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第十一話 王女と灰色


破軍の(アルクェイド・)魔導士(ソーサラー)』は、ゲーム中ではアクリス王国のサブイベントでのみ参加できる【魔導決闘】で入手できる称号で、その中でも難易度の高いものだ。

 敵は国一番の強者が並び、イベントの推奨レベルはなんと『200』である。いわゆるゲーム攻略後のエンドコンテンツのようなものだ。

 厄介なことに、ゲームだとその戦いの中では、召喚士は使い魔を召喚できない仕様だった。


 今どのようなルールになっているかは分からないが、レティシアの話からすると自分の身一つで戦う決闘で、剣などの武器も併せて戦える魔法戦士などの職業が有利だという。現国王も魔法戦士であり、その実力は、王が30年間一度も変わっていないことから明らかだろう。


 とりあえず、召喚士はその身一つで戦わなければならないので、レティシアは圧倒的に不利というわけだ。


 だがそれでも、召喚士で上位に食い込む猛者はいるらしく、そういう人間は先天的に魔力が高く、疑似的に魔法戦士として戦える召喚士だとかナントカ。

 レティシアの戦い方は、そこで見たものを参考にしているという。――まだ戦闘らしい戦闘はしていないのでレグナは見たことがないのだが。


 何をすれば夢に近づけるか、レグナが考えたのはその一点だ。

 レベル上げをするのは必須。だが、この世界での戦闘能力の平均値がそもそも分からない。

 万全の対策を練っておく必要もあるし、学生の時点での他人の実力も見たいと思っていた。


「とんでもない夢だってのは分かってるつもりよ。でも、約束したの。ルイン様とね」

「へぇ……」


 思いもしない人物の名前が挙がったことにレグナは驚いた。

 王女だと聞いているが、どうしてレティシアがそんな約束をしたのか、純粋に疑問に思う。

 問うと、レティシアは遠くを見るかのように、その理由を語ってくれた。



 それは本当に、些細なことだったという。

 レティシアが挑戦心を忘れていなかったころ――魔術学院の小等部に転入したての頃――、王女だということでルインは孤立していた。


 子供ながらに皆分かっていたのだろう。

 持たざる者と、持つ者の違いを。


 だから、昼食の時間でも授業でも、学院生活のすべてにおいてルインは孤立していたのだ。


『その髪の毛、銀色に光っていてとってもキレイね! 私は転入してきたレティシア! よろしくね』


 最初に声をかけたのはレティシアの方だった。

 孤立しているからとかではなく、ただ単純にルインの髪の毛がキレイだったから、声をかけた。

 まだ髪の色で才能が決まることなど、ましてや『灰色』がどんな意味をもつかも、ルインとレティシアは知らなかった。


『あ、ありがとう。私、ルインと言います。そんなことを言われたのは初めてです……。みんな怖がってるのか、仲良くしてくれなくて……あなたは、私のこと、怖くないんですか?』


 恐る恐るルインが尋ねる。


『全然怖くなんてないわ! なんたって私は【破軍の(アルクェイド・)魔導士(ソーサラー)】を目指しているのよ? なんなら将来、あなたを私のお付きにしてあげようか?』

『えぇ!? お、お父様を倒しちゃうの!? わ、私も負けないですよ!』

『ふふっ、なら競争ね! 『破軍の(アルクェイド・)魔導士(ソーサラー)』を決める戦いの最後は、私とあなたで戦うの! ライバルみたいなものよ。それってすごく素敵なことよね!』

『――! そ、そうですね……ライバル――約束ですよレティシアさん。絶対、決勝戦で戦いましょう』

『そうね、約束よ! 絶対負けないんだからっ』


 ルインが王女ということは、当然ながら父親は王となる。

 レティシアは幼く、そのことが良く分かっていなかったが、はずみでそんなことを言ったそうだ。

 それを切っ掛けに彼女たちは親睦を深め――友人となった、はずだった。


「そのすぐ後のことね……授業で『才能』のことを学んで、大言を吐いていたわたしを、当然クラスメイトのみんなは笑ったわ。それから少しの間はルイン様も私と一緒に居てくれたのだけど……私は才能に負けて、自分から疎遠になったってわけ」

「なるほどな。王女とそんな関係だったとは……」

「でも、いまなら才能になんて負けてない。なんてたって、私だって魔法が使えるようになったんだもの。それにレグナも居る。だから、私は――強くならなきゃいけないの」


 レティシアの熱意が伝わってくる。

 レグナとしてもそれには賛成だ。クレセント・ワールドではチートを使わずに何百周もこのゲームをプレイしていたのだ。

 オフラインアクションと題していても、少数ながらオンラインコンテンツも存在しており、対人戦も山ほど経験した。というか、チートを使わなくても世界一位をキープし続けていたのはいい思い出でもある。

 それにも飽きて、データ改造という歪んだ楽しみ方を他ゲームで見出したのだ。

 挙句の果てが魔法を使わない――現在に至るまでの経緯である。


 まぁ何が言いたいのかというと、クレセントワールドで強くなる方法や、対人戦のイロハはすべてレグナが修めている。

 魔法の指導はできないまでも、使い方やちょっとしたテクニックなんかも教えられるはずだ。

 だから、主の役に立てるという意味でも、レグナはレティシアのその夢は応援したいのだ。


「明日って学院休みだっけ?」


 急にそんなことを言ったレグナを、訝し気に見るレティシア。


「召喚の儀の次の日は休みだけど……どうしたの?」


 レグナはニヤリと笑う。


「ダンジョン、行くか」


 呆気にとられたように棒立ちするレティシア。


「そんなの、無――」


 無理、と言おうとして、レティシアはその言葉を飲み込む。

 違う。そうではない。自分はもう、能無しなどではない。

 そう思い、レティシアは首を振り、違う言葉を吐き出した。


「それはいい考えね。手っ取り早く位階を上げるには、強敵がいて、ほかの人間があまりいないところじゃなくちゃ。そうなると、一番近いダンジョンで危険な場所だと……『古代王都跡地』かしら?」

「『古代王都跡地』があるのか……ならそのダンジョンだな。相棒を侮ったクラスの連中をこの一日で追い抜くぞ」

「あそこだったらダンジョンとしての危険指数も高くていいわね」


 少しレティシアの声が震えてはいるものの、そこまで強がれるのなら、向上心としては及第点だとレグナは思う。

 『古代王都跡地』というダンジョンは、終盤の【邪神】にかかわるメインクエストで出現するダンジョンで、序盤には存在しないはずの場所である。

 ここは現実なので、すでに邪神関連イベントは済んだあとなのだろう、とレグナは思う。

 そんなことはどうでもいい、と思い直す。

 大事なのはレベル上げにうってつけのダンジョンであるということだけだ。罠も少ない。


 この世界にもあるのかわからないが(フィールドの魔物を倒しても得られなかった)ドロップアイテムがダンジョンでのみ存在するのだとしたら、武器や防具も狙いたい。


「相棒、変なことを聞くが……ダンジョンでドロップアイテムは出現したよな?」

「そうね、外とは違って、魔物を倒したらダンジョンに吸収されて、その後になんらかの素材がのこるらしいけれど……」


 その情報を聞いてレグナは小さくガッツポーズをした。

 ドロップアイテムが出現するということは、レティシア用の強力な装備も手に入る可能性があるということだ。


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