89話 主人公、古文書を知る
「やぁ、君がタクミのパートナーだね?初めまして、ミライ。僕はライルだよ。」
「あい!よろしくね!」
ライルは、ミライにもきちんと挨拶する。
こういうところは、とても真面目で良い人なんだよなぁ。
「ところで、今日はどうしたの?なんでここに?」
「リオンとシオンに、ソラからもらったという古文書の現物を見せてもらおうと思って。古文書の全文はデータとして送ってもらったんだけど、上手く文章にならなくてね。」
「ライルでも解読できないことがあるの?」
「古代文字にも種類があって、あまり知られていない文字の場合だと、ほとんど暗号だよ。歴史家は自分の知識と経験で、それを解いていくんだ。だから、最後はインスピレーションが大事になってくる。」
「そういうものなんだ。すごいね。でも、実物を見ただけで分かるものなの?」
「だからインスピレーションなんだよ。その本から感じる何かにヒントがあるような気がしてね。古い遺跡が発見される度に、僕が現地に行くのは、その場所でしか感じられないものを体験したいからなんだ。」
「歴史家って、冒険家みたいなものなんだね。」
「そうだね。未知のものを探すっていうところは一緒かもしれない。僕はこの世界の空白の歴史を明らかにしたいんだよ。」
「空白の歴史?」
「1000年前から800年前までの200年間に関する記録が、何故かとても少ないんだ。それを僕は空白の歴史って呼んでる。その時代に何があったのか?どうして記録がないのか?僕はそれを明らかにしたいんだ。そして、この古文書にはそれに関する記述がある。だから、どうしても解読したいんだよ。」
「そうなんだ。解読できるといいね。」
そんな会話をしていると、リオンとシオンが部屋に入って来た。
「「ライル。持ってきたよ。」」
そう言うと、2人はそれぞれ、古文書を机の上に置く。
「僕達も少しは解読してみたけど、クセが強い手書き文字だし、これって、どこかの少数種族が使ってた独特の文字のようだね。」
「この豪華な装丁からすると、かなり重要な書物だったと思うんだけど。」
リオンとシオンが、それぞれの所見を述べる。
「ちょっと借りるよ。」
ライルはそう言うと、本の中ではなく、外側を念入りに確認する。
「たしかに豪華な装丁だな。でも使い込まれたような後がある。大切に保管されていたような、違うような。中の文字も、シオンが言う通り、クセがあるね。しかも1人が書いたような感じではない?あっ、そうか!もしかしたら!」
「何か分かったの?」
「リオン、シオン。この本をしばらく貸してほしい。このフロアってまだ部屋空いてるかな?しばらく滞在したいんだけど。」
「ジークから許可は得てるよ。このフロアは好きに使っていいってさ。この部屋の向かい側が空いてるから、そこ使っていいよ。」
「ありがとう。じゃあ、借りるね。」
そう言うと、ライルはサッサと部屋を出て行く。
「何か閃いたのかな?」
「たぶんね。昔、ライルが言ってたんだ。古代文字の解読はインスピレーションが大事だって。」
「うん。さっきライルがそう言ってたよ。やっぱり本物を見ないと分からないことがあるんだね。でもさ。紋章システムでデータ解析すれば、同じものがコピーできるんだよね?」
「そうだけど、貴重なものほど、まずは人の手で分析することが多いよ。前にも言ったと思うけど、紋章システムは万能じゃない。不具合がおこる可能性があるからね。再現できずに失われたら困るだろ?」
「なるほどね。セシルさまって、そういうところはキッチリしてるんだね。道具は、あくまでも道具。頼りきってはいけないよってことか!」
「そうだよ。だから、タクミもできるだけ何でも自分でやるようにしてね。まぁ、そのためにミライがいるんだけどね。」
「ミライが?」
「ミライはタクミを甘やかさないってこと。そのためのパートナー精霊だからね。」
「あい!タクミには厳しくするよ!」
厳しくするって……。
自分の子供のように思っていたミライに厳しくするよって言われた僕は、複雑な気持ちなったのだった。
と、そこに急にウサ吉とウサ子が現れる。
「シオン!ジークから連絡だよ!」
「リオン!いい報告がありますぞ!」
それぞれの精霊の報告を待たずに、リオンとシオンが、興奮した様子で話し出す。
「タクミ!この国で一番古い遺跡が見つかったって!」
「ドラゴンの紋様が確認できたから、間違いないだろうってさ!」
「えっ?それって!」
「そうだよ!ソラと約束したんだろ?」
「良かったね!タクミ!またソラに会えるよ!」
「じゃあ、また一緒に行ってくれる?」
僕の言葉に双子がそろって、複雑な顔をしている。
えっ?ダメなのか?
「それが…。僕達はもちろんそのつもりだけど。」
「エア様が一緒に行きたいって言ってるんだよ!」
なんだって?




