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第五話 寮生活における同衾問題について

「ん?」



 レグナの目の前には先ほどと変わらず、レティシアがベンチに座っていた。

 これは――とレグナは焦る。


「えっと……相棒? 送還ってかけたのか?」


「おかしいです! 確かに発動したはずなんですけど……失敗しちゃったのかな……。も、もう一回かけますね?」


 そしてもう一度レティシアは【送還】を使用する。


 先ほどと同じようにレグナの体が浮かび――そのまま着地する。


「……【送還】! 【送還】! 【送還】!」


 レティシアが焦った様子で『送還』を連発する。

 だがレグナの体は少し宙に浮いて、そのまま戻った。その繰り返しだ。


 何回やっても送還されないレグナを見て、レティシアの顔が段々と青くなってきていた。


「えっ……な、なんでレグナさんが送還できないんですか!? も、もしかして私大変なことをしてしまったんじゃあ……」


 泣きそうになっているレティシア。


「待ってくれ相棒、落ち着け。なんとなく理由がわかった」


「ふぇ?」


 何と言おうものか迷うレグナだったが、意外とすんなりと理由が出てきた。


「――俺、もうすでに相棒のところが【帰る場所】って思ってるからかもしれん」


 これは嘘ではなかった。

 違う世界とはいえ、レグナはすでに【レティシア】という人間をこの世界での相棒と認識しており、レティシアの傍らには自分がいなければいけないと思っていた。

 もちろん、ロリ巨乳だからという理由も過分に含まれているのだが……。


 そして元の世界に帰ったところで待っているのは地獄のような【何もない生活】だ。

 何の目的もなくゲームを消化する日々――そんなところには戻りたくはない。


「で、でもそれじゃあレグナさんの元居た場所には帰れないんですよ!?」


「俺は別にそれでも困らないな。俺の元居た場所には財産もないし親しかった知り合いもいないんだ。それに――俺はもう決めてんだよ。君の使い魔になるってな」


 くいっ、レグナはレティシアの顎を持ち上げる。

 我ながらクサすぎる演技とセリフだが、どうやらレティシアには効いたようで……。


「――っ/// そ、そうなんですか……それならしょうがない……です」


 赤面して視線を逸らしてしまった。

 あまりのレティシアの可愛さにレグナの頭の中では(ロリ巨乳万歳音頭)なる音楽が流れ始めてトリップしかけたが、なんとか現世に踏みとどまった。


「そうそう、しょうがないんだ/// はははっ……」


 気まずい空気が流れそうになったその時だった。



「あらぁ~。レティシアちゃんじゃないの~、こんなところで逢引~?」


 おっとりした声でこちらに話しかけてきたのは、おっぱいだった。


 いや、違う。

 レティシアより大きなはちきれんばかりのおっぱいを強調させるような、胸が大きく開いたエロい服を着ている――金髪のロリ巨乳娘だったのだ。


 その人を見て、レティシアは声を上げる。


「あ、逢引じゃありませんよ、セリカさん! この人は私の使い魔の――」


 その姿を見た瞬間、条件反射のごとくレグナはセリカの前に出た。

 そしてそのイケメンボイスで、


「レグナ・クレセントです。初めまして麗しき人。今夜俺と一緒に呑みに行きませんか?(キリっ)」


 などと言ってしまっていた。


「あらあら~? こんなイケメンさんに誘われるなんて、私も捨てたもんじゃないわね~。私はこの女子寮の管理をしているセリカよ~。よろしくね~」


 いきなりのレグナの奇行にレティシアも驚いた。


「ちょっとまってくださいレグナさん! あなたは私の使い魔なのでしょう!? なんでセリカさんを口説いているんですか!」


「ち、違うんだ。これは条件反射で――つい」


「つい、じゃないです!」


 ぽかぽかっ、とレティシアが軽くレグナを叩く。

 あぁ気持ちいいな、などと思ってまたもやレグナはトリップしかける。


「ふふふ、レグナさん? そんな可愛い彼女がいるのに、私みたいなおばさんを誘うものじゃないわよ~?」


「おばさんだなんてとんでもない! セリカさんのその美しさはまさに月も恥じらう乙女そのもので――!」


「レグナさんのバカっ、もうしらない!」


 ついにレティシアがプンプンと怒りながら女子寮の中に入っていってしまった。

 その姿を見たレグナはようやく正気に戻る。


「ハッ!? 相棒!? いったいどうしたんだっ」


「……天然さんなのかしら~?」


「くそぉ、勝手にロリ巨乳に反応してしまうこのクセ、どうにか直さなきゃいけないな……。と、ところでセリカさん、俺の主で相棒でもあるレティシアが女子寮に入っていったんだが……」


 レグナはセリカに説明した。自分はレティシアのいる場所が帰るべき場所であり、送還の魔法が効かないことと、使い魔としては近くにいたいという希望。


 寮の管理をしている以上、召喚士と使い魔が同じ部屋に住むことはあり得るのか、ということも併せて聞いてみた。


 するとセリカはレグナに満面の笑みを浮かべた。


「えあなたは男性――されど使い魔なわけよね~……。基本的にこの【女子召喚士】の寮では男性やオスでも使い魔との生活を認めているけれど……もし【間違い】が起きそうになったのなら、覚悟しなさいね~?」


 その忠告と共に放たれた気迫は、レグナの本能を怯えさせる程のものだった。

 レグナのたくらみはすべて見抜かれていたのだ。


 すなわち、ロリ巨乳レティシアちゃんの使い魔になれたし、同衾しても問題ないよね☆ という目論見だ。


 しかし、セリカの異常なまでの気迫に、レグナはすでに縮み上がってしまっており、そのような蛮行に及ぶ気概などすべて吹き飛んでしまった。


「……絶対に、【間違い】を起こさないよう、誓いまする……」


「なら、いいわよ~」


 セリカの許諾の声に、レグナはホッと安堵の息を吐いたのだった。

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