第5話〜暗闇の中で〜
どうも、VOSEです。
なんとか書き終えたので、出します。
では、本編どうぞ!
…のどかな港町、ザップー…
主な産業は漁業。これといった観光もなく、町へ行くには鉄道か徒歩で山道を超えるしかない。
元々はノーザンテースト国の町であったが、グラディウス王国がノーザンテースト国を潰すために、この町を占拠した。
しかし、元々小さな町であったため、グラディウス王国も重要拠点の一つとは考えておらず、形だけ特使を派遣しているだけに留まっている。
そのため、今でもザップーは表面上はグラディウス王国に支えながら、裏ではノーザンテースト国のことを今でも忠誠を誓っている。
そんなザップーは今、珍しく嵐が吹き荒れている。
その小さな港町にある、唯一の宿屋『ザップーモーテル』にて…
「ふふふふふ〜ん」
少し太った40代くらいの、『ザップーモーテル』の女将であるオマールが鼻歌を歌っていると…
バン!
と、大きなドアを開ける音が聞こえた。
ヒュゴーという音と共に、マントをかけた2人組が中に入ってきた。
「あら!大丈夫!?」
オマールはすぐにドアを閉め、転がり込んできた2人を椅子に座らせた。
2人組のうち、1人は被っていたフードを外した。
「ありがとうございます」
中から現れたのは、メルンだった。
オマールはメルンを見てひどく驚いた。
「め、メルン様!?あなたがなぜここに!?」
「ここなら、しばらく身を隠せそうなので」
メルンはそう言うと、もう1人のフードを外した。
中からは、ひどく疲れた様子のフランが出てきた。
「ふ、ふ、フラン様!?」
「シーッ!静かに!形だけとはいえ、ここはグラディウス王国の領地です。フラン様がここにいると知れたら…」
「そ、そうですね…とりあえず、今は部屋を用意しますので、待っててくださいね」
オマールはすぐに部屋を準備し、そこにフランを寝かせた。
「…カンペイさん…」
「大丈夫ですよ、お嬢様…カンペイ様は来ます」
自分の大切な弓を取りに行ってくれた寛平を、フランは不安で心配で仕方なかった様子でいた。
その後、メルンは荷物を整理した後、フランの部屋に置いてある椅子に座って仮眠を取った。
「…はぁ…」
フランがため息をつきながら、嵐の夜の雨音を聞いていた…
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…一方の寛平は、嵐の中、ザップーへ向かって走っていた。
「…待ってろよ…」
寛平は足場の悪い獣道を走っていくと、ふと、人の気配を感じた。
「…後方2人…そして…」
寛平はふと、すっとしゃがみこむと、どこからか矢が放たれた。
「…前方に2人…計4人か…」
寛平は腰につけていたナイフを取り出して、木の陰に隠れた。
「おい!見つけたか!?」
「知らねぇ!どこかに消えやがった!」
「嵐の中でも自信あったけどなぁ…どこに消えやがった…」
「お前の鼻もここまでか?」
「んなわけねぇ!」
寛平は襲ってきたやつらの会話から、山賊であろうと考えた。
(ここは…なんとかバレずにここを脱出しないと)
寛平はそっとその場を離れようと立ったその時、落ち葉のがさっとという、なんとも小さな音が鳴った。
それが、山賊の一人が聞き逃さなかった。
「おい!あっちに足音が聞こえたぞ!」
(嘘だろ…!?)
寛平は山賊の耳の良さに驚きながら、道中の先を進んだ。
その寛平が離れた木の下で…
「…ここに座っていたのね…さっきの人…」
「左様でございます、お嬢様…」
ゴスロリ服の女の子と、年老いた執事の人が、先ほど寛平がいた場所に立っていたのだった…
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「…今回の嵐は止みそうにないわね…」
ザップーモーテルにて、オマールがぼそりとつぶやいた。
その時…
ドン!
