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6話 主人公、転生者の話を聞く

 


「500年前、その時はドワーフ族の男じゃったな。ドワーフ族は職人の一族でな。様々な技術を継承しておった。ただし、一族限定。門外不出というヤツじゃな。我はその技術で紋章システムを作ったのじゃ。」


 セシルさまの爆弾発言に、僕は少しの間フリーズしてしまっていた。


「田中!聞いてますか?わざわざマスターが、話してくれているのです。」

 エルに怒られてしまった。

「すみません。転生者という人は、僕がいた世界には居ないので、ちょっと理解不能でして…。」


「こちらの世界にも居ませんよ。転生者として確認されているのは、セシルねえさま、唯1人です。」

「セシルが転生者だと知っているのは、王と王宮で働いている者だけだ。つまり、日本に行ったことがあるヤツってことな。」

「いいんですか?僕にそんな重要なことを教えてしまって。」

 申し訳ない気持ちで、セシルを見る。


「構わないのじゃ。だって、田中は我の王宮で働くことになるのじゃから!」


 何?なんて言った?セシルさまの王宮で僕が働くって言いました?勝手に決められてるんですけど…。


「まぁ、先祖返りですしね。それが妥当ですね。」

 トールも同意している。

「確かに!俺の国に居たら、間違えて討伐されるかもしれないしな。危ないな!」

 ガルシアも激しく同意。


 僕には拒否権もないようだ。まぁ、仕方ないよね。僕、ドラゴンだし。王宮というからには、きっとお給料もいいのだろう。ちょうど会社をクビになったところだし、それもいいか!

 うん、僕はエレメンテに来てからは、まるで別人のように心が軽くなってるな。これが竜種の精神耐性ってヤツ?


「王宮で働くことはひとまず置いておいて、転生者が何者なのかを説明しようかのぅ。転生とは、どういう意味かわかるか?」

「えっと、生まれ変わりを繰り返す、ということですよね。」

「そうじゃ。我は一度や二度ではない。何度も生まれ変わりをしておる。今回で何回目じゃったかのぅ。」

「今回で103回目です。マスター。」

 エルが即座に答える。

「このエルはの、我が最初に転生する前からの従者じゃ。」


「この世界、エレメンテには大いなる呪いがあってな。我が転生を繰り返すのも、その呪いに関係があるのじゃ。」

「呪われてるから、転生してるってことですか?」

「いや、そうではない。この世界の呪いを解く方法を探すために、転生をしているのじゃ。それと同時に王という、呪われし者を見つけるためにな。」


 王様が呪われてる?

 ということは、ガルシアさまもトールくんも?僕は思わず、2人を見てしまった。


「おぅ、そうらしいな!」

 ガルシアが明るく応じる。

「タクミさん、話は逆なのです。呪われた存在だからこそ、王になるのです。」

 トールが左手の甲を見せてくる。

「あれ?紋章が無いんですか?ガルシアさまにはありましたよね?」

 すると、ガルシアが左手の甲を見せる。

「あれ?ガルシア様も紋章が無い?さっきは服とか靴とか出してくれましたよね?」


「王はな。紋章システムが使えないのじゃよ。」

「いや、でも、さっき、ガルシア様が。」

 砂漠で見た光景をはっきりと覚えている僕は、困惑していた。

「俺たち王はな。朔夜みたいな紋章は持ってないんだ。その代わり、王限定の能力があってな。自分の国にいる限りは、紋章に似た力が使える。だけど、自分の国以外では、無力。何もできない、役立たずが出来上がるのだ!」

 またもや、ガルシアのドヤ顔!


 だから、なんでドヤ顔!自慢することじゃないと思うんだけど。


「そうです。僕たち王は、自分の国に居ないと、王の力は使えません。しかも、自国であっても、王宮の中では使えないのです。だから、王を助ける仲間が必要なのです。朔夜はガルシア様を手助けするために、この王宮で働いてるのですよ。」


「そう、この王宮のオカンとなるべく、俺が勧誘したのだ!」

「誰がオカンやねん!自分は仕方なくガルシアさまの面倒を見とるだけや。」

 朔夜が呆れたように反論する。



(われ)はな。このエレメンテの呪いを解くために、転生を繰り返し、呪われし者を見つけるために、紋章システムを開発したのじゃ。」


「タクミさん、こちらの世界に来るときに、あなたに(まと)わりついていた黒い影を覚えていますか?」


 あのドロドロとした、気持ちの悪いもの。アレに包まれていると、自分の全ての感情が制御不能で、ひどく暴力的な感じに囚われていたような。


「タクミさんに付いていた影はグールと呼ばれています。グールもエレメンテの呪いの一つです。ヒトを消費して、怪異(かいい)を誕生させ、ヒトを襲います。」


「ヒトを消費する、って…。」


「はい。グールは取り憑いたヒトの本性を刺激して、全ての感情を爆発させます。グールは、感情の爆発を食べることによって、こちらの世界で怪異と呼ばれている化け物を誕生させるのです。グールに取り憑かれたヒトは、まず助かりません。深く根付いてしまったら最後、確実に怪異の糧になるのです。タクミさんが助かったのは、運が良かったにすぎません。」


 そうだったんだ…。


「ドラゴンで命拾いしたな〜、タクミ!」ガルシアが明るく言う。


「グールはな。なぜか異世界、特に日本に多く発生しておる。田中よ。日本にはたくさんの神様を信仰する風習があるな?」


「う〜ん。信仰とは違うと思いますけど。宗教ごちゃ混ぜになってますね。

 クリスマスは街中がイルミネーションで光り輝くし、お正月は神社にお参りして、お盆にはお寺に行くし、最近はハロウィンとかイースターとかも盛り上がるし。日本はイベントが盛り上がれば、神様とか関係ないんですよ。節操ない感じです。」


