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82話 主人公、友人ができる

 


 タムと別れた後、ログハウスに戻ると、リオンとシオンが起きてきていた。ドグーから連絡があったらしい。


「ジルの様子はどうなの?」

 僕の問いに、シオンが即座に答える。

「意識は戻ったようだ。内臓の石化がかなり進んでいるみたいだけど、以前より治療方法が多様化しているからね。そのどれかが効くかもしれない。でもいろいろ試す必要があるから、時間がかかるようだよ。」


「ジルの病状が落ち着くまで、しばらくここに滞在しようか?動けるようになったら、ここに出てきてくれるから。」


「このスカラって施設は勝手に出てきても大丈夫なの?」


「アースにある病院とは違うからね。本人、特にパートナー精霊がいいと言ったら動けるよ。」


 そうなんだ。タムが散歩してたのは、ここではよくあることなんだな。


「ジルが心配だから、ジルに会えるまでここにいてもいいかな?」

 僕がそう言うと、2人とも「もちろんだよ」と快諾してくれた。


 ジルを待つ間、僕はタムと朝の散歩を続けていた。朝のわずかな時間、会話するだけだが、話すたびに仲良くなった。タムはまだ22歳だが、これまで、ひとつ病気が治ると、またどこかが悪くなるということを繰り返しているという。それでも、ひとつひとつ克服してきたと話すタムは、とても心が強い人なんだろう。そして、必ず病気を克服できると信じている。そんなタムの病気が治ると僕も信じている。

 僕達はこうして、短い間だが確実に友情を育んだのだった。



 ジルがスカラに入ってから3日後、ジルがログハウスにやって来た。だが、ジルを待っていた僕達へのジルの第一声は、拍子抜けするものだった。


「おぅ!元気か?」


 元気か?じゃないよ!

 すごく心配したのに、何だよ、それ!


「お前達がスカラに運んでくれたんだってな。ありがとな。もういつ死んでもいいと思ってたけど、そうじゃなかったみたいだ。どうやら俺は、暗黒大陸に行くまでは死にたくないらしい。ドグーには嘘はつけないな。俺の分身だから。」と言って、豪快に笑う。


「じゃあ、治療に前向きになったんだね?」


「おぅ!さすがスカラだよ。俺が前に来た時より、様々な治療方法が確立されてたよ。前に来た時のデータもあるからな。あとは俺の体質にあった治療方法を模索するだけだとよ。望みが出たからな。俺も頑張ることにしたぞ。」


「そっかぁ。良かった。」

 僕はホッとして、それ以上言葉が出なくなる。


「心配かけたな。だが、もう大丈夫だから、もうここに滞在しなくてもいいぞ。お前達には、行くところがあるだろう?」


 ジルの言葉に、ハッとなる。


「そうだ。もうすぐ、エアリーのライブだぞ!せっかくチケットを手に入れたのに、行かないとなったら、俺がエア様に怒られるからな。行ってきてくれ。その間に俺も病気と闘うから。」


「分かったよ。でも、サクラとモミジはどうするの?」


「あいつらには、俺から連絡しておくぞ。まぁ、しばらくは留守番してもらうかな。課題も出してあるしな。」


「そういうことなら、僕達はエアリーのライブに行ってくるよ。」


「おぅ!そうしてくれ。エア様によろしくな。ついでに、グランエアド王国を見学して来いよ。あそこは、日本に似た雰囲気のある街が多いからな。特にライブ会場がある街は、高層ビルが乱立しててゴチャゴチャしたところだ。」


「へぇ、面白そうな所だね。」


「エア様に連絡しておくから、王宮に泊めてもらえよ。部屋がたくさん余ってるはずだから。」

 このジルの言葉に、リオンとシオンがとても嫌な顔をする。


 あっ、たしか前にエア様は苦手だって、言ってたな。


「リオン、シオン。グランエアド王国に行くのは、明日の朝まで待って欲しいんだ。大事な友達に挨拶したいから。」


「いつの間に友達なんかできたのさ?」


「毎朝、一緒に散歩してるんだよ。タムっていう名前で、スカラに入って長いけど、とても前向きなんだ。だから、タムには直接会って、話をしたいんだよ。」


「分かったよ。スカラにいるってことは、2度と会えなくなるかもしれないからね。」


 そうかもしれない。けど、僕はタムには必ず会えると信じている。だって、一緒にイリステラ王国に行って、彼女を作るって約束したからね!


「ジルも暗黒大陸に行くまでは、頑張らないとね。古代神殿を探すんだろ?僕も一緒に行くから!」


「おぅ!俺はそれまでは死なねぇぞ。」


 こうして、僕達はジルと別れた。絶対、次も会うと決めて。


 次の日の朝、タムにもお別れを言った。


「タクミはエアリーのライブに行くだべか!うらやましいなぁ。オラも行きたいだよ!ライブの感想を教えて欲しいべ!」


「もちろんだよ!病気が治ったら、今度は一緒に行こう!」


「んだな。元気になったら、タクミにはオラの農園も見て欲しいだ!」


「わかった。絶対行くよ。約束だ。」


 こうして、タムにもお別れを言って、僕達は、グランエアド王国へと向かったのだった。


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