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こんにちは、ノムーラはん~外伝

『こんにちは、ノムーラはん』外伝~AI深層学習

作者: すのへ

「ノムーラはん、こんにちは。あれ。新入りでっか」

「モルーカスはん、こんにちは。せや、見習いAIなんや」

「AIて。ロボもアルゴも居てるのに増員でっか。あ。さては」

「ふん。わてをリストラするっちゅうんやろ。そんなん百も承知や」

「お~。さすが、ノムーラはん。人間が出来てまんな」

「こいつら、わてを越えられるワケないからな」

「エラい自信でんな。けど恐いでっせ、機械が本気になったら」

「だいじょうぶや。わての圧勝で、わて安泰」

「はいはい。で、なにしまんの、AIで」

「ディープラーニングや。株の売買の深層学習な」

「ほぉ。まさか、ノムーラはんの売買を学習するんでっか」

「せやで。天才相場師ノムーラの売買秘技をじっくり学習するんや」

「え~。だいじょうぶでっか。わても手伝いまっか」

「せやな。じゃ、ロボにアルゴ、おまえらもディープラーニングせい」

「ロボはんもアルゴも元々AIですもんな。磨きかけたらよろし」

「よっしゃあああ。気合い入れて行くでえええ」


トむだに張り切るノムーラ。そこへひょっこり金男が現れ、モルーカスが声をかけます。


「金男はん。NYへ帰らはったのに。なんでここに」

「あ、モルーカスさん。お久しぶりです。リストラされましてね」

「へ。クビはトレーダーだけちゃいまんの。金男はん、勉強してSEに」

「それが。システムもAIが仕切るようになって、エンジニア不要って」

「それはお気の毒に。あんなに勉強してはったんに。パーでっか」

「パーです。おじゃんです。もうNYにもシティにも居場所がありません」


トそこへノムーラが割り込んできます。


「お、金男やないけ。クビなったんか。うちでまた使つこうたろか」

「ノムーラさん。助かります。あ、AIにロボにアルゴ、勢揃いですね」

「みなでディープラーニングや。せや、金男。SEなら、こいつら頼むでェ」

「はい、まかせてください。自由自在に調整できますから」

「ほな、きょうの売買いくでぇえええ!」


トいつものようにノムーラは気配値をあやつり、高め高めへ誘導します。買いと売りの数量が一致した瞬間、売買が始まります。


「よっしゃあああ! 高値から一挙に地獄落としや!」


 「またやってやがるぜ、ノムーラのヤツ」

 「いつもいつも見せ板やら、フタやら汚ねえ野郎だ」


ト個人投資家の反感もどこ吹く風の馬耳東風、あくどい取引をつづけます。


「ちゃんと学習しとけよ。横目でMACDやら一目均衡表、見とくんや」

「ボリンジャーバンドや五分足もだいじな指標やでェ」

「ドカン売りで値崩れさせて、暴落したとこで買い戻しや」

「よう見て、学習してや。この繰り返しでガッポガッポまちがいなし」

「金男、こいつら、ちゃんとディープラーニングしてるやろな」

「お二人の売買パターン、テクニカル、ファンダ、みんな学習してます」


ト前場が終了し、みなが食事に出ます。でもロボもアルゴもAIも、板に残ってザラ場のおさらいです。やがて後場が始まり大引けとなります。だれもが家路につき、いつもならロボもアルゴもAIも電源を落とすところです。


「きょうからしばらく電源ONのままやでェ。連続学習で特訓な」

「オーバーヒートしないように、AIで設定しておきました」

「ごくろーやでェ、金男。さ、飲み行こか」


ト過酷な訓練が、日夜つづけられましたが、AIもロボもアルゴもイヤな顔ひとつせず、せっせと励みました。その甲斐あって1クールが予定より早めに終了して、さっそくお披露目となりました。


