表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ウリョの眉毛と冬の女王

作者: 烏龍お茶

 むかしむかし、はるか遠くにある妖精の国に、好奇心がゆたかでこころ優しいひとりの妖精が住んでいました。


 妖精の名前はウリョと言いました。ウリョは太い眉毛と、もじゃっとしたヒゲを持っていたのですが、まだまだ生まれたばかり。好奇心がゆたかでこころ優しいウリョは他の妖精のお仕事を手伝おうとします。ですが、まだまだ若いウリョに他の妖精は仕事を任せることはなく「ぼくも、なにかできるのに」と退屈していました。

 ・

 ・

 ・

 ・

 そこでウリョは平和だけど退屈な妖精の国を抜け出し、近くにある人間の村に遊びに行くようになりました。そして、人間の子供たちとトモダチになったのです。


 かくれんぼをしたり、玉あてをしたり、虫をつかまえたり、草ぶえを吹いたり。毎日、毎日、日が暮れるまで一緒に過ごすようになりました。

 

 ところが月日がながれると、トモダチたちはすこしずつ大きくなっていきます。そうです、妖精であるウリョは成長して大きくなることはないのですが、人間は年をとると成長していくのです。


 それにつれて、トモダチとの遊び方も少しずつ変わっていきました。あるトモダチは山にはいって探検したあと、果物を持ってかえるようになったのです。またあるトモダチは水遊びをしたあとに魚を釣ったりするようになったのです。またあるトモダチは新しく生まれたかわいい弟や妹の面倒をみるようになったのです。


 だんだんとトモダチたちは成長し、子供から大人になっていくのです。


 食器をあらったり、掃除をしたり、お風呂を沸かしたり、畑の草むしりをしたりと親の手伝いをするようになったトモダチと、それでもウリョはずっと一緒に過ごしました。


 だってもともと「ぼくも、なにかできるのに」と思っていたこころの優しいウリョは、人の役に立って喜んでもらえるのが、とても楽しかったのです。



 いつしか人間の村に住み着いたウリョは、まもなく仕事を持つようになったトモダチと一緒に働きはじめました。畑を耕し作物を収穫したり、糸を紡ぎ布を織り服を作ったり、住む家を建てたりしました。


 ウリョは頑張りましたが、けっして楽しい事ばかりではありませんでした。日照りが続いて不作になったり、服を作ったらそでを縫い合わせてしまったり、せっかく建てた家が雨漏りしていたりと、いろんな失敗をして悲しい思いもしました。


 でも好奇心ゆたかなウリョは、仕事をするのがとてもとても面白かったのです。それにたとえ失敗したとしても、トモダチといっしょに頑張れば満足のいく結果が迎えられるのを知っていたました。


 だから、ウリョはトモダチとずっと一緒に過ごして楽しみました。


 やがて立派な青年へと成長したトモダチは結婚し、赤ちゃんが生まれました。


 ウリョは妖精の歌を歌い、妖精の踊りを踊ってお祝いしました。トモダチはとてもとても喜びました。


 トモダチはひとりまたひとりと結婚していき、そしてひとりまたひとりと赤ちゃんが生まれていきました。


 トモダチはみんな新しい家庭を持ったのでした。ウリョはとても嬉しくて、そのたびにお祝いをし喜びました。


 だって、ずっと暮らしてきた人間の村がどんどんと、にぎやかになっていくのです。


 ウリョは人間の村でトモダチとずっとずっと一緒にすごしました。



 そうして時が流れトモダチはみんな年をとり、やがて孫が生まれ、おじいさんやおばあさんになっていきました。


 ウリョは最初は、おじいさんやおばあさんになったトモダチの顔を見てびっくりしましたが、直ぐにウリョは嬉しくなりました。


 だってトモダチの眉毛が伸び、ヒゲが生え自分の顔とそっくりになっていたからでした。


 ウリョは、おじいさんやおばあさんになったトモダチといっしょに新しい仕事も覚えました。


 食堂で料理をふるまったり、森で薬草をつんでお薬を作ったり、時には妖精の歌を歌ってみんなを楽しませたりしました。


 とてもとても楽しいウリョは、ずっとずっとトモダチたちと一緒にいようと思いました。でも、そんな楽しい時間は長くは続きませんでした。



 人間の村に冬の女王の使いが訪れたのです。

 

