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第六話 とりあえずお金を稼ぎに行きたい

「相棒!」


 ガチャリ、と部屋のドアを開けてレグナはレティシアに片手をあげて挨拶した。


「なんでレグナさんが私の部屋に!? せ、セリカさんと一緒に夜の街に繰り出したんじゃないんですか?」


「……うん、ほんとゴメンな。なんて言ったらいいか分からないけど……ほんとゴメンなさい。俺はレティシアさん一筋なんで、ホント、ゴメンなさい」


 土下座した。

 見事なまでの土下座だった。


「ふ、振られたんです?」


「いやまぁ……振る振らないの前に、あれは冗談というかなんというか……いや、振られたな。うん。俺セリカさんにこっぴどく振られたんだ。だからってわけじゃないし、見苦しいかもしれんが……レティシアさん! もう一度俺を使い魔として扱ってくれ!」


 またしても頭を下げて謝るレグナを見て、ぷふっ、とレティシアは笑った。


「ふふふっ、あんなに強いのに、そんなに簡単に頭を下げるなんて……本当に変わった使い魔さんですね」


「許して……くれるのか……?」


「当たり前じゃないですか。わ、私はあなたの主人――いえ、相棒なんですよ? それに、あなたのお陰で私は魔術学院に居続けることができますし……こちらこそ、変なことで怒ってごめんなさい」


 二人で頭を下げあった。

 そんなことがおかしくて、どちらがともなく笑った。


「これからは堅苦しい【さん】付けなんてやめて、呼び捨てにしてくれ。――改めて、これからよろしく頼む。レティシア!」


「えぇ、レグナさん――いえ、レグナ! よろしくお願いしますね!」


 レグナ、と呼び捨てで口にしたレティシアはちょっと恥ずかしそうだったが、レグナはとても嬉しかった。

 契約した時よりもレティシアとの繋がりを強く感じたからだ。


「そういえば、レグナはどうして私の部屋に?」


「……俺は君の使い魔なんだろう? なら、寝食を共にするのは当たり前なのでは?」


「え、えぇ……さ、さすがに……それはちょっと……」


「デスヨネー」


 すごく言いにくそうに断るレティシアを見て、レグナはガクッと肩を落とした。

 レグナは、「まぁ当たり前だろう」とも思うが、夢だった【女の子と一つ屋根の下でドッキドキ】生活がなくなったことに少し、ほんの少し、ショックだった。


「ご、ごめんなさい! レグナがダメっていう訳じゃないんですけど……。その、わ、私……――ないんです」


 レティシアがボソボソと恥ずかしそうに言うので、レグナはちょっと聞き取るのが難しかった。


「ん? ない? 何が?」


「~~っ……」


 すると、もっと顔を真っ赤にするレティシア。

 だが、これだけは言わないといけないと思ったのか、蚊の鳴くような声で、ようやく声を出した。


「お、おかね……ない……から、ごはんとか……ないんです」


 相当恥ずかしかったのだろう。言った瞬間顔を覆って上を向くレティシア。

 その悲壮感たるや――レグナが思わず頭を下げるほどだった。


「……すまん」


「いえ……いいんですよ……相棒一人養えないダメな女……それがわたし……」


 ぶつぶつと言いながらレティシアがしゃがんで「の」の字を書き始める。

 変なスイッチが入ったようで、落ち込み具合がハンパなかった。パない。


「……なぁ相棒。金さえ稼げれば一緒に住んでもいいのか?」


 そのレグナの言葉に呆気にとられたようにレティシアはレグナを見た。


「へ? そりゃそうですけど……でも、私みたいな【灰色】がお金稼ぎなんて……」


 どうやらレティシアはレグナと一緒に住む分には抵抗はないようだ。

 そうとわかったのなら、レグナのやることは一つであった。


「外の魔物を狩って金にしたりできるんじゃないか?」


 その言葉にレティシアは首を振る。


「それには外に出て魔物を狩ったりしないと……私は出来損ないですし、そんなことは――」


 レティシアはまだ【出来損ない】と呼ばれていた時の引っ込み思案があるらしく、レグナのことを自分の【力】だと認識していなかった。

 レグナはうっすらそう感じてはいたが、このような姿を見せられると、レティシアの不憫さに歯噛みする思いだ。


「いやいや、相棒。俺を誰だと思っている」


 ちょっと強めに自分を指さしながらレグナが言うと、


「そりゃ私の相棒ですけど……あっ――」


 レティシアはようやく気付いたようで、顔が一気に明るくなった。

 目の前には総合力【840】のルインの使い魔を倒した強い存在がいるのだ。


 つい昨日まで【出来損ない】のレッテルを張られていたが、これからはそうではないのだ――その考えに至ったレティシアは、目の覚めるような思いだった。


「ででで、でも、いいんです……?」


「いいもなにもあるか。俺は君の相棒であり、使い魔だ。俺の力を見ただろ? あの力を――君は好きなように使っていいんだぞ」


 レグナがニヤリと笑うと、レティシアはシャキッと立ち上がり、輝いた瞳でレグナを見た。


「あなたの力さえあれば、大金を稼げるに違いありません! 早速魔物を倒しに行きますよ、相棒!!」


 余程生活が困窮していたのだろう。

 お金を稼げると分かった途端に元気になるレティシア。

 その姿を見てレグナは、


(魔物を倒せば相棒の召喚士としてのレベルもあがるし、お金も稼げて生活も豊かになるし……だが、遅咲きの【灰色】って考えても、どうも引っかかるんだよな。この【クレセント・ワールド】みたいな世界では、使い魔もなしに狩りに出て金を稼ぐってのは無理なものなのか……?)


 などと思いながら、灰色の長髪を揺らしながら歩く、相棒の後を着いていった。


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