と、ドアが勢いよくあく音が聞こえた。それと同時に誰かが中に入ってきた。
「だ、大丈夫!?」
オマールが飛び込んできた人に近づいて保護しようとした。
しかし、飛び込んできた人は…
「早くドア閉めてくれ!」
入るなり怒鳴るように叫んだ。
「は、はい!」
オマールは帽子から少しだけ見えた、男の鋭い威圧感のある目とモーテル内に響くような怒号に押されて、すぐにドアを閉めた。
「…ふぅ…」
男はため息を吐きながらフードを取ると、尖っていない耳の男の顔が現れた。
男の正体は寛平だった。
「に、『人間』!?」
「…なんだ?あんた、『人間』嫌いか?」
「そ、そうよ!あんたみたいな人が来たせいで、毎日税金を取られて、このモーテルを経営するでさえ苦しくなったのだから!」
「そうか…それは俺に言わんでくれ…」
寛平はそういうと、周りを一瞥した後、オマールに質問をした。
「…ここに、フラン王女は来てないか?」
「く、来るもんですか!こんなみすぼらしいモーテルに来るわけがありません!」
オマールは怒ったような声で寛平の質問を返した。
「そうか…そいつの側近が、この町に1つだけ宿屋があるって聞いたから、唯一明かりが付いているここだと思ったんだがな…」
寛平は頭をかきながら呟くように言った後、担いでいた弓をテーブルの上に置いた。
「それは…!?」
オマールは両手で口を押さえて驚いた。
「…フラン王女の弓だ。母の形見だそうでな…もし、フラン王女がここに泊まりに来たのなら、これを渡してくれ。炭がついているが、無事に取ることが出来たと言ってくれ」
寛平はそう言うと、再びドアを開け、外へ出た。
「…あの人は…」
オマールがポカンと口を開けて立っている一方で、たまたま盗み聞きしていたメルンは表情を変えず、フランのいる部屋の中に入っていったのだった…
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…嵐の中、外へ出た寛平は町の中をうろつき回っていた。
「…たしかに小さな町だな…それにしては、あの建物だけなんか大きいけど」
木の家が建っている中、海から遠いところに石造りの無愛想な城があった。
寛平はおそらくそこがグラディウス帝国のザップーにおける拠点だろうと考えた。
そして、色々歩き回った挙句、脇の道に着いた寛平は、叩きつける雨の中、そこで座って仮眠を取り始めた。
「…ここなら…」
寛平はこの大雨の中うたた寝を打っていると、自分の元にやってくる気配に気がついた。
「…何者だ」
寛平は小さい声で質問した。
「あら、察しがいいのね」
女の子の声だ。
寛平は特に姿勢を変えることなく、淡々と質問をした。
「…何者かって聞いてる」
「そうね…私はあなたをここに連れてきた神の使い…というのはどうかしら」
「絶対に違う」
寛平は間髪容れずに女の子の言葉を否定した。
「あら、すぐに疑うのね?」
「そんな神がノコノコと来るわけねぇよ。1人にさせてくれ」
「そう…なら仕方ないわね」
そんな女の子の言葉を聞いた寛平は、すぐに目を覚まし、懐に入れていた刀を抜いた。
寛平の目の前には、派手な衣装を着た女の子と、後ろにキッチリとした背広の男がいて、周りを先ほどの山賊達が囲っていたのだ。
「…目的はなんだ?」
「目的?そうね…ノーザンテースト国の王女、フランを奪うことかしら?」
「…奪うだと?」
「そう。それで私達、『テースト連合国』の生贄にさせてもらおうと思って」
「…グラディウス王国の者じゃないのか」
「えぇ。あの野蛮人とはちがうわ。私たちは華麗なるエルフの者よ?」
寛平はここで、目の前にいる女の子の耳が長いことに気がついた。
「華麗か…俺からしたら、グラディウスよりも野蛮な雰囲気が漂うんだけどねぇ…」
「口だけは達者なのね?まぁ、あなたが話さないのなら、私達はここを探すまでよ」
「…くっ…」
少女はそう言って、手を挙げると、周りにいた山賊達が一斉に襲いかかってきた。
寛平はそれを見て、山賊達を迎え撃った。
山賊達のわずかな隙間を見逃さずに切りまくった寛平は、山賊が全員倒れたことを確認すると、すぐさまその場から離れた…