「田中よ。節操がない、は間違いじゃ。様々なものを取り入れることができるのは、寛容、というのじゃよ。」セシルが少し考え込む。


「うむ。言葉を間違えたかのぅ。日本には確か、八百万の神を信仰する風習があったと思ったが。」


「山には山の神様が、海には海の神様がいる、というヤツですか?」


「そう、それじゃ。日本には、全ての物に神が宿るという考えがあるな。それはエレメンテの精霊と同じなのじゃ。エレメンテでは、全ての物に精霊が宿る。日本では、全ての物に神が宿る。似たような考えがあるからか、日本は、エレメンテへの扉が開きやすくてのぅ。だから、我らは日本に滞在して、グール狩りをしているのじゃ。」


「タクミさんは、もしかして○×商事にお勤めだったのではないですか?」

「えっ、トールくん。なんで知ってるの?」


「あそこの会社に勤めている者が、よくグールに狙われるのじゃよ。あの会社はいわゆるブラック企業というヤツじゃな?」

「えっ?僕がいた部署は、みんな、そんなに残業してませんでしたよ。ノルマも特別キツイものでは、なかったと思いますし…。僕は、中途採用だから、早く仕事に慣れようと、残業してましたけど。」


 そうだった。最後まで残業してるのは、僕一人だけってことがよくあったな。


「残業代は、出てなかったじゃろう?田中がいた会社はな。中途採用者を生贄に使っておるのじゃ。」


 生贄?

 どういうこと?確かに残業代は無かったけど、それは、僕が中途採用だから、慣れるまでは出ないのかなぁって。でもソコソコのお給料出してくれてたし。


 採用の時には、貴方の力を弊社で十分に発揮してくださいねって、言ってくれて、落ちまくっていた僕はその言葉に感激したのに。


「生贄ってどういう意味ですか?」


「あの会社に中途採用されるのは、決まって気弱そうで真面目な感じの者ばかりじゃ。言われたことを素直に実行し、口答えなんか、絶対しない感じの者を、使い捨てるために採用するのじゃよ。都合の悪いことが起こると、ソヤツの所為と言って責め立て、辞めさせるのじゃ。あくまでも自己都合でな。

 そして、こう言うのじゃ。これだから、中途採用は!っとな。」


 !!!


『田中!お前には責任を取ってもらうからな!これだから、中途採用は…。』

 あの時、上司はみんなに聞こえるように言ってた。


「中途で採用された者は、少しでも早く仕事に慣れようと、無理してでも働いてくれる。だから、今までいた社員を無理して働かせるより、効率がいいのじゃ。さらには、頑張らないとお前たちもこうなるぞ、という脅しにもなるしな。」


「いやっ、でも、あの会社の採用担当の人は、なんらかの事情があって前の会社を辞められた方にも力を発揮して欲しいので、積極的に採用してますって言ってましたよ。特に資格とかも無い僕でも、それなりのお給料出してくれたし。だから、とてもいい会社だなって。」


「それなりの金を出しておけば、少し無茶な仕事でも頑張ってくれるだろうし、辞めさせる時も後腐れがないじゃろう。」


「何ヶ月かに1人、あの会社から出てくるヒトにグールが纏わりつくことがあります。とても落ち込んでいたり、精神的ショックが大きい事があったり、というヒトをグールは狙っているのです。僕たちは気配がする度に、グールを蹴散らしに行っていました。深く憑かれる前ならば、救うことは可能ですから。」


「田中の話じゃと、これからも中途採用者を使い捨てることは止めないだろうのぅ。そろそろ、潰しておくべきかのぅ。」


 セシルが何かを小声でブツブツ言っている。なんか、聞いてはいけないことを言っているような…。


「まぁ、そういうことでな。田中には、日本でのグール狩りをしばらく手伝ってもらうかのぅ。」

 それはいいですけど。

「あっ、僕、仕事をクビになったので、新しい仕事を探さないと。もう実家は無いですし。会社が用意してくれた単身用のマンションに入ってたので、住むところも見つけないと。」


 祖母が亡くなったときに、実家も売りに出して、今はもう無い。あの家は、色々な思い出が多過ぎて、住むのがつらかったのだ。


「それならば、大丈夫じゃ。我の王宮で働いてもらうと言うたじゃろう。」


「朔夜の後輩ができたな!タクミに王宮のこと、いろいろ教えてやれよ!ガハハ!」ガルシアが朔夜に声をかける。


 あっ、そうか。朔夜さんみたいな仕事かぁ。でも、僕、料理はあまり上手くない。掃除くらいなら、なんとか。それでも大丈夫かなぁ。


 そうだ、肝心なこと聞かなきゃ。


「朔夜さんは、この国に雇われているということですよね。お給料はどうなってるんですか?」


 こんなすごい王宮に雇われているのだ。きっとたくさんお給料を貰っているに違いない。僕も朔夜さんの半分くらいは、貰えたらなぁ。


「お給料なんて無いで。」朔夜があっさりと言う。


 !!!


「タダ働きなんですか?ブラック企業よりヒドイじゃないですか!」


 僕は憤って、声をあげる。僕が働いていた会社も残業代は無しだったけど、それなりのお給料は出ていた。


 そこにセシルが、あり得ない言葉を言い放つ。


「田中よ。この世界にはな。もうカネという仕組みは無いのじゃ。」





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