70話 主人公、芸術家と会う
ジョセフィーヌは、ワナワナしながら、「ドラゴンに会うのを楽しみにして、全てを投げ出して急いで来てみれば。こんな男がドラゴンだなんて。」と、ブツブツつぶやいている。
なんだか怖いよ、この人!
「タクミ、すまんなぁ。ジョセフィーヌは俺のドラゴン研究仲間なんだ。こいつにだけは、お前の話を先にしておいたんだ。喜ぶと思ったんだが。」と、ヒソヒソ声で、謝ってくれる。
「はぁ。ご期待に添えなくて、僕こそ申し訳ないです。」と、答える。
「あっ、そうだ!せっかくなんで、ちょっと変現しようか?」
「おっ、ドラゴンの姿を見せてくれるか?頼むよ。」
ジルに頼まれた僕は、ドラゴンに変現しようとする。
が、いつも違う感覚に驚く。僕の周りに集まる精霊が、良く分かるようになってる。まるで神経が研ぎ澄まされたような感覚だ。
意識しなくても、これなの?やばいな。そう思った瞬間、僕はもうドラゴンになっていた。
「きゃーっ!ドラゴン!!!本物のドラゴンだわ!」
僕の変現した姿に、ジョセフィーヌが興奮している。
ナニその反応?さっきと全然違う!
まぁ、でも喜んでくれたみたいで良かった。
これで、ジョセフィーヌの機嫌直ったよね?ジル!
そう思ってジルの方を向くと、不思議な光景が見えた。
『ゴホッゴホッ…、はぁはぁ。まだだ。まだ頑張れる。アルド様。俺もすぐ、そっちへ行くことになりそうだ。だが、もう少し待っててくれ。コレを仕上げるまでは。ゴホッ…。」
苦しそうなジル。まさか、これって。
ジルは病気なのか?
その光景は一瞬だった。ソラが言ってた記憶を見るって、コレのことか?
一瞬見ただけだが、ジルの思いも強く感じた。
何としても、これだけは完成させたい。完成までは誰にも邪魔されたくない。
そんなジルの強い思いに、胸が痛くなる。
ソラが軽々しく見てはいけないって言ってたのは、こういう事なんだ。強過ぎる思いを受け止める覚悟がないと、こちらがその思いに囚われてしまう。
ジルの思いを痛いほど感じて、思考が停止していた僕に向かって、ジョセフィーヌが叫ぶ。
「はい!動かないで!イメージがあふれてくるわーっ!スゴイわ!ドラゴンって最高よーっ!!!」
叫びながら、何かを一心不乱に書いているジョセフィーヌ。
その姿を見た僕は目が点になる。
なんだアレ?
鬼気迫る姿は怖いし、挙動不審で怪し過ぎる!
この人とは、友達になれる気がしない!
ジョセフィーヌのおかげで正気に戻ることができた僕だが、素直にお礼を言う気にはなれない。
しばらくすると、「おい、ジョセフィーヌ。もうそれくらいでいいだろ?タクミ!もう人に戻っていいぞ!」とジルが言ってくれる。
ジルのその言葉で、僕はドラゴンから人型に戻る。
なんだか長かったような、そうでもないような、不思議な時間だった。その間、ジョセフィーヌは一心不乱に何かを書いていた。
「タクミ、悪かったな。ジョセフィーヌは、エレメンテ一の造形家なんだが、集中すると、周りが見えなくなるからな。こういうことが、よくあるんだよ。」
「造形家って、具体的に何をする人なんです?」
「形ある芸術品を作る者は、造形家って呼ばれている。今回、ジョセフィーヌに作ってもらうのは、こいつと同じものだよ!」
ジルがそう言いながら呼び出したのは、ジルの精霊のドグーだった。
えっ?ドグー?
それは、ちょっと…。
僕が困っていると、ジョセフィーヌの声が聞こえる。
「私が、そんな貧相な物を作る訳ないでしょ!」
「俺のドグーは、最高の形だ!コレの良さが分からないなんて。これだから、芸術家ってヤツは…。」とジルが文句を言っている。
そんなジルの言葉を無視して、ジョセフィーヌは続ける。
「ジルから、ドラゴンである貴方に相応しい物を作ってくれと頼まれましたの。人型の貴方は平々凡々ですが、ドラゴンの姿は素晴らしかったですわ。ドラゴンに相応しい、見事なパートナーを作ってあげます!感謝しなさい!」
ジョセフィーヌはそう言うと、「私ってなんて最高なのーっ!」と高笑いをしている。
あぁ、やっぱり友達になれる気がしない。
「今回、ジョセフィーヌに頼んだのは、フィギュアだよ。俺は、精霊の働きをする、タクミ専用パートナーを作るつもりなんだな!」
今度はジルが、ジョセフィーヌの言葉を無視して、そう話す。
「僕専用のパートナー?」
「そうだ。本来なら、タクミとタクミに寄り添う精霊が混ざり合って誕生するはずのお前の分身を、人工的に作るんだよ!」
「そんなことができるの?」
「俺に任せておけ!だが、細かい事は、チームのメンバーが揃ってからな。まだ二、三日はかかるだろうから、その間はログハウスで休んでいてくれ。仲間が集まったら、説明するからな。
あっ、ジョセフィーヌは、自分でその辺に自分の家を出すだろうから、放っておいていいぞ。」
それでいいんだ?
じゃあ、お言葉に甘えて休ませてもらおう。色々あって、なんだか疲れてしまった。
だが、疲れ過ぎていた僕は、その日、よく眠れなかったのだった。