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「…雨が止みませんね…」
ずっと起きていたメルンは、止まない外の嵐を見ていると…
「…メルン様」
オマールが部屋にやってきた。
「なんでしょうか?」
「先ほど、入り口の前にこんな手紙が…」
メルンはその手紙をもらい、内容を確認した。
それを見たメルンは少し、目をつぶった後…
「…オマールさん、あなたの家はここではないですよね?」
唐突にオマールにそう言ったのだ。
「え、えぇ…私の家は、海に近い場所にありますが…今は高波のせいで行けませんよ?」
「私があなたとフラン様をその家に連れて行きます。ここは危ないので」
メルンはそう言うと、荷物をまとめた。
そのタイミングで、フランが目を覚ました。
「…メルン?」
「…王女様、ここは危険です。今からここから離れますので、身支度を」
「で、でも…カンペイさんが…」
「彼は大丈夫です。必ず来ます」
メルンはそう言うと、ふっと微笑んだのだった…
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「…彼が隠れたのはここなのね」
「はい、お嬢様」
先程、『テースト連合国』と名乗った女の子がある一軒の家の前にいた。そして、その家の前には山賊達が構えていた。
「…出撃はいつにしましょうか?」
「今よ。行きなさい」
女の子はそう言うと、山賊達をその家の中に押し入らせた。
山賊達が中に入ると、寛平が携帯口糧を口にしていた。
「…あら、随分と余裕なのね?」
「…もう、後がないみたいだしな」
寛平はそう言うと、携帯口糧を食べ切り、立ち上がった。
「…さてと…お前らはここで終わりにさせてもらう」
「そう?なら、一つ聞かせてくれないかしら?フラン王女はどこへ?」
「…さぁな。少なくとも…この家にはいない」
「…え?」
寛平の言葉に、女の子は素っ頓狂な声を上げた。
「やっぱり、俺が行くところにフラン王女がいると勘違いしてやがる。滑稽なことだな」
「…騙したのですね?」
「さぁな?俺は…守るためにやっただけだ」
「くっ…あなた達!すぐに探しなさい!」
「そう言っても無駄だと思うぞ?」
「なんですって!?」
「ほれ、足元をよく見ないと…」
寛平がそう言ったので、女の子達が足元を見ると…爆弾が置いてあった。
そして、次の瞬間…
ドゴーン!!
…小さな町に大きな爆音が聞こえたのだ。
それと同時に大きな炎と煙が巻き起こった。
「…ふぅ…なんとか逃げ出したわね…」
女の子が間一髪で家から逃げ出し、燃え盛る家を見た。
「あそこまでやるのとはね…あの男、侮れないわよ?」
「そのようです、お嬢様」
「…ここから離れるわよ。じきに兵士が来るわ」
「そうしましょう」
女の子はそう言うと、執事と山賊を連れて山へと戻っていったのだった…
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「…はぁ…はぁ…」
寛平はただ1人、嵐の夜道を歩いていた。
先程爆発を引き起こした張本人は、なんとか命からがら逃げてきたが、爆風などで服が焼け、その場所から血がダラダラと流れ出ていた。
「…慣れねぇもんはするんじゃねぇな…こいつはやべぇや…」
寛平はそう言いながら、町から逃げるように夜道を歩いていた。
しかし、ダメージがやはり大きかったのか、ついには道端で倒れこんでしまった。
「はぁ…はぁ…くっ…逃げなきゃ…フラン王女の為に…」
と、必死で立ち上がろうとするも、残っていた体力すら使い果たした寛平の体は、石ころのようになっていた。
「…もう…ここまでか…早かったな…」
寛平はついに諦め、目を閉じたその時だった。
寛平の体がふわりと浮き上がった。
「…よくぞ守ってくれました。共に行きましょう」
寛平はそんな、安心できる声が聞こえたところで、意識を失ったのだった…
いかがでしたでしょうか?
面白い作品になっているでしょうか?
是非とも、感想等あればよろしくお願いします!
では次回、お会いしましょう!