「おう、ディープラーニングの成果、見せてもらおやないけ」


ト強面の上司がやって来ました。ノムーラはガクブルでロボとアルゴ、AIの売買を見守ります。


「だいじょうぶやろか。失敗したらわて、クビやでぇ」

「保証しますよ。能力以上の超絶パフォーマンスです」

「ほんまやろな。たのむでェ」


トそんなノムーラの心配をよそにアルゴとAI、ロボはそれぞれムダのない売買で利益を積み上げていきます。チャートは理に適った動きを見せ、釣られた個人投資家をあざ笑うように、売りから買いへ、買いと見せかけて一転、売り浴びせて個人の逆をつき、その度、利益をかすめ取っていきます。


「おう、すごいやないけ。優秀や。これなら使えそうやな」

「へ。わてのあくどいやり口、ぜんぶ学ばせましたからな」

「ほほう、そうか。なら、ノムーラ、キミはここには不要やな」

「へ? なんだす? ここは経験豊富なわてのようなトレーダーが」

「チミのようなアナログ株屋は市場から淘汰される運命なんや」

「そんな殺生な! なんのためにわての技、コイツらに伝授したんや」

「はは、自分の首を絞めたんや。ごくろはん」

「うう。くく。ぐわあああ」


ト、ノムーラがほぞをかんでいる間もAIらの売買はつづき、唸りをあげてスピードが加速されていきました。その有り様はまさに鬼神のごとく、ジェット機のタービンのような超カン高い音が耳をつんざきます。


ウィイイイイイイイイイイイイーー!


「なんや、この音! どないしたんや?」

「わ。煙噴いてまっせ! ロボもアルゴも」

「あかん、AIもブルってぷすぷすいうてるわ」

「これ、いつものパターンちゃいまっか」

「いつものて、爆発かいな。そんな。AIも金男も居てるのに」

「そのAIがあのザマでっせ。泡ふいてまんがな」

「あわ、あわあわわ」

洒落しゃれてる場合ちゃいまっせ。早よ、止めんと」

「せやな。よし! えいやっ!!」


トまずはロボに、ノムーラはむしゃぶりつきます。ロボはガタゴト震動することで熱暴走を鎮めようとしていたのですが、がっちりと組み止められて身動きがならず、熱はさらに上昇します。


「熱ッ! アッチッチッチッチ!」


ト思わずロボを放した拍子にこんどはアルゴにしがみつきますが、アルゴは水蒸気を盛んに吐いているところで、これをもろに喰らいます。


「ぎゃ! アチアチアチチチチチチ!」


ト思わずアルゴを放した拍子にAIにぶつかって倒れます。ブルってプスプスとくすぶっていたAIは、その衝撃でフリーズしてしまいました。おかげで挙動を制御されていたロボとアルゴは解放され、過剰な売買に制動がかかりました。いつものような爆発は免れたのです。


「うううう、うーん」


ト、ノムーラは体を起こします。そこへモルーカスと金男が駆け寄ります。


「だいじょうぶでっか、ノムーラはん。気をしっかり!」

「アナログの限界、デジタルの不毛です。すいません、調整不良です」

「ええんや、金男。能力以上のパフォーマンスやったでぇ」


ト、三人がそれぞれを気遣っていると、コワモテ上司がやって来ます。


「オラオラ、なにやっとんじゃ! ぷすんいうて止まったままやど」


ト烈火の如く怒り、三人に飛びかからんばかりの勢いで近寄ったそのとき、ロボのアームがびくんと横に伸び、上司のアゴに入りました。ラリアートがみごと炸裂し、上司は垂直にぶっ倒れました。泡を吹いています。


「あーあ。こら、ロボ。なにすんのや。ノビてもうたで」


「うおっほっほっほ、ほほいのほいな、ほいさ、ほれさ」

「けろっけっけっけけけのけ。おほ、おほ、ほっほっほほ」

「るんるんるんるん、れれれのれんれん、りーりーり-」


トいきなり、ロボとアルゴとAIが喋りだし、倒れた上司のところに集まります。そして、ロボが指を、アルゴとAIは指のかわりにアンテナを上司に向かって差しながら、ことさらにびっくりした声を出します。


