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53話 主人公、紋章システムの仕組みを知るー2

 


「で、タクミはどこまで理解してるんだ?」

 ジルが、謎のコーヒーもどきを飲みながら、聞いてくる。


「「全然だよ!」」

 僕の代わりに双子が答える。


「そうか。じゃあ、子供達が習うレベルからだな。」

 ジルは僕の方を見ると、ドグーを呼び出す。そして、「アレを出してくれ」と指示する。


 すると、ジルの左手から、ガムテープのような幅の広い布が現れる。それを僕に渡すと、布の端と端に何でもいいから同じマークを描くように言う。


 布の長さは1メートルくらいだろうか。僕は言われた通りに、両端に星マークを描く。


「じゃあ、タクミ。そのマークを重ねてみてくれるか?」


 マークを重ねる?


 僕は片方の星を、もう一方の星に重ねる。布の真ん中が垂れ下がっている。


「紋章システムの基本はコレなんだな!」と、ジルが軽い感じで言う。


 コレ?


「いまタクミが描いた星のマークが、紋章だ。セシルさまが開発したのは、同じ紋様があるもの同士を繋げるっていう発明だったんだよ。」


 僕は布の星マークを凝視する。


「セシルさまがドワーフ族だった時に、一族秘伝の方法で開発したって話だ。で、その秘伝ってのが、この紋様にあったんだな。」


 ジルの話を聞いた双子が、さらに続ける。


「ドワーフ族ってのは、元々、鍛治職人の一族で、色々な鉱物の扱いが上手かった。そして、ある特殊な鉱物に、特定の紋様を描くことで、不思議な力を発揮することに気付いて、それを一族の秘伝にしてたんだよ。」


「その時代は、戦争が多かったからね。ドワーフ族は、その秘伝で様々な武器や防具を作って、売っていたんだ。炎の力を宿す剣や物理攻撃耐性を持つ防具なんかをね。」


 ドラ◯エとかで良くあるヤツだな。


「でも、セシルさまは武器や防具じゃなくて、その秘伝で違う物を作った。争うための道具ではなく、人を幸せにするための道具をな。

 まず、セシルさまは、ある特殊な鉱物で扉を2つ作った。タクミ。その扉を開けると、どうなるか分かるか?」


「まさか?

 もう一方の扉につながるってこと?」


「そうだ。その扉は空間を繋げる力があったんだな。いまタクミが持ってる布の状態と同じだ。どんなに離れていても、繋がるんだよ。不思議だよな。

 で、その技術を応用して、この紋章システムを開発したんだ。」


 なるほどなぁ。


「初期の紋章システムは、空間を繋げるだけだったから、Aに保管してあるものをBで出すってことしかできなかったんだよ。例えば、ウサ吉、このお茶を保管して。」

 リオンがそう言うと、ウサ吉がリオンの目の前にあるコーヒーもどきのカップを消す。


 カップはどこにいったんだ?本当にどんな仕組みだよ?


 すると次は、シオンが「リオンのカップを出して」とウサ子に指示する。


 目の前に、いま消えたカップが出現した。


「これは、正真正銘、同じカップだよ。」


 Aで保管したものを、Bで出すってことだな。


「初期の紋章システムは、そうだった。で、今はここまで進化してる。ウサ吉、ダグザ茶を出して。」


 リオンの言葉に、「ダグザ茶は、さっきのコーヒーもどきの飲み物の名前だよ。」とシオンが教えてくれる。


「はい、これが本物のダグザ茶だよ。」リオンが空中に出現したカップを、僕の前に置いてくれる。


 その匂いを嗅いだ僕は驚愕する。


 何これ!さっきのコーヒーもどきとは、全然違う!ものすごくいい香りだ!


「今の紋章システムは、ただ物を出すだけじゃないんだよ。最適な温度、抽出の仕方を判断して、さらには、個人の好みを覚えて入れてくれる。」


「もうちょっと濃い目がいいかな。」

 僕の前にあったダグザ茶を飲んだシオンが、そう言う。


 あーっ!僕が飲もうと思ってたのに!


「つまり、今の紋章システムは、加工が可能になったってことだな。Aに保管してあるものをBで出す時に、個人の好みを精霊が判断して、加工して出してくれる。」


「でも、それって、どういう仕組みなの?」

 理論までは理解できないけど、なんとなくの仕組みは理解しておきたい。


「タクミってさ。3Dプリンターって知ってる?」と、リオンが唐突に言う。


「データを元に、立体物を作ることができる機械ですよね?」


「タクミってば、良く知ってるじゃん!意外ー!」


「少し興味があったので、調べたことがあるんだよ。僕だって、ちゃんと社会人してたよ!」


「タクミってば、年の割に受け答えが幼いから、社会人してたことが信じられな〜い。」


 幼い…。そんな風に思われてたんだ。

 少し落ち込む僕に、ジルが声をかける。


「タクミは今、35歳か?ドラゴンにしたら、その年齢はまだまだ子供だよ。それに、ドラゴンは何にでも興味を示す、好奇心旺盛な存在だからな。高齢なドラゴンでも、子供みたいな感じだったらしいぞ。」と、ジルがドラゴンについて解説してくれる。


「ジルは、ドラゴンのことも詳しいの?」


「おぅ。俺は古代神殿とかが大好きだからな。ドラゴンのことも調べたことがあるんだな。ドラゴンは、古代神殿にしか記録が残ってないんだ。昔は大勢いたらしいんだが。どこに行っちまったんだろうな。」


「セシルさまは、もうこの世界には、純血のドラゴンはいないって言ってました。僕も、同じドラゴンである人と会ってみたいんですけどね。」


 言われてみれば、ドラゴンだということが分かってから、いろいろなことに興味津々だ。これが、ドラゴンの性質ってことかな?


「で、3Dプリンターみたいってどういう事?」と、僕は気になっていた話の続きを双子に促した。


「ん?だからぁ、今の紋章システムは3Dプリンターみたいなものって事だよ!」




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