 女王の使いは、村の人間にこのように命令しました。


「これからこの村に、とてもとても寒い冬が訪れる。人間たちよ、きびしい寒さに耐えるため、防ぐため、しのぐために、食べる物をたくわえよ! おおくの服を用意しろ!! 暖をとれる家を建てるのだ!! きげんは冬の女王がこの地に訪れるまでとする。そなえよ人間よ!!」と。



 次第に寒くなっていく人間の村で、ウリョとトモダチは、冬の女王の命令どおり、食料をたくわえようとがんばりました。


 畑の土をフカフカに耕すのですが、よく朝には凍ってカチカチになってしまいます。色んな種を蒔きますが、太陽が照らさないのでほとんど芽が出ませんでした。毎日欠かさず水をやりましたが、あまりの寒さに実が大きくなりませんでした。


 ウリョとトモダチは一生懸命に工夫したのですが、作物はあまり実りませんでした。ウリョとトモダチはやっと実った作物をひとつずつ大事に収穫しました。



 ウリョとトモダチは、冬の女王の命令どおり、おおくの服を用意しようと思いました。


 綿や絹の糸を紡ぎましたが、たくさんの服をつくるのに糸がたりなくなってしまいます。紡いだ糸で服をつくりましたが、もっと太い糸の温かい服がひつようでした。シャツにそでをつけたり、ズボンに裾をつくったりしましたが、手袋や靴下やえり巻もひつようでした。


 ウリョとトモダチは一生懸命に頑張りましたが、寒さに耐えるための服がどうしてもたりませんでした。



 ウリョとトモダチは冬の女王の命令どおり、暖炉と煙突がある家を建てたり、暖をとるためのまきを集めたりもしました。


 暖炉や煙突を作りましたが、石を運んで組むのに時間がかかりました。たくさんのまきを集めるために、木を切って運ぶのにとてもとても苦労しました。


 ウリョとトモダチは一生懸命に頑張りましたが、どうしても間に合いませんでした。



 悩んだウリョは、ふと妖精の国の事を思い出しました。まえに住んでいた妖精の国では呪文を唱えて仕事をしていたからです。


 ウリョは一緒に仕事をしていたトモダチにこう言いました。

「いっしょに妖精の国に行って、呪文をおしえてもらおう」と。


 トモダチはこう答えました。

「妖精の国なんて、おそろしい」と。


 ウリョはなっとくできずに、こう言いました。

「ヒゲも眉毛も立派になったから、大丈夫」と。


 でも、別のトモダチはこういいました。

「ウリョは子供のころからずっとずっと友達だから、いっしょに暮らしてたから大丈夫なんだ。それに、呪文なんておそろしい。そんな不気味なものを使いたくない」と。


 ウリョはいっしょうけんめい説明しました。

「でもでも、呪文をおぼえたら冬の備えに間に合うはずだ」と。


 ウリョは固くなに断わるトモダチを説得できませんでした。


 あるトモダチは「わしの眉毛はウリョより太く長くなった」といいました。またあるトモダチは「わしのヒゲもウリョよりもじゃもじゃに伸びた」と言いました。そしてトモダチたちは口々に「こんなに永く生きたんだ。わしらは満足している。無理ならそれで諦める。妖精の国になど行けん」と言うのです。