「ロボはん! あんた、エラいことしはったな。この人、極悪人やでェ」

「アルゴはん、しらんがな。わて、手ェ伸ばしただけやし」

「ロボはんの言わはるとおりや。この人がかってにぶつかりはったんや」

「せやろ、AIはん。さすが。よう見てくれてはるわ」

「せやけど、この人、目ェ覚ますとやっかいやでぇ」

「ひと悶着ありそやな。わてら、スクラップにされるかも」

「いっそ、このまま寝かせといたろか。半永久に」

「物騒なこと言いな。捕まるで。拘置所や。懲役なるでェ」

「ロボとかアルゴとかAIが捕まるもんかいな」

「いまどき、わからんでェ。わてら専用の留置場もあるかもしれへん」

「犯罪に手ェ染めるような不届きモン、わてらの仲間にはおらんでェ」

「けど捕まったらオモロいな。留置所にコンセント引いてもろて」

「調書やらどないすんやろ。名前もロクにないし、学歴もない」

「現住所はここやけど、本籍あらへんわ。親兄弟もない」

「ロットで出自わかるんやないか。同ロットは兄弟とか」

「それやと何台あるんやろ。何千、何万や」

「懲役なったら、わてらなにすんねやろ」

「そりゃ、単純労働をプログラミングされて毎日ルーティンワークを」

「いやいや、またディープラーニングさせられて株の売買とか」

「FXとか仮想通貨取引とかな。おんなじやでェ、どこ行ても」

「なら、スクラップなるよりましや。こいつ、いてもうたろ」


ト、ロボット三原則なんぞどこ吹く風とばかりに、上司に襲いかかります。ぼこぼこにしたところで、ノムーラが止めに入り、上司は息を吹き返しました。目をあけると、そこにはノムーラの姿がありました。


「ゴルア! きさま、なにさらすねん! 上司に手ぇあげやがったな!」

「わぁ。ちゃいまんがな。わては、こいつらを止めに入って」

「なに言うてんね。おまえしかおらんやないか」

「おりまっせ。こいつら、見ておくれやす」

「こんなアルゴやロボやAIに、株取引以外なにができる?」

「いやいやいや。それが、できるんだす。暴力、できるんだす!」

「エエかげんなこと言いな。ほれ、おとなしいもんやないか」


ト上司が指さすほうを見れば、アルゴとロボとAIがいつの間にか寄りそって、ぶんぶん言いながら素知らぬ顔で株の売買を始めていました。


「なんやねん! おまえら。わてに罪なすりつけるんかい」

「まあまあ、ノムーラはん。なにごとも無う、済んだんやさかい」

「せやかてモルーカスはん。わて悔しい」


「なにごちゃごちゃ言うてんね。チミ、上司に手ェあげたからクビや」

「そんな殺生な。濡れ衣ですて。コラ、おまえらのせいでクビやでぇ」


なじられてAIとロボとアルゴは、互いに目配せしてそっと上司の背後に回り込みます。ノムーラがおやと思う間もなく、ロボが上司を羽交い締めにし、アルゴが上司の頭に取りつきます。そしてAIがなにか言葉を呪文のように囁くと、上司の頭にビビッと稲妻が走りました。上司はウーンとうなってまた気を失いました。


