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幕間 ルイン・フォン・アクリスの決意


 『灰色』のレティシアの使い魔、レグナが簡単に『銀色』のルインの使い魔である【セラフィネス】を破った。


 その知らせは瞬く間に学園を駆け抜け――無かった。

 誰もが認めたくなかったのだ。『灰色』の落ちこぼれがこの国で最強と名高いアクリス家の使い魔と戦闘し、勝利したことなど。


 もちろん、あのレグナたちの騒ぎの後、ルインは問われた。

 本当に手を抜いていなかったのか、と何回も。

 きっちりと否定したのだが、誰かが『ルイン様は優しいので、わざと負けてやったんだ』という噂が流れてしまっていた。


 質問攻めやありもしない噂を立てられて、心底、ルインは疲れていた。

 召喚の儀から数時間。王宮にある私室に戻ってきたルインは、ベッドの上でため息を吐いていた。


「はぁ……」

「どうされましたか、主」


 いつの間にか顕現していたのか、ルインの前には顔立ちの整った女性――セラフィネスが居た。

 微笑をたたえているその姿は、まさに天の使いといったところか。


「いえ、なんでもないですよ。セラフ」

「あの少女の使い魔のことですか?」


 見事に自分の今懸念していることを言い当てられて、ルインは苦笑いする。

 おそらくではあるが、セラフィネスも彼らのことが気になっているだろうことは容易に想像できた。


「私の使い魔は聡いですね……」

「いえ、アレは本当に想定外の出来事でしたので……主には情けないところ見せてしまい、恥ずかしく思っております」

「何を言っているんですか。あんな……、あんなに『凄まじい』ものを受けてよく生きていられたと思いますよ、セラフ。本当にもうダメかと思ったんですよ?」


 ルインはあの決闘の後、すぐさまセラフィネスに駆け寄った。

 そして驚愕した。

 セラフィネスの生命力が限界ギリギリまで減らされていたのだ。

 生命力――それは、使い魔自体の『存在』に関わる数値だ。

 使い魔であろうとも、この生命力が尽きれば命を失い、永遠に復活することはないといわれている。

 わずか一瞬でセラフィネスをそんな状況まで追い込んだ存在、それがレグナだった。


 総合力『840』といえば、危険指数『100』のガルフの群れを単独で屠れるほどの力をもった存在なのだ。

 それは冒険者十人程度に匹敵する力。

 もちろん、『現時点で』という話であり、ルインの位階があがればあがるほど、使い魔であるセラフィネスの能力は上がっていくのだが。


 それにしても不可解だった。

 セラフィネスほどの力を持つ存在が、なぜ総合力『0』の存在に負けたのか。

 考えれば考えれば謎は深まるばかり。レティシアには悪いが、いっそのこと夢だったと思えればどんなに良かったか。


「ねぇセラフ、あなたはあの使い魔に何をされたか覚えていますか?」

「いえ、まったく覚えていませんね。あの青年が異様な気配を発した所まではなんとか……それ以降は完全に意識を失っていました。主はアレが何をしたのか見えましたか?」


 逆にセラフィネスはルインに尋ねる。

 しかし、ルインは首を横に振った。


「何も見えませんでした……。私からはあのレグナとやらが動いた素振りも、あなたになんらかのアクションを起こしていたことも見えませんでしたし……ただ、こう言ってはいました。『今のは剣圧で吹っ飛ばしただけだ』、と」

「……なんという言い分でしょう。あの男は訓練用の剣はおろか、何も武器という武器を持っていなかったではありませんか」


 セラフィネスが怒ったように言う。

 それはルインも同意だ。

 あのような威力の攻撃、聞いたことも見たことも無い。

 並以上の人間に対し、不可視で即死の攻撃なんて防ぎようがない。


 果たしてそんな攻撃があるのか――答えは否だ。

 ありえるわけがないのだ。

 いや、有り得ていいものではない。

 そんなことができるのならば、彼の使い魔は単身でどれほどの戦闘力を身に宿しているのか。

 現実だとするならば、これほど恐ろしいことはない。


 だがそうなると、ルインに考えられる、総合力『0』の存在がセラフィネスに勝てる道筋がない。


「未知の塊のような存在ですね、レティシアさんとあの使い魔は……」

「どんな卑怯な手を使ったのか知りませんが、あんな魔力の欠片もない使い魔に負けたとあっては、セラフィネスは我慢なりません。主。どうか、研鑽を重ね、あの卑怯者を討ち取りましょう」

「熱くなりすぎですよ、セラフ。悔しいのは分かるけれど……レティシアは私の恩人なのです」

「ソレとコレとは話は別です。恩人は恩人でありますが、現時点で主の味方でないのなら敵と同然でしょう」

「……そう、ですね」


 セラフィネスは天使ではあるが、ルイン(召喚者)の影響を濃く受けている。

 今まで受けてきた王族の教育や考え方が、セラフィネスにも身についているのだ。


 ――王族である自分は強者でなければならない。味方ではない存在は敵だと思え。


 それはルインが幼いころから言われてきた言葉だ。


「……わかりました。レティシアさんに勝てるように鍛錬していきましょう。位階を上げて、強くなって――現『破軍の(アルクェイド・)魔導士(ソーサラー)』であるお兄様も退けて、私はこの国の王になります」


 【破軍の(アルクェイド・)魔導士(ソーサラー)】。

 それはこの王国で名実共に『最強』であることの証。

 二年に一度ある大祭で、神の御前でトーナメント制で行われる『魔導決闘(デュエル)』で優勝したものに与えられる。

 この称号は『王』と同じ意味を持つのである。


「それでこそわが主です。このセラフィネス、命尽きるまで主と共にありましょう」


 ルインの目指すものがどんな未来を示すかは、まだ誰も知らない……。

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