 それでも、諦めきれないウリョは、仕方ないのでひとりで妖精の国に帰りました。

 ・

 ・

 ・

 ・

 久しぶりに帰った妖精の国は昔とまったく変わっていませんでした。さっそくウリョは他の妖精に仕事を教わることにしました。


 ウリョはまず畑に行ってみることにしました。


 畑ではウリョより、太くて長い立派な眉毛をもった妖精が、畑の土に向かって呪文を唱えていました。


 するとなんてことでしょう、畑に蒔かれた種から芽がニョキニョキと伸びていくではありませんか。それを見たウリョはびっくりしました。


 さっそくウリョは、立派な眉毛の妖精に「呪文を教えてください」とお願いしました。でも、立派な眉毛の妖精は「これはわしの仕事だから」と教えてくれませんでした。


 立派な眉毛の妖精に、呪文を教えてもらえなかったウリョですが、どうしてもあきらめ切れなかったので、こっそり呪文を覚えてしまおうと考えました。


 そこでウリョは、人間の畑でトモダチと一緒に仕事をした経験をいかして、畑の手伝いをすることにしたのです。


 だって立派なヒゲの妖精は呪文を唱えたあとは、ほったらかしなんです。土をフカフカに耕す事もなく、種も適当に放り投げるだけ。水もやらないし雑草も抜かないのです。


 だから、ウリョは畑の土をフカフカに耕し、色んな種をひと粒ずつ丁寧に蒔き、毎日欠かさず水をやり、実が大きくなるのをじゃまする雑草を抜きました。


 ウリョの頑張りで畑には色んな種類のとても美味しそうな作物がたくさん実りました。ウリョが実った作物をひとつずつ大切に収穫するころには、人間の村に持っていく作物を貯め、こっそり呪文を覚えていました。


 ウリョは直ぐに人間の村に戻ろうと思いましたが、このままではまだまだ冬の備えにはたりません。


 ですからウリョは、他の呪文を教えてもらおうと次の仕事を探しにいきました。



 次にウリョは服を作っているお店にいってみることにしました。


 お店をのぞいてみると、立派なもじゃもじゃヒゲをもった妖精が、立派な体格のモコモコの毛がはえたヒツジに向かって呪文を唱えていました。


 するとなんてことでしょう、ヒツジの毛がひとりでにふわっと浮かび上がると踊るように勝手気ままに動いて布が織りあがっていくのです。それを見たウリョは毛糸と一緒におどりました。


 おどりおわったウリョは、立派なヒゲを持った妖精に「呪文を教えてください」とお願いしました。でも、立派なヒゲの妖精は「これはわしの仕事だから」と教えてくれませんでした。


 立派なヒゲの妖精に、呪文を教えてもらえなかったウリョですが、あきらめず、こっそり呪文を覚えることにしました。


 そこでウリョは、人間のトモダチと一緒に服をつくった時の事を思い出して服を作るの手伝いをすることにしたのです。


 だって立派なヒゲの妖精は呪文を唱えて作った羊毛の布に、頭を入れる穴をあけた服しかつくらないのです。糸に色をつける事もなく、紡ぐにしてもヒツジの毛だけ。上着にはそでがないですしズボンに裾もないのです。


 だから、ウリョは綿や絹の糸を紡いだり、糸に色を付ける染料を用意したり、シャツにそでをつけたり、腰に布を巻くだけだったズボンに裾をつくったりしました。


 ウリョが作るのを手伝った服はカラフルで着心地がよいと大人気になりました。ウリョが作った服を着た人の喜ぶ顔をみるころには、人間の村に持っていく温かい服を用意し、こっそり呪文を覚えていました。



 ウリョは直ぐに人間の村に戻ろうと思いましたが、このままではまだ冬の備えにはたりません。


 ですからウリョは、他の呪文を覚える貯めに、次の仕事を探しにいきました。


 ウリョは家を建てる手伝いをしたり、料理をつくる手伝いをしたりしました。


 ウリョが建てるのを手伝った家に住むようになった人や、作るのを手伝った料理を食べた人は、みんな喜んでくれるころには、炭をよういし、長持ちする食べ物を貯め、こっそり呪文を覚えていました。


 たくさんの呪文を覚え、冬への備えを用意したウリョは、これで冬に備えられると、人間の村に向かいました。

 ・

 ・

 ・

 ・

 久しぶりにもどった人間の村は、ずいぶんと変わっていました。すでに冬の女王と共に、とてもとてもきびしい寒さの冬が訪れていたのです。


 人間の村は雪に閉ざされ、家の外には誰も歩いていませんでした。そうです、ウリョは間に合わなかったのです。


 ウリョはトモダチを探しました。するとウリョのトモダチは、やせ衰えて寒さにふるえながら横たわっていました。



 ウリョは悲しくなりました。そして、どうしてなのか冬の女王に文句をいいにいきました。


 ウリョは冬の女王にいいました。

「どうしてトモダチは、やせ衰えているの?」


 すると冬の女王は答えました。

「子供に食べ物を与えたからよ」と。


 ウリョは冬の女王にいいました。

「どうしてトモダチは、寒さにふるえているの?」


 すると冬の女王は答えました。

「若い夫婦に服を与えたからよ」と。


 ウリョは冬の女王にいいました。

「どうしてトモダチは、すきま風が吹きこむ暖炉のない家に寝ているの?」


 すると冬の女王は答えました。

「あたらしい暖炉のついた家を次の世代にあたえたからよ」と。


 悲しくなったウリョは冬の女王に聞きました。

「でもでも、年老いた人はどうなるの?」


 冬の女王は悲しそうに言いました。

「すべての人は救えなかったわ。ならば消え去るのは役目を終えた者になるのも、また、人のさだめ。だからわたしは、こう命令したの。食べ物が足りない、子供にあたえよ。服がたりない、若い夫婦にあたえよ。暖をとれる家がたりない、年老いたものは次の世代に譲るのだ。と」



