の道を踏み外してしまった時点で、彼に居場所はすでにありませんでした。
「あんたは・・・?」
「・・・。」
男は、助けてくれた銀髪の女の子に声を掛けますが、女の子はぼぉーっとしたまま、
一言
「お腹・・・すいた。」
そう・・・つぶやきました。