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いつかどこかで出会えたならば

作者: 紅葉カナ

 メグが死んだ。自殺らしい。メグは中学の頃の友人だ。卒業後は一切の連絡を取っていなかった。二年ぶりの再会だ。メグは高校を中退している。いじめられていたらしい。中学の時もそうだった。その後、定時制の高校に入り直したそうだが、きっとそこでも思うような人間関係は築けなかったのだろう。

 メグの葬儀に来て驚いたことが一つある。彼女の友達として参加を許されたのは私だけだった。入り口でメグの両親に挨拶をしたとき、一度しか顔を合わせたことがないにも関わらず、二人は私のことを覚えていた。娘のためにありがとうと涙ながらに言われた。いくつか見知った顔を見かけたが、ことごとく追い返されていた。同級生というだけでメグの両親の目には、娘を死に追いやった憎いやつとして映っているのだろう。

 メグの悲報を聞いてから今まで、私は一度も涙を流していない。私はもともと感情の起伏が少ない方であるし、何よりも極度のドライアイなのだ。許せ、メグ。他意はない。

『リツは薄情だな』ふと、メグの軽口が聞こえた気がした。中学の頃と変わらない、弾むような、少し高めの声。懐かしい笑顔が頭をよぎる。次々と中学の頃の記憶が頭の中を駆け抜けた。

『同じ塾だったんだ』『宿題どこだっけ?』『また、違うクラスか』『志望校とかもう考えている?』『卒業おめでとう』『高校生になってもお互い頑張ろう』『またね』

「次、君の番だよ」

 隣の席のおじさんがまっすぐ前を指さす。別れ花だ。私は急いで立ち上がった。花でいっぱいになった棺の中を覗き込む。冷たくなったメグを見て、もう永遠に口を開くことはないのだなと、今更ながらに思った。

「バカだな、お前は」

 生きていたら『バカって言うな、バカ』と、私限定で口の悪いメグなら、そう言い返してきただろう。誰にも聞こえていないと思うが、何かお咎めがある前に回れ右をして、その場を離れる。しかし、数歩も歩かないうちに私の足は止まった。目頭が急に熱くなった。透明な液体がこぼれ落ちる。止まらない涙。突然の号泣に、周囲がどよめき出した。みっともなく嗚咽まで鳴らしている。自分を支えきれずに、床にへたり込む。メグに文句を言いたい。でも、この気持ちをどこにぶつければいいのか分からない。だって、メグはもういないのだから。

「なんで死んだんだよ。バカヤロー」

 バカって言うな? お前は大バカ者だ。友達だって? 塾が一緒だっただけだろう。相談にのってくれた? 全部聞き流していたけどな。お前のことをいじめなかった? お前に興味なかっただけだよ。人の内面まで見抜けないから、お前はどこに行ってもいじめられるんだ。

 五分だ。五分だけ、お前のために泣いてやる。辛いことは全部忘れて、とっとと成仏しろよ。もしもまた、いつかどこかで出会えたならば、次こそは本当の友達になろう。

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