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第十話 新生灰色召喚士、夢を語る


「ありがとう、レグナ。ようやく『私』は『私』を取り戻すことができたわ」

「――雰囲気、変わったな?」


 挑戦的に笑う『灰色』の召喚士。その瞳にはすでに先ほどまでの自虐はなく、『挑戦』と『熱意』の色が過分に秘められていた。

 レグナは思う。

 これが、本来のレティシアの姿なのだろうと。


 どんな逆境にもめげることなく、あきらめずに鍛錬を続ける。


 一度はあきらめてしまったその茨の道を、今再び歩き出した挑戦者――それは、見せかけの才能で行く先を決める現在の【社会】、そういうものに反逆する灰色の一矢だった。


「ええ、ずっと忘れていたものを取り戻せたわ……ホント、あなたって最高よ、レグナ」

「さっきまでの自虐ロリ巨乳少女よりも、今の方がずっとカッコいいし、かわいいな」

「な、なんてことを言うのよ……///」


 ボっと顔を赤くするレティシア。

 どうやらこういうことには自信を取り戻しても慣れないようだ。


「さて、どうする? まだ着いてから一時間も経ってないわけだが……この惨状をみると……」


 言いながら、レグナは周囲を見渡す。

 完全に森の一部が無くなっている。

 災害が起きたかの如く、木々が倒れ、土が掘り返されていた。


 レグナが力なく周囲を見渡していると、レティシアがおもむろにエルダープラントだった死骸に手を突っ込んだ。


「お、おい、何やってんだ?」

「これだけ倒したら素材を持って帰るのはまず無理よ。『次元収納』の魔法があれば別だけれど……まだ使えないし、魔核だけバッグにいれておくの」

「なるほどな。魔核なら確実に買い取ってくれるし、何より軽い――どれ、相棒、ちょっとそこから離れて俺の隣に来てくれ」

「ええ、いいけれど……何をするつもりなの?」

「くくく、まぁ見ててくれよ、相棒」


 レグナが言うと、不思議そうな顔をしつつも、レティシアは隣にやってきた。

 木の棒を腰のあたりで構え、一気に切り上げる。


 ズバン!


 と、小気味よい音がなって、そこらに転がっていた魔物すべてから魔核が飛び出し、口の開けていたレティシアのカバンに向かって飛んできた。人間ができる所業ではない。


「えぇぇ!?」

「ちょっと重くなるから支えるぞ!」


 ガチャガチャと音を立てながら、すべての魔核がバッグに入る。

 魔核は普通に落としただけでは壊れないため、こんなに荒っぽいやり方が通用する。

 ズシリと重くなったソレを、レティシアの方からレグナが引き取った。


「よし、これでいいか?」

「ホント、信じられないわね……。あっ、そうだレグナ」


 何かを思い出したかのようにレティシアは声を上げた。


「どうした?」

「私の鍛錬に付き合ってくれない? 魔法が使えそうな気がするの!」

「お、やる気だな。ちょっと待ってろ。エルダープラントで魔法の触媒が作れると思う」

「杖ってこと?」

「いや、それよりもいいものだ」


 問いかけてくるレティシアに言いながら、レグナはエルダープラントの死骸を見下ろす。

 クレセントワールドではボスの素材だけで武器がつくれた。ここではどうか知らないが、やってみる価値はある。

 エルダープラントの武器は三種類あり、どれも木を彫りだしただけの簡単なもの。

 だが威力は折り紙付きだ。


「ほっ」


 気を付けながら、レグナは武器の形を思い浮かべながら木の棒を振る。

 すると――剣の形をしたものが二振り出来上がる。

 それを持ち上げ、レグナは笑みを浮かべた。


 成功だ。


 明らかに死骸であるエルダープラントの魔力が宿っている。持っていた木の棒よりもこっちの方がよさそうだったので、レグナは木の棒をベルトで挟み、剣を握る。

 軽く振ってみると、予想以上にしっくりきた。


「もしかして――魔法剣?」


 レティシアが目を光らせながらそう聞いてきたので、レグナは頷きながら答える。


「そういうこった。こいつは魔法を通しにくい性質を持ってるけど、それは外側だけ。内側の方は逆に魔力を通しやすいんだ。だから、魔法の威力も底上げされる。使ってみるか?」

