第十八話 座学とは?
授業の始まりを告げる鐘がなり、教室へ一人の女性が現れた。
切れ長の瞳に、深い青色の髪。軍服のようなものを着た背の高い女性である。
その女性は教室に入った瞬間、レティシアの方を見て、それからレグナを見た。
レグナとその女性が目が合う、
レグナは何てこともないように視線を返すが、女性の瞳には期待、そしてわずかな驚きが混ざったような色を帯びていた。
なんなんだ――とレグナが声を上げそうになった時。
「「ディアレント様!?」」
その女性の姿を見て教室がざわめいた。
ルインまでもがその名を口にしていたので、レグナは首を傾げる。
「教師はあのおっさんじゃないのか?」
「そのはずだけど……」
レティシアもレグナと同じく状況が呑み込めていないようだ。
そんな二人の様子を見たルインは「信じられない……」と呟きながら『ディアレント』と呼ばれた女性を見ていた。
騒ぐ生徒たちを見て、女性は片手をあげる。
「興奮するのは分かるが、静まってくれたまえ」
女性がそう言うと、生徒たちは一瞬で静まり返った。
レグナの頭には「?」マークが浮かびまくる。
女性は一拍おいて自己紹介をした。
「諸君の中にはワタシのことを知っているものも居るかもしれないが、自己紹介をしよう。ワタシの名は『ヴァレリア・ディアレント』だ。君たちと同じ召喚士であり、国の騎士団にも所属している。あとは……そうだな、前回の『魔導決闘』では7位だった。
体調不良で休職されているゲゴラ教師に変わり、彼が復職するまではワタシが君たちの指導をすることになった。よろしく頼む」
「「「お願いしますっ!!!」」」
ほかの生徒たちは立ち上がり、礼をする。
ああ、とレグナは納得する。
ある程度の実力者ということだ。
ヴァレリアは挨拶をした生徒たちを見て微笑む。
だが、その次に足を机に上げたままのレグナを見て苦笑した。
「皆素直で大変よろしい。だが――君、レグナ君だったかな? レティシア君の使い魔の。その、非常に尋ねにくいのだが……君は、いや、君たちはなぜそこに居る?」
その質問の意味が分からなかったが、レグナはヴァレリアが不満そうな顔をしていることだけは理解した。
「君たち」という問いからレティシアも含まれていたのだが、彼女はその問いをあまり好意的に捉えていなかった。『灰色』だから見くびられているのか、とも思ったが、かの『ヴァレリア・ディアレント』がそのようなことを言うはずがないと自問自答している途中だった。
なので、必然的にレグナがヴァレリアの質問に答えた。
「なぜかと言われても、相棒がここの生徒だからだろう? なにか問題でもあるのか」
挑戦的に言うレグナだったが、その言葉に返されたのは意外な言葉だった。
「そのようなくだらないことを言っている訳ではない。私が言いたいのは、なぜ君たちはそれ程の実力を持ちながら『こんなところ』に居る? 実力だけで言えば……相当なものだろう? この学院で学ぶべきことは君たちだとあまりないと思うのだが?」
その言葉に、隣に座っていたルインはもちろん、他の生徒たちが騒めいた。
7位があの「レティシア」を認めた――その衝撃は大きかったのだ。
「相棒が学院に所属しているか卒業しなきゃ『魔導決闘』に参加できないって言ってたからな。それに、相棒が召喚士として目覚めたのは一昨日のことだし、まだ対人戦の実力もついてない。ここなら練習相手に事欠かないだろうし、ケガさせても治癒師がいるならすぐ治せるだろ?」
レグナの言葉にヴァレリアは「なるほど」と納得する。
周囲の生徒たちは未だレティシアの実力を信じられていないようで、ヴァレリアの言葉を受けて困惑と嫉妬の混じった視線を二人に向けていた。
「君がそういうならすぐさま模擬戦をしよう。相手はワタシだ。ほかの諸君は教科書を読んでてもいいし、模擬戦を見ていてもいいし、他のものと模擬戦をしても良い」
「ヴァレリア先生! 今は座学の時間ですし、模擬戦ができる訓練場は午前中はほかのクラスが使っているはずですが!」
生徒の一人――テレジアが声を上げた。
その言葉にヴァレリアは横に首を振った。
「確かに座学は大事だが、やるのは戦術や魔法の基礎理論だ。そんなものは家でやれ。ここは『学院』という場所ではあるが、己の武を磨く場所でもある。それに今から行う模擬戦は『魔導決闘』とは違う。ルールで縛られない戦いだ。レティシア君はともかく、ワタシも使い魔を召喚させてもらう
「だから先生、その模擬戦の場所がないんです!」
「何を言うか。――ここにある」
ヴァレリアが『何か』を召喚すると、教室にあった机と椅子が瞬時に消え去り、空間が拡張された。
だだっ広い空間の中に、レグナたちを含む生徒全員はいつの間にか立っていたのだ。
位置関係はそのままに、ヴァレリアは生徒たちに告げる。
「ここはワタシの使い魔が作った空間だが、これによりワタシの戦闘力が阻害されることはない。安心してくれ。午前の授業は座学ではなく、模擬戦とする。みな、思い思いに鍛錬するといい。ワタシとレティシア君たちの模擬戦が終わればソチラも見て回るので待つように。もちろん、ワタシを待たずにほかのものと模擬戦をしていてもいい」
有無を言わさぬその物言いに、ルインやテレジアを含めた生徒は何も言えなかった。
ここは実力主義の国。
自分より実力のある相手の言うことは聞かなければならない――なので、生徒たちはしぶしぶといった様子で、ヴァレリアやレティシアの周りから離れ、十分な距離をとる。
全員、ヴァレリアとレティシアたちの戦いを観戦することにしたのだ。
「はぁ……随分と脳みそが筋肉で出来たような教師だな。で、どうする相棒? なんか戦うハメになったんだが」
「どうするもこうするも、やるしかないでしょう」
レティシアの声には少しの不安があった。
レグナ以外では初めての対人戦である。不安にもなるか、とレグナは思う。
「大丈夫だ。相手さんも使い魔を使役してるが、こっちも俺がいるだろ? やりながら教えるから――勝つぞ?」
「――ええ。こんなところで負けてちゃ『魔導決闘』でも勝てないもの」
こうして、思いもよらぬ場所とルールで二人は『魔導決闘』7位の実力者と戦うことになったのだった。
書く時間とれませんでした(;´・ω・)
来週の土曜日2/22から更新再開します!(`・ω・´)ゞ




