第三話 初めまして。俺、バグキャラです。 2
「この学院は実力を重視します。数値上はあなた方の魔法は使い物になりません――なので、私と戦い、その力を周囲に示しなさい。学院に残れるだけの実力を持っていると証明するのです」
――その言葉を聞いた全員が思っただろう。
この王女はとてつもなく『いやらしい』やり方をする人間なのだと。
だがしかし、ルインの心中は複雑なものであった。
この国は実力至上主義。魔法が強いものは上に立たなければならない。だがそれでも外聞というものはある。
王女である自分のクラスから、強制的に退学にされたものがいた――そんな噂が広まりでもしたら、『情に厚い』イメージを築いてきたルインの評判が、すぐに崩れてしまう。
そう思う一方で、小等部からレティシアを見てきた彼女はこうも思っていた。
(あのいつも頑張っていたレティシアが召喚した『使い魔』が、総合力ゼロ――弱いわけがありません)
それは確信に近い願望だった。
『灰色』と呼ばれていた少女に、かつて助けてもらった恩を、彼女は忘れてはいない。
だが――もし、本当にレティシアの頑張りがすべて無駄で、『ハズレ』の使い魔を呼び出したのだとしたら。
自分のやっていることはただの保身に走っているだけの、唾棄すべき行為である。
しかも、恩を仇で返すようなものだ。
それでも、ルインにはこうする以外に方法はなかった。
教師ゲゴラは実力至上主義を体現したような性格であり、『灰色』のレティシアを退学に追い込もうとしているのは知っていた。
だから、レティシアたちに『実力』さえあれば全く問題ない。
「なかなか粋なことをする嬢ちゃんだな。なぁ相棒?」
ニヤリと笑ってレグナは相棒であるレティシアを見る。
しかし、レティシアの様子がおかしいことに気付く。
「そ、そんな……ルイン様の使い魔は総合力『840』ですし――」
明らかに負けることが分かっているようなその態度に、レグナはため息を吐いた。
(まぁそう思うよなぁ。だって俺、魔法で見れる総合力とかいうの『0』になるように設定したし……)
だがレグナはあえて空気を読まない。
いや――その程度の総合力の敵など、足元にすら及ばない。
「いいぜ。さっさとそのご自慢の使い魔とやらを召喚して俺と戦え」
「れ、レグナさん!? いったい何を考えているんですかっ!? し、死んでしまうかもしれませんよっ!?」
レティシアが涙目で訴えかけてくるも、俺はそんなレティシアの唇の前に人差し指を立ててやる。
「俺のことを信用していないのか、相棒? 大丈夫さ――なんてったって、俺は君の『使い魔』なんだろう?」
それは知らぬものからしてみれば、良い笑いの種だったのだろう。
なにせ大言を吐いているのは総合力ゼロの使い魔。馬鹿みたいに『灰色』の召喚士のことを誇りに思っているような言動をしているのだから。
だが――対するルインは何故かレグナのその行動に震えが走る。
怯え、恐怖、そのような感情が自分の内から湧き出て高まっていくのだ。
ルインはその感情を頭を振って追い出し、教師ゲゴラに告げる。
「ではゲゴラ先生。あなたもほかの生徒と一緒にあちらの方へ行っていてください」
王女の一声で仕方なしに、といった様子でゲゴラは訓練場の端へと移動した。
ざわざわと騒がしい雑音をルインは振り払い、『セラフィネス』を召喚した。
六枚羽根の天使が降臨する。
戦闘の臭いをかぎ分けたのか、『セラフィネス』はすでに身構えてルインの前に立っていた。
ジリジリと焼けるような熱気をレグナは感じた。
圧倒的な強者の気配に、生徒たちはざわめく。
観客たちは『総合力ゼロ』の使い魔がどんな風に死ぬのか楽しみにしている――そういう雰囲気だった。
そして、『セラフィネス』の勝利を確信している。
レティシアはただ、目の前に立つレグナを見ることしかできていない。
『セラフィネス』の威圧で動けないのだ。
しかし――レグナは悠然と前に進み出て、独り言のように呟いた。
「あー、セラフね。それなら簡単だ――『殺さなくて済む』」
試合開始の宣言。その直後。
瞬間――『セラフィネス』の見ていた世界が揺らいだ。
否、いつの間にか『セラフィネス』は轟音を立てて訓練場の壁に叩きつけられていた。
訓練場が、静まり返った。
「「へ……?」」
そんな阿保みたいな声が、重なった。
レティシアとルインの声だ。
相対するレグナは果たして――無傷。
しかも試合開始位置から動いてすらいない。
いや、彼はレティシアの方を見た後、ルインの方へ歩いていき――その白い喉元に手刀を突き付けた。
そしてニヤリ、と笑い。
「初めまして。俺、バグキャラです」
そう言ったのだった。




