第十四話 休日前夜
結局、冒険者ギルドで得られたお金は合計でアクリス大金貨で1枚分。
討伐報酬と合わせればそこそこの金額なのかな、と思ったが、レティシアが目を白黒させていたので、おそらく高額なのだろう。
聞いてみれば、アクリス王国の貨幣には大中小の金、銀、銅の貨幣があり、それぞれ大はその貨幣の100枚分、中は10枚分だそうだ。大銅貨10枚で銀貨一枚と同じで、大銀貨10枚で金貨一枚分の価値だとか。
だが一般的な数え方は~金貨~枚というのはあまりしないらしい。
100アクリスで大銅貨1枚、10,000アクリスで中銀貨一枚といった感じで。
忘れないようにレグナはメモに残した。
ちなみにレティシアは田舎者だったらしいので、まだ貨幣感覚はアクリス~貨~枚という数え方をしてしまうようだ。
――――――――――
1 小銅貨
10 中銅貨
100 大銅貨
1,000 小銀貨
10,000 中銀貨
100,000 大銀貨
1,000,000 小金貨
10,000,000 中金貨
100,000,000 大金貨
――――――――――
1アクリスを円にするとこうなる訳だ。
ということは――レグナは目を丸くする。
大金貨一枚、一億円相当の価値というわけだ。
「こ、こんなに高いのか」
「びっくりしたわ……まさか、しばらく遊んで暮らせそうなお金が手に入るなんて……」
小金貨や細かいお金に崩してもらったおかげで、袋に入った貨幣の音が部屋に響く。
冒険者ギルドの酒場で遅めの夕食を食べ、召喚士の女子寮に戻ったのは先ほどであり、もうすでに時間は日付を跨いでいた。
銅でもいいことだが、夕食を食べている間はおろか、ギルドに居る間、冒険者の誰からも話しかけられなかった。冒険者たちは遠巻きにこちらを見るだけだったのだ。
レグナはテンプレイベントの絡まれるのを少しだけ期待していたのだが、周囲からしてみればたまったものではない。
あきらかに異常な気配を放っている化け物が、同じ空間で食事をしていたのだ。
恐れこそするが、近づこうとはしなかった訳なのだが、レグナとレティシアはそんなことを知りもせずに悠々と夕食をとっていた。
お風呂は近くにある共同浴場を使った。もう閉まっているかと思ってすこし焦ったが、冒険者も利用するようで、一日中開いているらしい。掃除は昼間にするそうだ。どうでもいい。
と、一日のやることをすべて終え、いまはレティシアの部屋で二人して寛いでいる。
「とりあえずこれでお金の面は解決した訳だが……相棒、明日はどうするつもりだ?」
「そうね……魔法の練習をしておこうかと思うわ。レグナの話だと私は『聖』と『邪』、そしてなんだったかしら……そうそう、『時空』の魔法属性に適性があるのよね?」
「そうだ。君の『灰色』は底辺なんかじゃない。最高の魔法の素質を秘めている色なんだ。俺の故郷じゃ結構有名な話だったんだがな……この王国はすこしおかしいぞ」
「ふーん、そうなのね……。聞いたこともないけれど、世界って広いのね。……明日は服を買って、剣の訓練と魔法の訓練をしようかと思うわ。もちろん、誰にも見られないように、森の奥でね」
「そうした方がいいな。しかし相棒……着たきり雀みたいになってたのは一体どういうことなんだ?」
レグナは服に関しての疑問を投げる。
そう、レティシアが持っていた服はあれ一着きりとは言わないまでも、まともに着用できる女の子らしい装備はあのローブだけだったのだ。
「仕方ないじゃない……故郷からの仕送りもないし、本当にお金がなかったんだから……」
「なんか、すまん」
「いいのよ。お金持ちになれたし。それより、レグナ。あなた、本当に何者なの? 言っちゃ悪いけど、魔法が使えないのに魔法のことをそんなに知ってるし、この辺りの地理にも詳しかったし……普通じゃないわ」
ギクリ、とレグナは変な汗をかく。
さてどう言い訳をしたものか。
「ただの魔力ゼロの旅人さ」
「む~……相棒である私にも言う気はないってこと?」
「さぁな。ほら、もう寝るぞ。明日は俺と特訓するんだろ?」
「なによ秘密にしちゃって……」
「話す時が来たら、相棒に一番に話すさ。……今は言えないとだけ言っとくよ。本当にごめんな」
「なら……いいわ。待つことにするから。……そうだレグナ。寝込みを襲わないでよ? そんなことしたらセリカさんに言いつけてやるんだから」
小悪魔みたいな顔して、ふふっ、と笑みを浮かべるレティシアは、レグナが赤面してしまうほど可愛かった。
だが、それを表に出してはいけない。寮の管理をしているセリカに言いつけられれば、レグナは強制退場の目に合うのは分かり切っているからだ。
「こいつ……性格が元に戻ったとたん小悪魔みたいになりやがって……いいから寝ろよ相棒。俺は端っこで寝るからさ。おやすみ」
「ふふっ、お休みなさい」
本当に楽しそうに笑いながら、二人は光の魔石で作られた明りの魔道具の仕掛けをオフにする。
それからすぐに二人は夢の世界へと旅立つのだった。
――――――――――
おかしな夢――だと思う。
目の前には様々な武器を操る化け物、神がいた。
ソレと俺は対峙していて、俺の手には剣が一つ。
永い戦いだった。
世界を揺るがし、時空を切り裂き、理すらをも切り裂いて。
数百年に渡る戦いの末、打ち勝ったのは俺だった。
相対していた神が言う。
【認めよう。そなたこそ、神を超えし剣術を持つものである、と】
俺の口が、俺の意思に関係なく言葉を紡ぐ。
「やっと、頂点に立ったのか。俺は」
その言葉からは何の感情も感じ取れなかった。
やりきったという歓喜の感情も、なにも。
【だが気を付けよ。そなたを狙うものは我だけに非ず。それを忘れるな――】
その言葉を最後に、神は跡形もなく消えたのだった。