「もちろん!」


 レグナはもう一本ある木剣をレティシアに渡す。


「こ、この魔力……すごいわね! これなら……」

「相棒の今のレベルだったら攻撃魔法くらい使えそうだな……『レイ』とかどうだ?」

「『レイ』って聖属性の魔法じゃない。いくらなんでも私にそんなの使えないわよ」


 ああ、とレグナは思い出す。

 ここでの『灰色』は才能がないものの象徴とされている。ということは、レティシアは一番多く眼にする属性の『火』や『風』の魔法を使ってみようとしかしていない訳だ。


 この世界では魔法はスキルと同じ扱いだ。詠唱なんて必要はないが、発動に慣れるまで『スキル名』を言うと成功しやすい、というのはレティシアの言葉から推測したものだ。


 ゲームではそのスキルを習得するときに魔法学院に行かなければならなかったのだが、自分のレベルと能力が条件を満たしていなければ覚えられなかった。

 もちろん、『灰色』は初期能力値が低いのでレベル80までは何の魔法も使えないし、覚えられもしなかった。


 だが、今のレティシアのレベルは『85』だ。

 レベル80の【灰色】の峠――ほかの色との能力値の差が逆転するレベル――を越えているので、十分にスキルを使えるだろう。


 そして、『灰色』の魔法適正は『聖』と『邪』、そして『時空』系統の魔法にある。

 今までレティシアが練習してきた魔法を聞いたところ、そのどれもが炎や風、水といったものだった。


 魔法が使えないのは当然ということだ。

 今の能力値であればファイアやウィンドなどは簡単に使えてしまうと思うのだが、レグナはあえて『聖』属性の魔法を選択した。


 理由は簡単。学生の中に『聖』属性持ちが一人しかいなかったからだ。

 このレグナの狙い通り、実は『聖』属性はこの現実世界において、王族にのみ発現すると言われているような属性なのだ。


「ま、俺に騙されたと思って、ちょっとその剣構えてあの木に『レイ』を撃ってみ?」

「……レグナが言うなら、やってみるわ」


 レティシアからしてみれば半信半疑だろう。

 いままでどの魔法も使えなかったのに、いきなり才能あるものしか扱えないといわれている魔法を使えるわけがない。


 だが、自分を変えてくれたレグナだからこそ、レティシアはその言葉を信じたのだ。


 レティシアは息を深く吸い込み、まだ無事な遠くの木に剣の切っ先を向ける。


「『レイ』!」


 レティシアは信じられないものを目にする。

 今まで感じたことのない、魔力が抜ける確かな感覚、そして、剣からまっすぐ伸びる光の線――『レイ』の魔法だ。


 その光線はまっすぐに木まで飛んでいき、直撃。

 大きな爆発を起こした。


「あ、あ、あ……」


 その光景を見て、パクパクと口を開け閉めするレティシア。

 レグナはレティシアを思いっきり抱きしめた。


「やったじゃん相棒!! やっぱ俺の目に狂いはなかった!!」

「ひゃああ!? ちょ、どこさわってるのよっ!?」

「おっと、すまん」


 どうやらレグナははずみで彼女のデリケートな場所を触っていたようだ。レグナは慌ててさっと手を放し、気を付けて正面から抱き着いた。

 レティシアの方はレグナのそんなセクハラも気にならないくらい嬉しかったのか、抱きしめてくれたレグナの体に手を回す。


「やったわ! わたし、初めて、初めて魔法を使えた!」

「ああ!」

「しかも聖属性の魔法なんて!! 嘘みたい!! 全部レグナのお陰ねっ……!」


 涙ぐんだ声でレティシアは言う。


「いや、魔法が使えたのはレティシアが頑張ったからさ。俺を呼び出したのも君だろ? 俺は才能溢れる君に助言をしただけだ」

「もう……カッコつけなのね、レグナったら」


 どちらからともなく離れ、レグナとレティシアは向かい合う。

 レティシアの顔は晴れやかで生気に満ち溢れている。

 自分の力をもっと試したいとも思っているようだ。


「よし! でもこれからが大変だぞ。相棒が目指す夢を追いかけて……夢?」


 そこまで言って、レグナはようやく気付いた。

 相棒であるレティシアを強くすることに夢中で、レティシア自身が、強くなってどうしたいのか聞いていなかったことに。


「そういえば言ってなかったわね……私には、随分前にあきらめたつもりだったけど、諦めきれなかった『夢』があるの」

「おぉ、どんな夢だ?」

「ふふ――それはね、この国で一番の魔導士である、『破軍の(アルクェイド・)魔導士(ソーサラー)』の称号を手に入れることよっ!!」


「な、なんだって!?」


 ゲームで聞いたことのある称号に、レグナは驚愕した。

 そして同時に、レティシアが学院に拘っていることも納得した。

 なぜなら、その称号を手に入れるための戦いである『魔導決闘(デュエル)』、その参加資格が『学院に所属している、または、卒業した者』だったからだ。




どうも秋先秋水(あきさきしゅうすい)デス。

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