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第八話 ある日の森の中、血濡れの惨劇。


 レグナとレティシアは王都セントラルを離れ、『スタッカート大森林』と呼ばれている場所までやってきていた。


「ふー、やっと着きましたね」

「セントラルから結構かかったな。帰りの時間も考えたら、狩りの時間は三時間ってところか」

「レグナは全然疲れてませんね……私は体力がないのでうらやましいです」

「体力っていうか、熟練度のおかげというか……まぁいい。来る途中にも確認したが、俺が魔物を倒しても相棒にも魔素が入るって認識でいいんだよな?」

「はい、召喚士は使い魔に戦ってもらって、自分の位階を上げると教えてもらっています」


 魔素。

 それはこの世界の言葉であり、クレセント・ワールドで言うところの『経験値』だ。

 ちなみに彼らは自分のレベルのことを『位階』と呼んでいる。


「じゃあどんどん倒して馬鹿にされないくらい強くならないとな。相棒」

「ちょっと気が引けますね……」

「どうしてだ?」

「だってレグナは前線で戦う訳じゃないですか。なのに私は見ているだけなんて……」

「いいんだって、そのうち相棒にもやってもらうことがわんさか出てくるからさ」


 レグナの言葉は真実だ。

 クレセント・ワールドでの『灰色』の召喚士の特性はかなり厄介な設定となっていた。

 初期能力値は最低、しかも呼び出せる使い魔は一体だけの上、最低ランクの魔物や獣なのだが、あるレベルまで上がるとどの『色』よりも頭一つ飛びぬけて能力値が高くなり、覚える魔法も才能限界を超えて、回復から攻撃まで多くの魔法を取得できるというものだった。

 武器適正もそれなりにあり、熟練度さえ上げられれば前線の盾役から後衛の火力や回復役にまでいける。


 クレセントワールドでは、この色の設定は自分ですることはできなかった。

 才能はすべてランダムで、『灰色』はどの職業でも有用な才能なのだが、その出現率の低さから『幻』とまで言われていたのだ。


 この世界でもその特性が引き継がれているのかは分からないが、その通りならば、レティシアはレグナにとって本当に相性のいい、最高のパートナーとなるはずだ。


 剣術がバグっているレグナはその剣技のおかげで前衛も後衛もやれる。変幻自在のコンビネーションでレティシアとタッグを組めるというわけだ。


「レグナがいいなら、いいんですけど……」

「おう、その代わり、強くなったら頼らせてもらうからな。――おっ、早速魔物発見。俺から離れるなよ、相棒」

「はっ、はい」


 森の中の浅い場所。そこにガルフが群れて居た。狼のような体躯だが、その顔は牙が大半を占めており、凶悪な雰囲気をかもし出している。

 大型の魔物、オーガを狩ったのか、食事に夢中になっている。 


 魔物を発見した途端、レグナの纏う気配がピリっとしたものに変わる。

 レティシアは驚きつつも、レグナの邪魔にならない程度の距離を保つ。


 そして――レグナはさっき拾った木の棒を『剣』だと認識する。

 ガルフとの彼我の距離は数十メートル。

 この距離なら『いける』とレグナは判断した。


 木の棒を腰に構え、一気に抜き放った。


「――っ」

「!?」


 ブオン、という轟音と共に放たれたのは、斬撃。

 それはその軌道上にあった木々を切り裂き、オーガの死体ごとガルフ全てを蹂躙した。


「ァ!?」


 ガルフは情けない声をあげ――絶命。

 胴体を上下に真っ二つにされ、内蔵や血液を撒き散らせながら、地に倒れた。


「……え、えーっと……レグナ、今……何を」

「ちょっと斬撃飛ばしただけなんだが……ま、まぁ素材買取しないガルフとオーガだし、討伐証明に牙だけ抜こうぜ! なっ」


 無理やり明るく取り繕うレグナだったが、レティシアの顔は晴れない。

 それはそうだろう。

 生い茂っていた草木は一定の高さで刈り取られ、斬撃の軌道上にあったものは漏れなく真っ二つになっているのだ。


 たかが木の棒で引き起こしたとは思えないほどの惨状である。


「……あ、位階あがりました。一気に七も上がって十二になってる……」

「そ、そうか、良かったじゃないか! はっはっは!」


 おそらくその辺で木に擬態していたレッサープラントも巻き込んだのだろう。

 その証拠に、魔力を帯びた核がむき出しになっている木が散見された。


「あの木ってレッサープラントだったんですね……しかも並大抵の攻撃じゃビクともしないはずの魔核が真っ二つ……」

「あっはっはっはっは……」


 レグナはもう笑うことしか出来なかった。

 万全に万全を期してこの結果だ。

 後悔はないが、やりすぎたとは思っていた。


 『斬撃』は本来、今のように飛ばすものではない。

 ただのスキルで攻撃力を底上げするだけの代物のはずだった。

 しかし、バグった熟練度はキチンと仕事をしてくれたのだ。


 攻撃力を規格外まで引き上げた後、レグナが振った木の棒の切っ先はとんでもない攻撃力へと変貌を遂げていた。

 そのせいで切っ先に真空波が生まれ、飛ぶ斬撃と化したのだ。


「まぁ見通しも良くなったし、コレでこの周辺も安全になったんじゃ――」


 レグナが現実逃避をかねてレティシアに言い訳をした、その時。


【ォォォォォオオオオ!】


 地の底から聞こえてくる呻き声のような音が当たりに響き渡る。

 それと同時に、遠くの方から大きな質量をもった物体が、バキバキと木をなぎ倒しながら進んでくる気配を感じた。


「い、今の声って……」

「やっば、エルダープラントの声だぞ今の……こいつらアイツの配下だったのか」

「れれれ冷静に分析してる場合じゃないですよレグナ! 早く逃げないと、エルダープラントに殺されちゃいますぅぅぅ!! ぐぇっ」


 回れ右して逃げ出そうとするレティシアの服を引っ張る。

 首の後ろあたりを引っ張ったので首がしまったようだ。


「あ、悪い」

「げほっ、げほっ――悪い、じゃないですよっ、早く、早く逃げ――」

「まぁ、どうせエルダープラントだろ? この程度、逃げるほどのものじゃないさ」


 ――ガルフであの弱さって事は、大したことは無いな。という言葉はレグナの胸の内にしまっておいた。


「何を馬鹿なことを言っているんです!? あれは正規の王国騎士が一個小隊分集まってようやく狩れるかどうかってくらいの魔物ですよっ!? レグナが良く分からない強さをもっていても絶対――」


 涙目のレティシアを見て、レグナはすこし罪悪感に駆られる。

 だが、これは必要なことだ。

 レティシアは自分には絶対に勝てない相手がいると思い込みすぎている。


 ここは、使い魔である自分――レグナ・クレセントの力を見てもらい、自分に自信をつけてもらわなければならないとレグナは考えていた。


 なので逃げようとするレティシアを確保していたのだが――その数秒後、エルダープラントの巨体が姿を現した。



 レグナはチラリとエルダープラントを『観察』する。

 基本技能の『観察』は、相手のレベルを見ることができるものだ。


 そこに表示されていたのは――レベル『250』。


 クレセントワールドのラストに近い魔物のレベルだった。


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