 ウリョは寂しくてとても悲しい思いを抱いてトモダチのもとにもどりました。


 そこには、ウリョと同じだったヒゲや眉毛が、ぼさぼさになって伸びほうだいになってしまった、トモダチが待っていました。


 ウリョはいいました。

「ごめんね、もっと早く帰ってくればよかった」と。


 けれど、トモダチはこう答えました。

「わしらが行っていれば、もっと早く帰れたはずさ。せっかく誘ってくれたのに、それを断ったのはわしらなのじゃ。ウリョがあやまる必要なんてなにもない」と。


 ウリョはいいました。

「せっかく呪文を覚えたのに、間にあわなかったよ」と。


 するとトモダチはこう答えました。

「こうしてまた会えたから間に合った。わしらは子をなし孫を得、長い間生きてこれて満足している。でも、よければウリョの呪文を、孫や子のために使ってほしい」と。


「がんばってウリョが覚えた呪文は無駄じゃない。わしらはもう去るが、この村にはまだまだウリョの呪文は必要なのじゃ。残された子や孫の貯めに力を貸してやってくれないか」と。


 ウリョはいいました。

「約束するよ。ぼくがこの村をまもるよ。村の人間に呪文をおしえるよ」と。


 それを聞いたトモダチは幸せそうな笑顔を浮かべて息を引き取りました。トモダチがいなくなってしまったウリョは、とてもとても悲しくて、涙が止まりませんでした。

 ・

 ・

 ・

 ・

 とても寒くてきびしい冬を、たくわえていた備えとウリョが用意したもので何とか乗り切ることが出来ました。


 冬が終わり、次第にあたたかくなっていきますが、もう食べ物も、まきも残っていません。服を繕わなければいけませんし、家の修理もひつよでした。


 ウリョは約束通り、人間の村でトモダチの子や孫といっしょにすごしました。



 ウリョとみんなはまず畑に向かいました。


 畑の土をフカフカに耕し、色んな種をひと粒ずつ丁寧に蒔き、呪文を唱えるのです。


 するとなんてことでしょう、畑に蒔かれた種から芽がニョキニョキと伸びていくではありませんか。


 村の者たちはびっくりしながら大喜びです。


 ウリョは毎日欠かさず水をやり、実が大きくなるのをじゃまする雑草を抜きながら、みんなに呪文を教えます。


 ウリョとみんなの頑張りで、畑には色んな種類のとても美味しそうな作物がたくさん実りました。実った作物を収穫するころには、みんなも呪文を覚えていました。


 ウリョとみんなは、美味しいものを食べながら、喜びました。



 つぎにウリョとみんなは、まきを集めることにしました。


 たくさんのまきを集める為に、とても大きい木を伐りたおし、呪文を唱えるのです。


 するとなんてことでしょう、重たくて運べなかった大きな木が、ふわりと浮かんでまきに分かれていくではありませんか。


 村の者たちはびっくりしながら大喜びです。


 さらにウリョは呪文を唱えるのです。


 するとなんてことでしょう。まきが炭にかわっていくではありませんか。


 温かく長持ちする炭ができて、村の者たちはまたも大喜びです。


 ウリョは毎日、木を伐りまきをつくり、炭を作りながら、みんなに呪文を教えます。


 ウリョとみんなの頑張りで、少なくなっていた炭をみんなに配ることが出来ました。各家が炭を十分に蓄えたころには、みんなも呪文を覚えていました。


 ウリョとみんなは、温かい暖炉にあたりながら、喜びました。


 ウリョとみんなは、呪文を唱えて服を繕い、呪文を唱えて家を修理していきました。みんなといっしょに頑張りながら、呪文を教えていくのです。服が揃い、家が直ったころには、みんなも呪文を覚えていました。


