54話 主人公、紋章システムの仕組みを知るー3
「この紋章システムは、昔は、物しか保管できなかったんだ。だが、セシルさまは開発しただけじゃなくて、どんどん進化させていった。そして、物だけじゃなくて、情報も保管できるようにしたんだな。」
「前にリブラで、リブロスってビー玉みたいなもの、見たでしょ?あれは、情報を記録する道具なんだ。」
「タクミに分かりやすく言うと、パソコンの記憶装置と同じようなものだよ。」
双子が補足してくれる。
「セシルさまは、馬鹿でかいリブロスを作って、そこに情報を詰め込んだ。」
「セシルさまは、情報の共有化を目指していたんだよ。」
情報の共有化?
「転生者であるセシルさまは、何度も何度も人として生きるうちに、人が同じ事を繰り返してばかりで、進歩しない事に、だんだん怒りを覚えたって言っていた。」
「人が何度も戦争を起こすのも見たし、絶望で生きる希望を失くす人もたくさん見た、って。」
「セシルさまは転生者だからね。戦争を回避することも、生きる希望を与えることも、過去から学べば、きっと何か方法があるって知ってたんだ。」
ジルがポツリと言う。
「昔、セシルさまは言っていたな。『同じ事で悩んでいる人は世界中にいる。ただ、出会えないから、悩みを分かち合えないんじゃよ』ってな。」
「人はさ。同じような悩みを持った人がいるっていうだけで、安心できるんだよ。例えば、タクミはドラゴンで、このエレメンテに1人しかいないって言われてどう?」
「正直言うと、不安です。ライルが、ドラゴンの寿命は2000年って言ってましたけど、それって、僕だけがずっと生き残るってことですよね。考えないようにしてますけど、もし、どんどん知ってる人が僕を残していなくなってしまったら?怖いです。他に同じような存在がいてくれたら、心強いです。」
「だよね。僕達もそうだったよ。でも、僕にはリオンがいた。そして、リオンにも僕がいた。だから、大丈夫だったんだ。」
シオンが哀しそうな表情で、そう言う。
リオンとシオンも過去に何かあったのかな?いま、156歳だったよな。妖精種と精霊種以外の人の寿命は、長くても100年くらいって言ってた。2人は、友達が先に死んでしまうことを体験してるんだ。
「だからね。世界中を探せば、同じようなことで悩んでる人もいて、その人は解決策を持ってるかもしれない。セシルさまは、そう考えて、情報を誰でも使えるようにした。」
「セシルさまは言ってたよ。同じようなことで悩んで、時間だけを消費していく人をたくさん見たって。情報さえあれば、悩む時間が無くなるって。悩んでる時間は無駄だよ。もっと他の事に時間を使った方が、楽しいよって。」
「そう。だから、このエレメンテでは、少しでも疑問に思ったことは、精霊に聞くんだ。日本でいうところの、スマホやパソコンで検索するってヤツ。」
「何かを思いついた時もそうだよ。まず精霊に聞く。すると、同じような開発や研究が先にあるかを教えてくれる。自分はそれを見てから、開発に取り組める。同じ研究をやってたって、時間の無駄だよね。これによって、エレメンテの技術力は、ビックリするほど発達したんだよ。」
「つまりね。紋章システム内の全てのものは、分析、解析されて、情報として、保管されているってこと。」
「例えば、さっきジルが出したログハウスは、建物のデータ、材質、部屋の形状、全てを紋章システムが把握しているから、出せたんだ。逆に言うと、データの無い物は出せない。アースで使ってたパソコンとかね。」
双子の話を聞いて、ジルがさらに解説する。
「紋章システムがものを出す仕組みはこうだ。何か出して欲しいもの、例えば、さっきの布。俺はドグーに『アレを出してくれ』って言ったが。普通はアレじゃ分からないよな。
紋章システムに精霊が必要なのは、このためなんだな。紋章システムは、便利な道具だが、問題が一つあった。それは、アレを出して、のアレがどういうものなのかを使う人が事細かに指示しないと出てこないっていう、非常に厄介な欠点があったんだ。
さっきの布の場合だと、幅は5センチで、厚さは1ミリ、長さは1メートル、材質は綿、色は白。ここまで細かく指定しないと出てこない。」
「えっ!それは大変だ!」
「だよな。これじゃ、紋章システムを使えるヤツは、ほとんどいなくなってしまうな。だから、セシルさまはそれを仲介してくれる存在をシステムに組み込んだんだ。」
「それが、精霊?」
「そうだ。子供の頃に紋章を授かると、精霊は、紋章の中でその子と同化する。精霊とその子の精神が混ざり合って、このドグーのような精霊が誕生するんだな。ドグーは俺の分身なんだ。だから、俺がアレと言った言葉の意味をちゃんと理解して、俺が望んだものを出してくれるって訳だ。」
「ドグーが、ジルの分身?」
想像した僕は、少し笑ってしまう。
だって、土偶だよ?
「だから精霊は、本人の言うことしか聞かないんだ。というより、本人のことしか知らないんだから、他人の精霊なんて、使える訳ないんだな。」
ん?ちょっと待った!リオンとシオンは、お互いの精霊を使えるよ?
「リオンとシオンは、かなり特殊ってこと?」
僕の疑問にシオンが答えてくれる。
「僕達は産まれた時から、ずっと一緒だったからね。まぁ、それだけじゃないけど。」
「とにかく。精霊は、本人にしか使えない!双子は例外だということを覚えておけ。」と、ジルは話題を変えるように、言い切ったのだった。




