78話 主人公、名付ける
「良し!コレに決めた!喜んでくれるといいけど。」
僕はそう独り言をつぶやきながら、下に降りていく。
リオンとシオンは、まだ寝ているようだ。昨日遅くまで、あの本を解読していたみたいだからね。
仕方ない。先にジルの工房に行こう。
僕のパートナーであるドラゴンの幼体は、昨夜、ジルに預けた。居るとうるさいけど、居ないと寂しい。それに、やっと決めたからね。早く迎えに行ってあげよう。
喜んでくれるかなぁと思いながら、『先にジルの工房に行ってくる』とメモを残して、僕はログハウスを出た。
ジルの工房では、サクラとモミジがリブロスの改良に熱中していた。朝早くから、夜遅くまでやっているらしい。
この世界には労働時間なんて決まりはないからね。自分の気がすむまで働く事が普通だとわかってきた。
誰かに強制されてるわけじゃないから、こんな働き方も有りかなと思う。
パートナー精霊が食事や体調の管理をしてくれるから、働き過ぎて倒れる人は、余程の仕事好きしかいないという。
好きな時に働いて、好きな時に休む。
なんて理想的な働き方なんだろう!
僕もそこまで没頭できる仕事を見つけたいものだ。
熱中して働くサクラとモミジのモフモフをジッと見つめていると、リオンとシオンがやってきた。
僕の残したメモに気づいて、追いかけてきたようだ。
「リオン、シオン。おはよう。今日もよろしくね。ジルはまだ?今日は遅いね。ちょっとジルの部屋まで行ってくるよ。」
僕はそう言って、二階のジルの部屋へ向かう。
「ジル、まだ寝てる?」
コンコンっと、何度かノックするが、反応がない。不思議に思って扉を開けると、ジルが床に倒れているのが目に入る。
その姿は、ドラゴンの瞳で見たあの映像に酷似していた。
『ゴホッゴホッ…、はぁはぁ。まだだ。まだ頑張れる。アルド様。俺もすぐ、そっちへ行くことになりそうだ。だが、もう少し待っててくれ。コレを仕上げるまでは。ゴホッ…。』
あの映像を見てから、ジルは病気なのか?と疑っていたが、その後そんな映像は見えないし、そんな感じも無く元気だったから、あの映像は何かの間違いかと思っていたが。
僕は慌てて、床に倒れているジルを抱き起す。
「ジル!ジル!大丈夫?」
「うっ、うぅん。」ジルが反応した。
無事なのか?どうなんだ?
起きないジルに不安になっていると、急にドグーが出現する。
「!!!」びっくりした!
「タクミ。ジルをモウ少し寝カセテホシイ。」
ドグーがしゃべった!
ドグーって話せたんだ!
「ドグー。ジルは寝てるだけなのか?本当は病気なんじゃないのか?」
「今は寝テルだけ。だけど、病気カト聞カレタら、そうダト答エルしかナイ。」
「やっぱり病気なのか?じゃあ、早く病院に!」
「ジルがスカラに行くノヲ拒否シテイル。タクミ、ジルを説得してホシイ。スカラに行くヨウニ。」
「スカラ?」
ドグーにスカラの情報を教えてもらおうとしていると、「スカラには行かねぇぞ」とジルの声が聞こえる。
ジル、目が覚めたんだ?
「お前らがうるさいから、起きたよ。」
「それより!ジル、どこか悪いんだろ?スカラっていう所に行けば、治るんだよね?ちゃんと病気治してもらおうよ!」
そう説得するが、ジルは応じない。
「あんな所にはもう二度と行かないぞ。それに、俺はもう充分生きた。満足だよ。後はコレを完成させたら、いつお迎えが来てもいい。」
ジル……。
「それより!お前の相棒をバージョンアップさせておいたぞ!おーい、ドラ蔵起きろー。」
ドラ蔵って!ジルも勝手に変な名前で呼んでるよ!
「ムニャムニャ。ご飯足りない、もっと!」
「おい!眠る精霊なんて、聞いた事ないぞ!やっぱりドラゴンの力を糧にしてるからな。規格外なのか?」
「はっ!タクミ!タクミ!」
目が覚めたようだ。僕の顔を見て、パタパタっと飛んでくる。
こういう姿を見ると、とても可愛い。自分の子供ってこんな感じなんだろうか?
「タクミ!ご飯!」
僕の顔を見たら、すぐコレだよ。
仕方がないので、ドラゴンの力を与える。
「おっ、ちゃんと絆ができているようだな。こいつはお前の分身だからな。大事に育てるんだぞ。新しく透明化の機能を追加しておいたぞ。あとは、コレだ。タクミ、左手の甲を出せ。」
ジルに向かって手を差し出すと、ジルが左手の甲になにやら細工する。
「これは、セシリア王国の紋章だよ。紋章が無いと分かると、変な厄介事に巻き込まれるかもしれないからな。それに、常にドラ蔵が出ていると困る事があるかもしれない。だから、いつでも透明になれるような機能を追加した。透明に見えるだけで、そこに存在するからな。気を付けてくれ。」
「あっ、ありがとう。ジル。」
「おぅ!それより、名前は決まったか?」
そのジルの言葉に僕は思い切りうなずく。
「この子の名前は未来!末永くパートナーでいて欲しいから!ミライだ!」