 とてもとても喜んだウリョは、トモダチといっしょにいたいと思った時のよう、ずっとずっとみんなと一緒にいようと思いました。でも、ウリョの姿はトモダチといっしょにいた時とすこし違っていました。



 ウリョは悲しい思い出がつまった、太い眉毛を切って整え、もじゃっとしたヒゲを剃り落としていたのです。


 だって、太くて長い眉毛をみると、自分以外の者をしりぞけてる嫌な思い出が浮かんでくるからです。


 だって、ぼさぼさで伸び放題のヒゲをみると、悲しい別れを思い出してしまうからです。



 すっきりとした顔のウリョとみんなは、ずっとずっといっしょに楽しく暮らそうとおもいました。ところが冬の女王がウリョを呼び出したのです。


 冬の女王はいいました。

「もうすぐ妖精の国に、とてもとても寒い冬が訪れる。ウリョ、妖精の国もきびしい寒さに耐える貯め、防ぐ貯め、しのぐ貯めに備えなければならない。だからウリョ、妖精の国に戻ってほしいの」と。


 ウリョは言いました。

「妖精は呪文を唱えられるから、大丈夫だよ」と。


 それでも、冬の女王に頼まれたので、ウリョは妖精の国に戻ることにしました。



 妖精の国に戻るとウリョは畑に行ってみました。


 畑では以前と同じようウリョより太くて長い立派な眉毛をもった妖精が、畑の土に向かって呪文を唱えていました。


 それを見たウリョはびっくりしました。


 だって、土をフカフカに耕す事もなく、種も適当に放り投げるだけ。水もやらないし雑草も抜かないのです。


 さっそくウリョは、立派な眉毛の妖精に「もうすぐ、とてもとても寒い冬が来る。だから、もっともっと、たくさんの食べ物をつくって」とお願いしました。


 でも、立派な眉毛の妖精は「わしの仕事は、これだから」と話をきいてくれませんでした。


 それどころか、ウリョの整えられた眉毛をみて「人間に毒されおって」と馬鹿にするのです。



 悲しくなったウリョは次に服を作っている店に行ってみました。


 お店をのぞいてみると、以前と同じようにウリョより立派でもじゃもじゃヒゲをもった妖精が、モコモコの毛がはえたヒツジに向かって呪文を唱えていました。


 それを見たウリョは悲しくなりました。


 だって、色んな種類の糸を紡いだり、糸に色を付ける染料を用意したり、シャツにそでをつけたり、腰に布を巻くだけだったズボンに裾をつくったりしていないのです。


 さっそくウリョは、もじゃもじゃヒゲの妖精に「もうすぐ、とてもとても寒い冬が来る。だから、もっともっと、たくさんの温かい服をつくって」とお願いしました。


 でも、もじゃもじゃヒゲの妖精は「わしの仕事は、これだから」と話をきいてくれませんでした。


 それどころか、ウリョの切り揃えられたヒゲをみて「妖精の面よごしめ」と罵られたのです。



 すごく残念な気持ちになったウリョは、家を建てているところを見に行ったり、料理を作るのを見に行ったりしました。


 それを見たウリョはすごく困りました。


 だって、家は石造りの暖炉や煙突がない隙間だらけの家しかつくらないのです。料理も取ってきた物をそのまま使うだけで、腐らないように加工した物をつかったりしないのです。


 ウリョは、家を建てていた妖精や料理を作っていた妖精に「もうすぐ、とてもとても寒い冬が来る。だから、もっともっと温かい家を建てて」とお願いし、「腐らないようにした食べ物でもっと温かくておいしい料理を作って」とお願いしました。