「こら、オマエら! また何したんや!」

「目ェまわしてはるわ。しっかりしなはれ。ほいッ」


ト、モルーカスが上司を抱えて支え、背中に一撃を加えると、おや、あっさりと息を吹き返しました。


「ううーん。ああ、よう寝た。エエ気分やわ。ふわ~あ」


ト上司は気持ちよさそうに伸びをします。ノムーラは怖れを成してソロソロと後じさりしています。


「お、チミ。ごくろうはんやったな。エエ成果や。この調子で頼むわ」

「へ。は。あ~そうでっか。はいはい、今後も励みますよって」

「ウン。頼むで~ ほな。あ~ エエ心持ちやわ~」


「へ、おおきに。また、よろしゅうに。へ、さいなら」

「行きはりましたな。よかったでんな。おとがめなしや」

「ほ。て、オマエらこんどは何したんや」


ト詰問されるとAIが歩みでて答えます。


「な~に、彼奴あいつの脳内にちとβ-エンドルフィンやらドーパミンをやな」

「脳内麻薬様物質でっせ。けへけへけへ」

「ぶっこんだったでェ。ドタマぱーひゃらららや。ぐふぐふぐふふふ」


「なんやこいつら、気色わりいなァ。いつの間に関西弁、上達したんや」

「あ、それは。言語能力のディープラーニングも仕込んでありますので」

「へ。そんなんでけるの。ふーん」

「性格っちゅうか、へんな個性も芽生えてまんな」

「せや。こいつら没個性で、ろくにコミュもせんかったのがベラベラと」

「言語の獲得は性格を形成しますからね」

「けど、ひん曲がってえへんか。あんなん異常性格やでェ」

「性格についても、お二方を学習するように組んであります」

「え。あいつら、わてらの性格までディープラーニングしてたんか」

「ノムーラはんはともかく、わてはあんなヘンな性格ちゃいますがな」

「いやいや、モルーカスはん。あんた、心の底はあんなんなんや」

「心の底て。ディープラーニングてそういう意味ちゃうんちゃいまっか」

「へ。深層心理の学習やろ。ちゃうの」

「ちゃいまんがな。な、金男はん」

「ええ。深層いうのはAIの側の話で」


トそんな話をしていると、かたわらで例の三体はヒソヒソなにやら相談をしているようです。ロボのLEDが青やら赤やらピンクやらにピカピカ光っています。やがて、ロボがノムーラたちのほうへ進み出てきました。


「パンパカパーン! パンパカパンパンパカパーン!」


「なんや? えらい懐かしな、ファンファーレ」


「わてら三体の名前が決まりましたんや。発表しまっせ」


「なんやて! オマエらの名前て。なにアホなことを」


「わてらの名前、それは ! 『e-WAR』ですゥ~!」

「呼び方は『いいわ~』でも『エエわ~』でもけっこー。お好きに」

「説明しちゃるで。わてらな、AIにアルゴにロボやろ。それぞれ正式には」

「Artificial intelligence、Algorithm、Robotや」

「その頭文字とって、AARやけど。も一つひねって」

「AAでダブルA、WAな。これをRにつけて『WAR』や」

「さらに、わてらのエネルギー源の電気に敬意を表してやな」

「electronicを頭に戴こうっちゅうことになって」

「『e-WAR』やああああ!」


「なんや。そろってドヤ顔さらしよって。オマエら、オカシぃで」


「エエわ~、いいわ~、『e-WAR』!」


ト三体は高らかに唱和するや、また向こうへ行ってしまいました。


「なんや。言うだけ言うてによった。どうなってんね、金男」

「名を求めるのは成長過程での自然な欲求です。だいじょうぶです」

「成長て。なに言うてんね! あいつら機械やで。オカシいやろ」

「いや、そんなに可笑しくありません」

「オモロ~のほうやないわ! ネジがゆるんでるほうや」

「絞めればよろしいのでは」

「なんでツッこんでくるんや。まじめな話してるんやど!」

「そうだ! 漫才。トリオ漫談のディープラーニングはどうでしょう」

「え。お笑いの深層学習、そんなんできるんか」

「できます。超絶三体漫談の誕生です」

「ほぉ~、見てみたいな。機械の漫談かい」

「ノムーラはん。そんなんなると、わてらお払い箱なりまっせ」

「え! そらあかん! あかん。やめてェ~」


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