 でも、家を建てていた妖精や料理を作っていた妖精は「わしの仕事は、これだから」と話をきいてくれませんでした。


 それどころかウリョの整えられた眉毛をみて、切り揃えらえたヒゲを見て口々に「格好をつけてる」だとか「自意識過剰」だとか、と呆れられたのです。



 ウリョは馬鹿にされても、受け入れてもらえなくても、ずっとひとりでがんばり続けました。


 だってウリョはトモダチたちの死を、忘れてなかったからです。


 ウリョはもう、あんな悲しい思いをしたくありませんでした。


 だから、だれも手伝ってくれませんでしたが、ウリョはひとりでもコツコツと仕事を続けるのでした。


 すると、まだウリョより若い妖精がウリョのところにやってきました。


 そしてウリョに言うのです。「ぼくに料理をおしえてください」と。


 若い妖精はウリョのとても美味しい料理を食べて「ぼくにもきっとできるはず」とウリョに教えてもらいにきたのです。


 ウリョは「もうすぐ、とてもとても寒い冬が来る。だから、もっともっと、温かくておいしい料理を、腐らないようにした食べ物で作るんだ」そう説明して料理を教えました。


 すると、またひとりウリョより若い妖精がウリョのところにやってきました。


 そしてウリョに言うのです。「ぼくに服の作りかたをおしえてください」と。


 若い妖精はウリョのとても温かくてカラフルな服を着て「ぼくにもきっとできるはず」とウリョに教えてもらいにきたのです。


 ウリョは「もうすぐ、とてもとても寒い冬が来る。だから、もっともっと、温かい服をたくさん作るんだ」そう説明して服づくりを教えました。


 またひとり、またひとりとウリョのところに若い妖精がやってきて、畑でたくさんの作物を作る方法を教えてもらったり、暖炉のついた家を建てる方法を教えて貰ったりするのです。


 若い妖精たちは、仕事につかう呪文や仕事のやり方をちゃんと教えてくれるウリョに感謝し、そのうちウリョと同じように眉毛を整え、ヒゲを剃って切り揃えだしました。


 そんな様子をみていた立派な眉毛をもった妖精は「人間の真似をするなんて、妖精の誇りはないのか」と呆れ果てました。


 また、立派なもじゃもじゃヒゲを持った妖精が「妖精の面よごしめ、これだから若い奴らは」と馬鹿にしました。


 けれど、ウリョはへこたれません。


 だってこれでみんなが無駄に死ぬことはないのです。


 ウリョたちは、たくわえられた冬への備えを見て、とてもとても喜びました。


 そしてウリョは若い妖精たちにお礼を言いました。


「良く頑張ってくれました。これで、みんな助かります。本当にありがとう」


 ところが立派な眉毛の妖精も、もじゃもじゃのヒゲの妖精も、昔ながらの家を建てていた妖精も、昔ながらの料理をしていた妖精も、昔から仕事をしていた妖精は、ウリョたちを認めず「わしらの仕事はこれだから」と頑なに仕事をかえませんでした。


 ウリョは一生懸命説明したのですが、やっぱり理解してもらえませんでした。



 やがて、とてもとても寒くきびしい冬と共に、冬の女王がやってきました。


 するとその寒さに耐えきれず、変化を求めなかった妖精はそのままうずくまり木になり、岩になり、壁になりました。


 とてもとても悲しい思いをしたウリョに、冬の女王はいいました。


「変化を受け入れるのは、とてもとても難しいの。新たな一歩を踏み出すには、すごいすごい勇気が必要なの。あなたはその一歩を踏み出す勇気ある妖精だった。だから、あたなをとてもとても、悲しませるかもしれないと思いつつも、あなたにようせいの国を頼んだの。ウリョ、ようせいの国を救ったことを後悔している?」


 ウリョは答えます。


「後悔なんてしてないよ。でも、やっぱりみんなを助けたかったんだ」


 それを聞いた冬の女王は、やさしくもきびしい声でウリョに話しかけました。


「ならば、これから私と行動を共にしなさい。わたしにはあなたの力が必要で、あなたにも私の力がひつようよ」


 ウリョはその言葉を聞いて、こんな悲しい思いをする必要がないのならと冬の女王に付いて行くことにしました。



 その後、冬の女王の傍らにはずっと、眉毛とヒゲをきっちり手入れをした若々しい妖精がいて、この世界の幸せを末永く見守り続けましたとさ、おしまい。






自分がまだ学生の頃に、眉毛を整えてる男をみて『バカ』じゃないかと蔑んでいた。


自分が年を取り眉毛を整えざる得ない状況になって初めて、彼らの行動は自分には理解できなかった『老いへの抵抗』だったのではなかったのかと思い至った。


つまり、自分なんかより彼らの方が『感受性』が高かったんだ・・・なんてのを童話にして見ました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 変化を受け入れるのは時に難しいのでしょうね。 色々と考えさせられるお話でした。
2024/01/02 14:37 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